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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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61.ザムセン東方防衛線の崩壊

一度ザムセン東方防衛ラインから撤退したザームセンの海兵陸戦隊は体勢を整えた上で、海軍の砲艦と共に再度防衛線の攻略を行うべく接近しつつあった。そしてそこを守備するドラクスルの帝国陸軍第一軍第13歩兵大隊にとって最悪な事に、ハイントホフ公爵の第三艦隊先遣隊がヴァント港で出航準備が完了したのだった。この先遣隊はボイラーが小さい為、比較的早く出港準備が整った数隻の砲艦だった。ザームセン公爵からの催促もあっての大わらわな出航準備だったが、ザムセン東方の防衛線への砲撃であるならば必要にして十分の弾薬を積んでいた。そしてネール中佐率いる砲艦隊に合流し、再度ザムセン東方に向かっていた。


ザムセン東方の防衛線では、海軍陸戦隊の探りを入れるような攻撃を受けつつも善戦していた第13歩兵大隊だったが、沖合に接近する砲艦隊の姿を見てボルツ少佐は絶望した。


「奴等、砲艦を増量してきやがった。……ここはもう駄目だ。」


「しょ、少佐、如何いたしますか!?」


「可能な限り、被害を受けない様に撤収するぞ。後方司令部に伝令!第13歩兵大隊防衛線に敵砲艦接近中、その数20隻以上。後退の許可を求む。行け!」


敵砲艦は未だ射程距離には入ってはいないが、程無く射程距離に入るだろう。あの砲艦の主な攻撃方法は臼砲だけにかなり接近しなければ射程距離には入らない。その時間差を利用して後退をする。だが、目の前の海兵陸戦隊が大人しく後退させてくれるだろうか。


「第二中隊、第一中隊の後方に回れ。第四中隊は現在の位置から50m後退せよ。第一中隊は前方の敵に間断なく射撃を続け、第四中隊の後退を援護しろ。」


「ボルツ少佐、右翼を後退しても大丈夫ですか?!」


「どうせ右翼はあの砲艦の射程に程無く入る。抵抗も出来んのに居る価値は無い。それならば反撃可能な位置まで後退してやり過ごす。第四中隊の後退を急げ!!」


果たして反乱軍の砲艦隊が防衛陣地を射程に収め、砲撃を開始したが既にその陣地は空だった。そして砲撃が止む頃に海兵陸戦隊が前進してきた所を後退した右翼の第四中隊と中央の第一中隊によって再度の排除を行った。だが、これがボルツ少佐の有効な反撃の最後だった。


「少佐!!敵砲艦がかなり浅瀬の所まで接近しています!!あそこからは中央までも狙われます!」


「む。座礁も構わず接近してきたか。来たのは何隻だ!?」


「現れた全砲艦が接岸ぎりぎりまで接近しています。22隻全てです!」


「22隻……もう駄目だな。司令部からの返信は未だか?!」


「少佐…現有戦力を以って当該地点を死守せよ、との事です……」


「はぁ!?上等だ!死守してやる。死守してやるとも!! だがここを死守するのは俺だけだ。お前等は後退しろ!!負傷した兵の後送に関しては俺が独自の判断で行える様に許可を得てる。貴様等は負傷兵だ。負傷した兵一人に対して4名を補助に付ける。直ぐに後方に負傷兵を連れて行け!」


「しかし少佐、それでは?」


「お前等は俺に付き合うなよ、命令だ。最後の命令位は聞け。」


こうして第13歩兵大隊陣地からは大量の兵が後退した。幸いな事に兵の後退は砲艦からの砲撃によって巻き上げられた砂埃がカモフラージュとなり、反乱軍には察知されなかった。砲撃が止む頃には直撃を受けては居なかったものの、爆発の衝撃や飛んできた破片等でボルツ少佐は重症を負っていた。既に左半身に爆弾の破片が突き刺さり、ほぼ身動きが取れなくなっていたボルツ少佐だったが、その状態からボルツ少佐は自らの周辺に爆薬を張り巡らして隠れていた。


敵海兵陸戦隊が再び探るように接近し、防衛陣地右翼側に侵入を開始しても、防衛陣地からの反撃は無かった。防衛陣地に入り込んだ海兵陸戦隊は、第13歩兵大隊中央の陣地も空になっている事を確認し、敵は後退したものと判断した。そこで海兵陸戦隊は信号弾を打ち上げ、後方に待機している海兵隊本隊に前進の合図を送った。そしてザムセン東方の第一防衛線たる第13歩兵大隊陣地を突破しようとした海兵隊先遣の一部の部隊は、中央に隠れて陣取るボルツ少佐の『ガルディシアに栄光を!』の叫び声と共に発生した爆発によって多少の被害が発生した。だが、海兵陸戦隊の進軍を止めるには至らなかった。


防衛線突破に貢献した砲艦隊はヴァント港に戻らずそのまま中央ザムセンに接近しつつあった。だが、ヴァントには別の艦隊が接近しつつあったのだ。


「敵ザムセン東方の防衛線を突破しました。前衛の海兵陸戦隊は中央ザムセンに向けて進軍しつつあります!」


この報告にザームセンの司令部は湧きたった。頑強な抵抗を続けていたザムセン東の防衛線を突破したならば、その後にはザムセン周辺部の街が広がっている。この街が広がる場所には如何な帝国軍でも第二、第三の防衛線を引く程の時間も無かっただろうと推測していた。だが、第13歩兵大隊の頑強な抵抗がその時間を稼いだのだったが、それを彼等は知らない。楽観的な見通しが見えて来たザームセンの司令部は、続いて受けた二つの報告に自分達の状況が未だ不安定である事を知った。


「オームゼン少将と連絡回復!第九歩兵師団は正体不明の敵からの攻撃を受け後退中。」

「ヴァント軍港に接近する艦隊あり!発光信号に応答しません。」


「な、なんだって!?正体不明の敵!? 接近する艦隊??一体なんだそれは!?確かめろ!! 急ぎ斥候を出せ!! それと海兵陸戦隊の進軍を停止させろ!急いで伝令を出せ!!」


第九歩兵師団が後退したとなると、中央ザムセンに兵を突っ込んだとしても再び正面からの叩き合いだ。片翼包囲も完成しないままに中央が突出するとなるとどれだけ被害が発生するかも分からない。だが、第九師団を攻撃した正体不明の敵とは一体なんだ。まさか、第一軍にそういう事を行う秘密部隊があるのか?いや、恐らくそういう任務にあった近衛部隊は壊滅している。だとすると…更に気になるのは正体不明の艦隊だ。一体、このタイミングでヴァントに来るのはどこの艦隊だ!? 何をするつもりなんだ!?


「艦隊旗確認!!接近する艦隊は第二艦隊です! 第二艦隊がヴァント軍港に接近中!!」


「ロ、ロトヴァーン侯爵か! まさか……!?」


既にアルスフェルト伯爵から連絡を受けていたロトヴァーン侯爵は、最終的に両軍が疲弊した段階で介入する計画だったが、帝国軍が第三艦隊によって一方的にやられそうな情勢となった為、ゾルダーからの連絡を受けてヴァントに急襲したのだった。係留されている第三艦隊は未だ出港準備は完了せず、準備完了の船は既に第13歩兵大隊防衛線への攻撃に出航済みだった。つまり、ハイントホフ侯爵の第三艦隊は港に繋がれたまま、何も出来ない状態で接近する第二艦隊の動向を見守っていた。そして不安な気持ちのままに、観測兵からの声を聞いた。


「第二艦隊発砲! 第二艦隊が発砲を開始しました!!」

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