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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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59.ザムセンの門

レティシア少佐と第一中隊の一部はエウルレンへの潜入に成功していた。彼等はティアーナの無害通行から一度森の中に入り、鉱山を経由してエウルレン南側から侵入したのだ。その他の三個中隊はザムセン北方のエウルレン街道の出口を目的として森林を踏破するべく前進していた。


レティシア少佐は以前エウルレンで捕縛後逃走した際に、輸送用の車両やバス等の停留施設を目視確認していたが、ブルーロ大尉達が同じく以前に潜入した情報と突き合わせ、ザムセンへの移動手段確保を目論んでいた。そしてエウルレンから依然として続く食料の輸送トラックを奪取し、ザムセンへの侵入を試みていた。果たして、彼等はザムセン行のトラック3台と運転手を既に確保し、エウルレン街道を南下していた。そのトラックの荷台には20人程が乗り込み、一路ザムセンを目指していたのだった。運転手たちの家族の元にはレティシア大隊の幾人かを配置し、運転手が逆らえないようにしてある。


「上手い事、ザムセンで合流出来ますかね。」


「このトラックは移動速度が相当に早い。俺達の方が先行してザムセンに着くだろうな。」


「ザムセン側の出口には要塞が築かれているという話だ。他の中隊と合流出来れば容易に制圧可能だろうが、俺達だけだとちょっとキツいな。」


「まぁ、こちらには少佐が居るから大丈夫だろ。」


「ははっ、違ェねぇ。」


「でもザムセンを守っているのは俺達の教え子なんだよな。呼びかけたら投降しねえかな。」


「ああ、一応呼びかけるだけは呼びかけてみようや。俺も教えた奴に銃を向けるのは忍びない。」


彼等レティシア大隊の中核であるブルーロ大尉が率いていた特殊作戦団の面々は、ザムセンを守る秘密警察軍の教官達なのだ。これからザムセンを攻める教官達と、ザムセンを守る教え子達の戦いが始まる。攻める教官達側としては、なるべく教え子達に投降して貰いたかった。そんな話をしていた所で突然運転手が話しかけてきた。


「あ、あんた達、そろそろザムセンに着くんだけど……俺はこれからどうなるんだ? か、家族は?」


「おおご苦労だったな。どれ、検問手前1kmの所で俺達を降ろせ。そうしたらお前はそのまま帰っていいぞ。そしてこれをお前の家族の所にいる俺達の兵に渡せ。それで家族も無事解放してくれる。分かったな?」


「こ、殺さないのか?」


「何でお前を殺す必要がある。俺達はザムセンに早く着きたいだけだ。着いたらさっさと俺達を降ろして帰れ。ああ、安全運転で帰れよ。事故なんか起こすなよ。」


正直な所、運転手をここで殺しても殺さなくても面倒は発生する。だが、エウルレンに残してきた兵が居る為に彼等を無事に帰して残してきた兵を戻さなくてはならない。家族諸共殺害する事は、後々面倒な厄介事を引き起こす可能性がある。であるならば双方にとって利益となる方法をとった方が良いだろうという判断だった。


「助かります。ありがとうございます…」


運転手はハンドルにしがみついたまま運転し、程無く予定の場所に到着してトラックからはバラバラとレティシア大隊の兵が降り、この機動力に感服していた。


「いいなあ、これ。少佐、これ我々の部隊でも運用出来ませんかね?」


「そうね。大隊分のトラックがあれば私達の選択肢も相当広がるわね。でも、今はザムセン入口の要塞攻略しなきゃね。ブルーロはどこかしら?」


「ん? なんだ、少佐?」


トラックの傍で装備を確認していたブルーロ大尉が少佐の元にやって来た。


「最後の確認。皆、傾注!これより私達はザムセン入口にある要塞を攻略します。といっても人数は僅か60人程度しか居ません。まずは隊を三つに分け、猟師を偽装して入口に行くアントンチーム、そして森の中を迂回して行くベルタチームとツェーザーチームに分けます。アントンはジーヴェルト軍曹、ベルタは私、ツェーザーはブルーロ大尉が担当します。ジーヴェルト軍曹、入口で道に迷った猟師の設定で騒ぎを起こして。その間に右翼をベルタが、左翼をツェーザーが潜入し、要塞を無力化します。では時計合わせて。よろしくて?」


「了解!」


ザムセン要塞はエウルレン街道ザムセン側出口に設置された物だ。

構造は街道にトンネルを作り、そのトンネルの出口に検問所として大きな門が作られている。検問所はトラックが回頭出来る程の広場があり、その周囲は壁で囲まれ中央を銃撃可能な作りとなっていた。このトンネルの周囲は深い森となっており、トラックやら何やらの通行を阻んでいた。ただ、森の中を人が通行するのは可能なので、検問所周辺には高い壁が作られている。だが慌てて作ったこの壁は100m程しか無く、他の部分は未だ建設中だった。しかも第四軍の反乱によって、工事は中断したままだ。


そしてアントンチームの二人は検問入口のトンネルの中に消えていった。それを確認し、左右に展開したベルタチームとツェーザーチームが森の中に入って行く。


「おーい、兵隊さん!ここ開けてくれよ。」


「何だ貴様、そこで止まれ!」


ジーヴェルトは辺りを見渡してみると、トンネル出口が広場になっていて、その周囲を高い壁が囲っている。その壁の上には銃を向けた兵が何人も居た。入口の門は厳重で、下には人が居ない。つまり門の開閉は上の兵が行っており、下に人が居ないという事は、上に居るこちらに銃を向けて見下ろしている連中をなんとかしないと、ここは突破出来ない。


「おおい、そんな物騒な物向けんなよ。オラ達ぁザムセンの猟師だよ。」


「この扉を開けるには通行許可書が必要だ。それを見える所に提示しろ。」


「そんなモン持ってないよ。山に獲物追ってたら迷っちまってさ。この街道に突き当たったから、真っすぐこの道辿ってザムセンに戻って来たんだよ。」


「なんだと? …いや、貴様その獲物とやらはどこだ。どこに住んでいる何者だ?」


「オラぁ西ザムセン外れの森の畔に住んでるジーヴェルトってモンだ。こいつはヨーゼフ。二人とも猟師だよ。得物は逃げちまったよ。いいから開けてくれよう。」


「仕方ないな…おい、オイゲン二等兵。下に行って確認しろ。」


オイゲン二等兵とやらが下にやってきてジーヴェルトとヨーゼフの持ち物を確認した。彼等が言うように猟師としては怪しい事は無い。そもそも彼等の容貌は、何時剃ったのかという様な髭がぼうぼうに生えており、身に着けている服も猟師らしい動物の毛皮を纏って独特の臭いを放っていた。


「リッペル隊長!怪しい所はありません!どうやら本当に猟師の様です。」


「だから言ったじゃねえか。猟師だってよ。」


「すまんな、これも仕事なのでな。」


「いやいや通してくれたら良いよ、兵隊さん。そういやここは何人位が働いてるんだい?」


「ん、ここか?そうだな、30人程だな。後ろの詰め所に他の兵が居るからな。」


「そうかい、ありがとさん。」


彼等二人を通した後、オイゲンは門を閉めて再び上に上がった。だがオイゲンは見逃していたのだ。門を通る直前にジーヴェルトは弁当の様な小包を足元に置いていた。彼等猟師の二人組を通した数分後、門で爆発が巻き起こった。この爆発を合図に、森の中から完全武装したレティシアの部隊が左右から飛び出してきて検問所に襲い掛かった。検問所の兵は最初の爆発から混乱を来し、立ち直れないままに制圧された。


「検問所には何人居た?」


「30名程と聞いている。ここの詰め所はツェーザーチームが既に制圧した。おい、フリースナー!死体の数を数えろ。」


「扉の所の守備兵と合わせて31名ですね。」


「そうか。脱出した者も居らんな。では、ここの検問所を接収し、残りの中隊の到着を待つ。」


本来であればザムセンの門はもっと戦力が集中して配備されていた筈なのだ。だが、ザームセン公爵の反乱によって敵が攻めて来ないであろう場所に戦力を貼り付けていても意味が無い事から、最低限の守備兵を残して、ほとんど全ての兵はザムセン東方に集中していた。それは、ここザムセンの門も例外では無かったのだ。こうして無理やりザムセンの門をこじ開けたレティシア大隊の先行部隊は、誰にも知られないままにザムセン北方に陣取った筈だった。だが、上空から観察していた偵察機はザムセンの門ではなく、別の集団を見つけて監視をしていたのだった。


「タカダさん!やはりティアーナから分かれて森の中に入った部隊が居る様です。今迄監視網には引っ掛からなかったんですが、森の中を進む大隊規模の部隊が居ますよ。彼等がこのまま進めばエウルレン街道に当たります。」


「エウルレン街道? ザムセン側には要塞がある筈ですよ。そこの守備兵とぶつかるんじゃないかな?」


ふと気になった高田は、ザムセンの門周辺に偵察機を回した。

そこでは既に陥落したザムセンの門と散らばる守備兵の死体が並んでいた。


「あら。これは計算違いですね…ザムセンの門が落ちた。大隊規模の戦力がザムセンの門から入りそうですよ。うーん、これは帝国側が一気に押し込まれそうですね。」


「お、それは俺達の出番って事ですかね?」


そこにはベール・クランデルト中尉が空挺装備を抱えてにやりと笑っていた。

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