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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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63.ヴァント軍港の戦い

「第二艦隊旗艦ブーヘンベルグを確認!! 発砲しました!!」


ロトヴァーン侯爵の第二艦隊はヴァント軍港を射程に捕らえた瞬間に発砲を開始した。未だ準備の整わないヴァント軍港内の艦隊には突然の艦隊の出現と砲撃にパニックが広がっていた。


「未だ出港出来んのか!このままだと良い的だ!!」


「まだ缶の圧が足りません!」


「くそっ、ロトヴァーンめ!こちらに返事をせん理由はこれだったのかっ!!とにかく出航可能な船を直ぐに出航させろ!このままだと港の中で艦隊が壊滅するぞ!!」


ロトヴァーンの第二艦隊は半個艦隊分しかこの海域に来ていない。それは駐留しているムルソー港を守備する為に艦隊の半分を置いてきた為だが、それでも自由に攻撃可能な半個艦隊はヴァントに駐留している動けない第三艦隊にとっては恐るべき脅威だった。先程までの情勢では、頑強な第一軍の防衛線を遂に突破し、海兵陸戦隊と第八歩兵師団がザムセン東方に突入、そしてこのハイントホフの第三艦隊がザムセン周辺に遊弋する事によって第一軍の抵抗を挫ける算段だった。だが、現実にはヴァント軍港の中で動けないままに砲撃を受けている。せめて防衛線攻撃に出航した砲艦隊が戻って来たならば、攻撃も分散されるのに。


「どうやら第三艦隊の出撃前には間に合ったようだ。とにかく撃てるだけ撃ち続けよ。第三艦隊は出航準備段階だ。決してハイントホフの艦隊を港から出すな!」


ロトヴァーンの第二艦隊は、半個艦隊とはいえ2隻の戦艦、3隻の装甲艦、8隻の駆逐艦を引き連れていた。港に繋がれていた第三艦隊には3隻の戦艦、4隻の装甲艦、12隻の駆逐艦、そしてザムセンに向かった20隻の砲艦が所属している。二線級の船舶で構成されていた旧第七艦隊などは帆機船も戦力化していたが、第三艦隊は全て最新鋭の動力艦で構成されていた。つまり全てが蒸気動力船なのだ。これは逆に言うと缶が温まっていなければ、出航も何も出来ない。そして、今の段階で第三艦隊で出航可能なまでに出力が上がっているのは砲艦だけに過ぎず、なんとか駆逐艦がもう少しで出航可能な段階だったのだ。


そして第二艦隊からの砲撃は、真っ先に移動可能になるだろう船からだった。大きな船程、ボイラーの缶を温めるには時間がかかる。それ故に小さな缶を持つ船は先に出航が可能となる。その為、大きな船を放置しても直ぐに動き出す事が出来そうな小型の船から優先的に攻撃を行っていたのだ。


「駆逐艦ロットウムに被弾!喫水線に着弾穴確認、上部甲板に火災発生。消火作業中……これで全ての駆逐艦が行動不能になりました。」


「奴等は出港準備が整いそうな船から順に攻撃しておる。次は装甲艦を攻撃してくるだろう。港内全ての装甲艦乗員は出港準備を中止、全員退艦せよ。戦艦ヴォールガルテンの出港準備のみに集中!」


ハイントホフはロトヴァーンの優先攻撃目標が出港可能な船から潰そうとしている事に気が付き、装甲艦を諦めた。それでも停泊状態にある艦艇達は手動で砲を動かし、何とか反撃しようとしていた。だが、動力が効かずに手動で反撃を行うには発射速度に雲泥の差が出る。通常では5分で1発程度の射撃能力も、手動ではその倍以上の時間がかかる。その為ハイントホフは余計な被害を嫌って装甲艦乗組員への退艦を命じたが、反撃中の乗員達へ命令は届かない。


「装甲艦バイエンフルトに攻撃集中! バイエンフルトは未だ砲撃を継続中です!」


「何をやってる!! ヘルマー中佐に総員退艦を急がせろ!!」


「発光信号を送っていますが、応答ありません!!」


既に装甲艦バイエンフルトの艦長ヘルマー中佐は退艦命令を出しており、総員退艦を実行中だったが後部第三砲塔のみが退艦命令に従わず、第二艦隊への反撃を続けていた。この砲撃によりロトヴァーンの駆逐艦エッシャーが被弾し、第二艦隊はバイエンフルトに攻撃を集中しつつあった。だが、この第二艦隊の攻撃集中により戦艦ヴォールガルテンは貴重な時間を稼いだ。


ロトヴァーンの第三艦隊主力となる戦艦2隻は240ミリクラスの砲を有する。そしてガルディシア海軍としてはこの戦艦の砲は二線級の物だった。対するハイントホフの第二艦隊は最新鋭の300ミリクラスの砲を装備していた。つまり第三艦隊の戦艦は、ハイントホフの戦艦を無力化出来ない可能性が高い。だからこそ港の中で行動不能にしておきたかった。だが、未だ港内で動けないままの戦艦ヴォールガルテンは、装甲艦バイエンフルトが行った反撃を見て手動で砲塔を動かし始めた。


「ヴォールガルテン!!何故砲塔を向け始めた!!あれでは奴等の攻撃がヴォールガルテン に集中するではないか!!止めさせろ!! オステルカンプ大佐に信号送れ!!」


「ヴォールガルテンから発光信号! 我未だ出港準備成らず、然し乍ら是より反撃を開始す。」


「バイエンフルト後部砲塔に被弾!!ああ、バイエンフルトが…」


反撃を行っていた装甲艦バイエンフルトは後部砲塔に直撃を受けた。砲塔を貫いた砲弾は装薬庫と弾庫を直撃し、バイエンフルトの後部から大爆発が発生した。この大爆発によってバイエンフルトは艦の後方が脱落し、そのまま艦首を上にして港内に着底した。この影響で近隣に停泊中の装甲艦ゲーベンが横倒しになった。既に総員退艦済みだった為、人的被害は無かったが、ゲーベンが横倒しになった事により、その奥に停泊していた艦艇は出撃不可能となった。


「そ、装甲艦ゲーベン転覆!バイエンフルトは艦部後方が脱落して着底しました。」


「ヴォールガルテン、砲撃開始しました!!」


戦艦ヴォールガルテン艦長オステルカンプ大佐はバイエンフルトの砲撃を見て、直ぐに反撃を命じていた。どうせ死んだふりをしていても連中は攻撃を止めない。装甲艦への攻撃が終われば次はこの戦艦への攻撃を開始するだろう。だが、連中の船は二線級の240ミリクラスだ。何発か喰らっても我々の装甲は貫けん。であるならば直ぐに反撃を行って連中の戦意を挫いた方が早い。ハイントホフ司令もこちらが連中を殲滅した暁には、こちらの正しさを知るだろう。


「全砲塔!敵第二艦隊旗艦ブーヘンベルグを狙え! 奴を倒せば連中は逃げ帰るだろう。良く狙え!」


「発射準備完了です!」


「ブーヘンベルグ発砲閃光!我が艦周辺に着弾!!」


「お返しをくれてやれ!」


第二艦隊旗艦の戦艦ブーヘンベルグ周辺に巨大な水柱が上がった。明らかにブーヘンベルグが放つ砲撃よりもヴォールガルテンの水柱の方が高い。ロトヴァーンは周辺に立ち昇る巨大な水柱に戦慄した。だが第二艦隊に有利な点は動き回っているという事だ。それに対し第三艦隊の戦艦達は如何に強力な砲を持っていても、その場から動けないのは致命的だった。


「戦艦エールヴァルト及びエッシェンローエ、砲塔旋回を開始!」


「なんだと!? どいつもこいつも…」


第三艦隊の旗艦ヴォールガルテンは最新鋭だったが、エールヴァルトとエッシェンローエは、ロトヴァーンの第二艦隊旗艦ブーヘンベルグと同世代の240ミリ級の主砲を持つ。つまり、動けない状態で撃ち合うなら不利な事は明白である為、ヴォールガルテンでの反撃に集中させる為、他の艦を退艦させていたのである。だがヴォールガルテンの反撃を見た両戦艦の乗組員達は退艦命令に従わず、反撃を開始しようとしていた。そして、それは或る程度成功した。


ロトヴァーンの第二艦隊は、両戦艦からの反撃により装甲艦1隻と駆逐艦1隻を同時に失った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 海戦で立場的優勢を取れるのは大きいですね。性能以上に先制の取り方で戦いの主導権がどちらに移るのかが分かりやすい… ところで兵器に関する設定集とか書かれる予定は無いのですか?備忘録としても役に…
2021/05/09 18:46 退会済み
管理
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