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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第一章 ガルディシアと日本の接触編】
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1_29.聞き逃していた言葉

佐渡島 佐渡分屯基地 午前10時


佐渡分屯基地大和田司令からの要請で、護衛艦ひゅうがから急遽ヘリを出せないか打診を受けた。そこでひゅうが艦長寺岡1等海佐は、SH-60Kを2機派遣した。派遣した先は魔導士の塔だ。しかも生存者なのか、魔導士の仲間なのか不明なので確認する、との事で攻撃能力も救助能力もあるSH-60Kが選ばれた。


直ぐに魔導士の島まで到達すると、瓦礫のすぐ近くに手を振る二人組の女性が立って居り、どう見ても普通の人間にしか見えなかったが、念のためホイストで1名降ろして、二人組の女性と接触した。幾つかの質問の後、普通の日本人の女性である事が確認出来た為、そのまま島に着陸して回収した。


「やったー助かったー、ありがとう自衛隊の人!あのまま島で一生過ごすのかと思ったー。」


毛布に包まり、アイナはヘリコプターの中で軽口を叩いていた。

正直な話、当初"接近すると死ぬ黒い霧のような魔導士"という話を聞いていたヘリの乗員は、もしかして女の子に化けているのでは?と疑いを消しきれなかったが、アイナの対応でその疑いは消えた。


基地に戻ったアイナとミヨばぁは、再び自衛隊の状況調査に付き合う事になった。


「なんで貴方方が選ばれて拉致されたか、理由は分かりますか?」


「えー、私たち死なないから。黒ちゃんの傍に居ても。」


「黒ちゃん?」


「あの黒い奴。なんか長ったらしい自己紹介するんだもん。覚えるのも面倒だから黒ちゃんって呼んでた。」


「はぁ、そ、そうですか。で、拉致の目的は分かりますか?」


「なんかね。黒ちゃんのコアっていうのが壊れてたのね。で、コアを直せるのは私たちしか居ないんだって。直したら、何でも望みを叶えるとか、元の世界に戻すとか。意味わかんない事言ってた。」


「ふむふむ、そのコアってどういう物だったんですか?」


「暗い緑色の結晶で岩に張り付いてた。でも、なんか最初からひび割れてたのね。で、黒ちゃんは、このひびを直すのに人の手で触って直すって言ってた。」


「人の手で、ね。なるほど…で、その結晶はどうなったんですか?」


「ミヨばぁが近くに落ちてた鉄の破片をヒビに突っ込んだのね。」


「え?つ、つっこんだ??」


「そう、突っ込んだんだ。そしたら黒ちゃん悶えて消えちゃた。」


「もしかして、大魔導士を滅ぼしたのはミヨばぁちゃん、って事?」


「多分そうじゃないかなー。黒ちゃん、爆弾平気だったもの。なんか1点集中とか容易に防御とか笑ってたよ、落ちてた最中。」


「ご協力どうもありがとうございました。あと一応の検査も行いますので、今暫くお付き合いください。」


「はーい。あとね。スマホ落としちゃったんだけど届いてない?」


「あ、もしかしてこのデコついたスマホですか?」


「わー、諦めかけてたー、ありがとー!!」


この聞き取りが終わった段階で午前8時。

直ぐにこの情報は官邸に送られ、飯島総理は聞くなり見悶えた。


そして一点重要な事を、皆は聞き逃していた。「元の世界に戻す」という言葉を。


つまり召喚を行った者は、逆に元の世界に戻す事も可能なのだ。勿論100年かけて構築した術式なだけに、直ぐという訳には行かない。だが、ここで大魔導士を滅ぼした事はつまり、日本が元の世界に戻る方法を永久に失った、という事が確定したのである。

この事に気が付くのは、まだ暫く先のお話である。


--

バラディア大陸西部中央沿岸付近 午前10時


グラーフェン中佐がゾルダー中佐率いる駆逐艦マルモラを送り出してちょうど24時間が経過した。この間に、中央ロドリア海の嵐は、夜中に唐突に止んだ。今まで嵐があったのかという位に消え去った。聞くところによると、中央ロドリア海の嵐は止む事が無いという。しかも100年以上止んだという事が無いらしい。その嵐が突然止んだのだ。


駆逐艦マルモラを送り出したその日の夜に百年続く嵐が止んだ。これを無関係、と言うのは些か無理筋だろう。きっと何かが起きたに違いない。


また、戦艦アレンドルフの観測員は中央ロドリア海方向から、朝方から早朝にかけて耳慣れない轟音が何度も鳴り響いた、と言う。特に艦隊に影響が無かった為、記録するに留めたらしいが…


グラーフェン中佐はゾルダー中佐とは同郷で、貴族と平民という違いはあるが、共にエウグスト戦及びダルヴォート戦と戦った戦友でもある。ここぞという時には信頼出来る彼だけに、無事の帰還を祈っていた。


ガルディシア帝国第7艦隊は、緩々と北上しつつある。もうすぐ中央ロドリア海域は左後方に去り、北ロドリア海の冷たく深い、濃い青色に海の色が変わりつつあった。

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