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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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64.幸運なファルケンハイン

第13歩兵大隊が守るザムセン東方の防衛線を突破した海兵陸戦隊は防衛陣地右翼側、つまり海岸沿いから防衛線中央を包囲するように進出し、ザムセン東方防衛陣地全体を掌握した。最後の海軍砲艦隊の砲撃から敵は防衛陣地を放棄して後退していった様だったが、それはつまり後退した先には収容陣地か何かがあるに違いない。慎重に探りを入れながら前進していた海兵陸戦隊の元に命令が届いた。それは海兵陸戦隊及び第八歩兵師団への前進停止命令だった。


「前進停止だと!?こんな所で止まってどうするのだ!」


「分かりません!ですが、緊急の上、最優先命令です!」


「戦いは勢いだ。今この勢いを止めるなぞ、愚か者の為業だ!」


「しかしザームセン公爵から直々の命令です!恐らく何等かの情勢の変化があったのかと……」


ようやく突破した敵防衛線の真ん中で海兵陸戦隊のファルケンハイン中佐は、副官のパーペン大尉と共に前進停止命令によって何時迄ここに停止しなければならないのか、という憤った気持ちを抱えたまま、周辺を観察していたが、直ぐに情勢の変化とやらに関する理由が判明した。


「なっ……!! み、港に巨大な水柱がっ!!」


パーペン大尉の叫び声と共に、ファルケンハイン中佐は足元の地響きと共に港に立ち昇った巨大な水柱を見た。そうか、どこか敵艦隊がヴァント軍港内の第三艦隊を攻撃しに来たのか!? だが一体どこの艦隊だ?……まさか、ニッポン軍が遂に動いたのか? ファルケンハインが様々な想像をしていたその場に伝令がやって来た。


「ロトヴァーンの第二艦隊が敵に回りました! 現在、ヴァント軍港の第三艦隊が攻撃を受けております!!海兵陸戦隊ファルケンハイン連隊は、急ぎヴァント軍港に戻れ、との事です!!」


「なんだと!? ここはどうするのだ!?」


「後続の第8歩兵師団と交代せよ、との事です。」


救援だと?何の救援だ?

……陸に上がった海兵が艦隊に対して一体なんの救援だ?


だがファルケンハイン中佐の疑問は直ぐに解けた。ヴァント軍港は砲撃によって凄惨な状況となっていた。艦に当たらなかった砲弾は消えて無くなる訳ではない。ヴァント軍港とその周辺は外れた砲弾によって建造物が崩壊し、そこらには艦艇を降りた所で砲撃にあった海兵達があちこちで呻いていた。沖合には第二艦隊がこちらに向かって砲撃を行っているのが見え、装甲艦バイエンフルトに砲撃が直撃し、バイエンフルトは大爆発を起した。港内では第三艦隊が動けないながらも第二艦隊に向けて砲塔を向け、反撃を開始しつつあった。


「こ、これは……ロトヴァーンめ、よくも!!」


「ファルケンハイン中佐!ヴァントの海軍司令部からの呼び出しです!!」


「海軍司令部は未だ無事なのか!?」


「健在です!ザームセン公爵の元に御急ぎ下さい!!」


「了解した!」


急ぎ海軍司令部に行くと、司令部内は大混乱に陥っていた。

ザームセンは戦艦ヴォールガルテン出航に集中し、他の艦艇から全ての兵を降ろそうとしていたのだが、戦艦ヴォールガルテンはその命令に従わず、第二艦隊への攻撃を開始していた。


「ファルケンハイン、参りました。」


「来たか、ファルケンハイン中佐。現状は見ての通りだ。急ぎ貴様にやって欲しい事がある。貴様の部隊は戦艦ヴォールガルテン以外の艦艇から乗員を全て撤収させろ。それと貴様はヴォールガルテンのオステルカンプ大佐の所に行け。命令に従わぬようなら逮捕しても構わん。」


「公爵閣下、その…外は、港内の状況はご覧になりましたか?」


「何? どういう事だ?」


「ヴァント軍港内は下船した乗員達が敵の砲撃に晒されております。下手に降りると更に犠牲者が増えると思われます。既に下船のタイミングは過ぎ去っており、今は反撃が唯一有効な手段かと愚考致します。」


ザームセンの顔色が瞬時に変わった。ファルケンハインは焦りと動揺で、直ぐに自らの提案を引っ込めようとしたその時、背後で起きた歓声と報告内容によってザームセンの怒りは静まった。


「戦艦エールヴァルト、敵装甲艦を撃沈!!初撃で当たりました!!」

「戦艦エッシェンローエの砲撃で、敵駆逐艦撃沈!!同じく初撃です!!」


ザームセンの司令部は沸き立った。そしてこの報告を受けたザームセンもまたこの空気に支配され、当初の命令を引っ込めたのだ。


「ファルケンハイン、先程の命令は取り消す。貴様の部隊は再度ザームセン中央への攻略に向かえ。」


「承知致しました。」


だが、この時呼び出された事によってファルケンハインは命拾いしたのだ。交代でザムセン東方陣地に乗り込んだリンベルク少将率いる第8歩兵師団は、無傷の状態で前進を続けザムセン中央に至る第二防衛線に近づきつつあった。だが、そここそは以前エウルレン南で凄惨な罠に落ちた第一軍を彷彿とさせる地獄の入口だったのだ。


ファルマー少将は、ザムセン東方の侵入口正面を第一歩兵師団の第13歩兵大隊で防衛陣地を構築した。だが、この防衛線をザムセン中央よりに1km程進むとすり鉢状の地形となり、そこを超えるとザムセン外周市街地に入る。そしてここがファルマー少将が再現したエウルレン南と同様のキルゾーンだったのだ。このすり鉢外周に沿って、右翼と中央を狙撃部隊と野戦砲兵、そして突入用のブレーゼン大佐の連射銃大隊が左翼陣地で待ち構えていたのだ。


第8歩兵師団はこの陣地手前から大きく広がりながら進んでいた。或る程度進んでいるにも関わらず、攻撃してくる気配も無い。ファルマー少将は、敵の意図を掴みかねていた。だが直ぐに後退出来ない程に部隊が進んだ頃に突然第8歩兵師団の真ん中で爆発が発生した。そして、この爆発が合図だったかのように地獄の釜が開いた。

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