表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
300/327

60.クルト・ヴェッツェル中尉の判断

ザームセン公爵は焦っていた。

未だ突破出来ないザムセン東方の防衛線。敵である帝国陸軍第一軍第13歩兵大隊は頑強な抵抗を続け、砲艦隊の攻撃に一時後退こそしたが、こちらの海兵の進出占領した場所は直ぐに奪還された。海兵陸戦隊は出血ばかりが嵩んで行った。この唯一の侵入路を迂回し、後方を攪乱すべく前進中であるオームゼン少将の第四軍第九師団は未だ連絡が回復しない。ハイントホフ侯爵の第三艦隊も未だ出撃準備が整わない。未だ敵陣地後方に混乱が発生していないと言う事は、レティシア大隊の後方浸透作戦もどうなっているかが分からない。現状でザームセン公爵を取り巻く状況は全て良くない雰囲気が漂う気がしていたのだ。


実の所、状況は概ねザームセン公爵側に天秤は傾きつつあったのだ。ザムセン東方の防衛線を守る第13歩兵大隊は損耗率40%に達した上で予備兵力さえも投入し、辛うじて戦線を維持しているだけに過ぎない。ここを守るボルツ少佐も次に砲艦が来た場合は撤退を視野に入れている。山頂後方に居た第三歩兵師団は山頂の砲兵残余を吸収し、そのままザムセン中央に後退していった。そしてザームセンは知らなかったが、既にザムセンの門がレティシア少佐分遣隊の手に落ち、森を進軍中の大隊本隊との合流待ちの状況だった。そしてレティシア大隊の本隊は、ザムセンの門から80km地点にまで接近していた。この集団がレティシアの分遣隊と合流した場合、帝都ザムセンを守る陸軍第一軍は壊滅的な混乱と打撃を受けるに違いない。


だが、その森の上空には自衛隊から引退してル・シュテル伯爵に払い下げられたC-1輸送機2機が、エウグスト解放軍第二レイヤー部隊80人を乗せて接近していた。1機目にはベール・クランデルト中尉以下40名、2機目にはアラン・ストルツ少尉以下38名が搭乗し、降下の合図を待っていた。そして彼等は機内の赤ランプが青に変わった瞬間に機体後方に大きく開いたドアから次々と飛び出していった。


深い森を進むレティシア大隊本隊先鋒は、突如前方の空に丸い物が幾つも開く瞬間を見た。しかも大型の航空機らしきものがゆっくりと2機飛んで行く。この2機が飛び去った後に、丸い物がいくつも開いてゆくのだ。大隊先鋒を進んでいたレティシア大隊の第二中隊は、中隊長ギュンター中尉に報告を入れた。


「航空機が何かを落としただと? ニッポンの航空機だな?」


「いえ、航空機の機体にはニッポンの国旗では無くル・シュテルの紋章らしき物が書かれていました。」


「なんだと!? ル・シュテルは航空機を入手したという事か!? だとするとエウグスト解放軍が来たのか。落とした物は一体なんだ?」


「そこまでは遠すぎて見えません。何か航空機から落とした物が突然丸い物を開いてゆっくりと降りてきています。その数は50以上を確認しています。」


「丸い物……一体何だ? 確かめろ!」


この時、レティシア大隊の本隊は先鋒をギュンター中尉の第二中隊、左翼にマイヤー中尉の第三中大隊、右翼にリンデマン大尉の第四中隊、そして第一中隊残余を率いるクルト・ヴェッツェル中尉が殿を勤めていた。この第二中隊から先遣隊を抽出し、前方に降りてくる丸い物を確認させに行かせたが、彼等が戻ってくる事は無かった。そして直ぐに何が降りてきたのかも判明した。何故ならば、派遣した先から激しい銃撃音が聞こえてきたからである。


「敵だ!前方に降りたのは人間だ。敵が空から降りてきたぞ!!大隊戦闘準備!」


直ぐに戦闘態勢に入ったギュンター中尉は、マイヤー中尉とリンデマン大尉に連絡して前方に降り立った敵を包囲する為に敵に対して左右に広がる様要請した。


「降り立った丸いのは50以上というが、その丸いの1つが一人と考えても敵は100に満たない兵力を展開したと言える。我々の現在の戦力がほぼ450程だ。囲んで叩けば直ぐに制圧可能だろう。マイヤー中尉は左翼から、リンデマン大尉は右翼からの包囲を頼む。第二中隊はこのまま前進する。第一中隊は予備兵力で第二中隊の後ろに居てくれ。」


「了解だ。」


こうしてザムセンの門80km手前地点で、エウグスト解放軍第二レイヤー空挺部隊80名と、レティシア大隊450名の戦闘が始まった。元々第二レイヤーのベール中尉は、山の中に潜みながらガルディシア補給路への攻撃に特化した戦いを得意としていた男である。その彼が鍛えた部隊であるだけに、彼の思想と戦い方が色濃く反映しているのが第二レイヤーだ。直ぐに森中に散らばった兵を纏めると、ベールは上空の偵察機からの情報を常に受け取りながら移動を開始した。


上空からの情報では敵は中隊規模が3つ、小隊規模が1つの部隊であり、中隊規模3つがこちらを包囲するように広がりながら接近中との事だった。ベール中尉は森の中でも少し小高い丘にまで移動してそこを狙撃拠点にした上で、部隊を狙撃地点から更に左に旋回して攻撃を開始した。ベールの拠点に一番近いのは右翼のリンデマン大尉だった。リンデマン大尉が自分の部隊が攻撃を受け始めた事を認識したのはほんの偶然だった。足元の木の根に足が引っ掛かり、歩みを止めて屈んだ瞬間に隣を歩いていた兵の頭が弾けた。そして遅れて銃声が聞こえてきた。


「え? ヘルマン!?」


「攻撃を受けている! 総員、警戒せよ! 攻撃を受けているぞ!!」


「何っ!ど、どこから攻」


傍に居た兵は最後まで言い切る事が出来なかった。敵の銃は恐ろしく精度が高い。完全に額の真ん中に弾を当ててきている。しかも銃声が着弾よりも遅れてきたという事は、相当に遠い所から射撃を行っているという事だ。


「奴等は相当遠い所から狙撃している。だが、それほど連射可能な訳では無い様だ。聞け、降りて来た連中よりも我々の方が人数は多い。このまま銃声がした方向に突進するぞ。距離を詰めれば狙撃も出来まい。行くぞ、第四中隊前進!!


第四中隊を率いるリンデマン大尉は、伏せていた体勢から立ち上がり銃声がした方向に駆けだした。彼等は銃声がした場所に向かって一直線に距離を詰めようとした。だが、思いもよらぬ場所から攻撃を受けた。


「た、大尉!!右側面から攻撃を受けてます!!第二小隊長シュライヒ准尉戦死!」


「なんだと! ちっ、正面狙撃兵は囮か!第二中隊方面に後退だ!!後退しろ!!」


「第三小隊長ライネッケ曹長戦死!」


「リンデマン大尉!完全に敵に捕捉されて動けません!!」


「くそっ、第二中隊方面に向けて青と白の信号弾撃て! 木を盾にして可能な限り後退しろ!!」


リンデマンの第四中隊は、正面のアラン・ストルツ率いる狙撃兵と右翼からのベールの遊撃部隊によって十字砲火を受けていた。そして狙撃兵は部隊の高級指揮官を最優先目標に射撃をしていた。リンデマン大尉は完全に釘付けとなっていはいたが、木のコブに上手い事身体を隠せた為に未だ銃撃を受けてはいない。だが、包囲され打ち減らされ続けたならば、彼の命運も時間の問題だった。しかも恐ろしい事に、これだけ攻撃を受けているのに敵の姿が見えないのだ。


「ギュンター中尉!右前方から青の信号弾確認!!続いて白の信号弾!!」


「何っ!! リンデマン大尉の第四中隊が接敵、包囲されていると!?」


「右側に敵が集中しているという事か。よし、第四中隊を救援に行く。第二中隊は3時の方向に前進!伝令!!第三中隊のマイヤー中尉に救援要請! 第一中隊は第三中隊と入れ替われ!」


「それは良くないと思うぞ、ギュンター中尉。」


「なっ?どういう事だ、クルト中尉?」


「敵はエウグスト解放軍だ。恐らくニッポンの装備で武装している。それは空から降りてきた事でそう判断しても間違い無いだろう。とするならば、連中の装備は我々を圧倒しているに違いない。敵の数が少数であっても、我々よりも装備が優秀なら十分に勝算があるからこちらを攻撃してきたのだろう。」


「だから何だ。味方部隊が正に今包囲されているんだ。救援に行かずしてどうする。」


「我々の目的は何だ。この森で戦闘する事ではない。レティシア少佐と合流し、帝国第一軍の後方を攪乱し、可能であればドラクスルの捕縛を行うのが目的だ。」


「貴様、ブランザックの英雄だか何だか知らないが、所詮はお情けで囚人から解放された者が!我等は仲間が窮地に陥れば、助けるのは当たり前の事だ。このクズ野郎!」


「俺をクズ呼ばわりするのは構わんのだが、我等の目的を見失うなという事を言っているのだ。彼等第四中隊は最早助からんだろう。ここで被害を拡大するよりも、目的を達成する為に第四中隊は犠牲となるが我々だけでも前進すべきだ。」


「第一中隊はそうしろ。我々は救援に向かう。第二中隊、行くぞ。」


「そうか。仕方が無いな。」


こうして、第四中隊救援にギュンター中尉の第二中隊とマイヤー中尉の第三中隊は戦場に向かった。残された第一中隊残余とクルト中尉は、戦場方向を大きく迂回しながらザムセンの門へと向かった。

300話達成です!

でも、あと20話で終わる予定なんですが、予定の場所まで話が全然進んでいません…

それはそうと、皆さん、ダイレク〇出版には気を付けて!!

送料負担のみの本を買ったら、定期購読料とやらで毎月1980円も勝手に引き落とされてましたww

くそっ、こんなのに引っ掛かるなんて!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >パイロットの供給は行っていない事 ん? エウグスト人? パイロット育成を日本がした? まあ、こちらの世界は普通に傭兵いそうですから 傭兵です、おカネです、民間企業です日本政府関係ないです…
[気になる点] ヴォートランにも供与されなかったジェットがエウグストに払い下げられたんですねぇ。
[一言] ~~~ それと大隊本隊とレティシア分遣隊という表現に修正しました。これで分かり易くなったかな…お手数でなければご確認頂ければ、と。 ~~~ はい、分かりやすくなりました
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ