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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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58.ボルツ少佐の意地

帝国第一軍の第13歩兵大隊は善戦していた。

正面対峙する凡そ二万程の海兵陸戦隊を相手に防衛陣地は有効に機能していたのだ。これはボルツ少佐の差配が優秀だった事を意味する。だが所詮は大隊と師団の戦いだ。当然の如く時間の経過と共に押され始めていた。そしてそこに反乱軍のネダー中佐率いる9隻の砲艦隊がザムセン東方を守る第13歩兵大隊側面への攻撃を開始し、徐々にボルツ少佐の防衛線右翼を蚕食し始めた。ボルツ少佐の元に入る防衛線右翼からの報告は絶望的な物ばかりだった。


「ボルツ少佐!防衛線右翼が海岸からの砲撃に晒されてます!第3中隊と連絡が着きません!」


「くそっ、敵海軍は無力化したのではなかったか! 第3中隊を後退させ、後方の第4中隊を入れろ! 海軍を黙らせないとこのまま右翼から磨り潰される。伝令!! 誰か師団司令部に行ってあの砲艦を後方から潰すよう要請しろ!」


「前面の敵が右翼に集中し始めてます!」


「奴等、砲艦で右翼に穴を空けてそこから兵を雪崩こませる積もりだ。だとすると右翼の兵が突入する前に砲撃は止むだろう。第4中隊はそのまま待機に変更、中央と右翼の間に間隙を作り、そこに侵入した敵を撃滅する。」


「しかしそれでは左翼及び中央が突出した状態となります!」


「仕方が無い。どうせ右翼前面は砲撃の的になっている。側面防御の方法も無い。砲艦攻撃の要請を早く送れ!!」


ネダー中佐の砲艦は確実にボルツ少佐の防衛線右翼の戦力を削りとっていた。この削り取られて空いた穴に海兵陸戦隊がするすると入り込んだが、中央陣地と右翼後方陣地からの挟撃を受け、侵入した海兵陸戦隊は甚大な被害を受けた。


「よし、砲艦の攻撃は止んだぞ!右翼陣地を奪還する。第4中隊を前進させろ!!」


「ボルツ少佐!師団司令部より返答、砲兵の準備整わず、現有戦力を以てザムセン東方を死守せよ。との事です」


「なんだと……やはり俺達を磨り潰す気か、畜生!! よし、良いだろう、奴等の記憶に残るような戦いにしてやる。」


「少佐……我々は見捨てたられたのですか?」


「知らん!だがこの状況は強ち間違いでも無いだろう。我々は自分達が出来る事をやるだけだ。あと予備兵力はどの位残っている、シェーファー中尉?」


「本部中隊のみです。」


「…出し惜しみは無しだ。予備兵力を全て右翼に投入しろ。右翼陣地奪還後、戦線を安定させる! 負傷者は独自の判断で後送してよし!全隊右翼に前進!」


ボルツ達第13歩兵大隊が構築した防衛線は正面に対しての防御力は高いが、後方から攻められると弱い。ネダー中佐の砲撃によって空いた穴から浸透した反乱軍兵士は、ボルツ達の陣地に入り込んだが、後方の予備兵力第4中隊の攻撃によって著しく兵を減らし、一時的に占領した右翼陣地を放棄して後退していった。


「なんとか安定しましたね、少佐……」


「ああ……だが、もう次は無いぞ、シェーファー。予備兵力も右翼に張り付けた。予備も援軍も来ない状況で、次にあの砲艦がやってきたら俺達はここで壊滅だ。」


既に第13歩兵大隊は1個中隊分の戦力が丸々喪失していた。他の陣地でも負傷者続出で、大隊全体で見ると既に40%に近い戦力を喪失してる。だが、度重なる援軍要請にも師団司令部は答えなかった。ボルツ少佐は次の敵側の攻勢には立ち向かえない事を既に認識し、大隊後退のタイミングを探っていた。


そして反乱軍もまた焦りを感じていた。

全面の敵は精々が1個大隊程度の戦力であり、海からの砲撃で敵防衛線右翼の突破に成功した。だが、それも一時的なもので敵守備陣営の頑強な抵抗で、占領した右翼を手放して後退する羽目に陥った。


「ハルメル!まだ突破出来んのか!」


「ザームセン、焦るな。あそこは狭路で正面に展開出来る兵力にも限界がある。側面砲撃した砲艦も、臼砲を積んでおるのは5隻に過ぎん。あれがあと10隻あるなら話は別だが、今ここに無いのなら手持ちの戦力で戦うだけだ。それより、ハイントホフの艦隊は未だ動かせんのか?」


「未だだ。缶が温まっておらん。あと数時間はかかるだろう。それより艦から降ろした臼砲であそこを狙えんのか?」


「陸の事は陸に任せておけ。あんな射程の短い物を前線に持ち込んだら良い的だ。山頂の砲兵陣地は潰したが、あれが全てではあるまい。今ある敵防衛線後方にも当然砲がある筈だ。こんな狭路で正面からその手の砲が出てきたら厄介なのだ。それまでは、こちらの砲も温存せねばならん。」


「確かにな。そういえば、山中に入ったオームゼンの第九歩兵師団はどこまで到達した?」


「定時連絡が入っておりません。」


「…何故だ。伝令!オームゼン少将の所に行け、現状報告を受けて来い!」


この時、ザームセン公爵率いる反乱軍は三つの部隊に分かれていた。

ザムセン正面を攻撃中の海兵陸戦隊、そして海兵陸戦隊後方にはリンベルグ少将の第八歩兵師団。最後にオームゼン少将率いる第九歩兵師団は、彼等からザムセンを正面に見た右手側の森林地帯を踏破しようと前進中だった。この深い森を突破し、エウルレン街道とザムセン中央の中間辺りに進出した上で、第一軍の後背か側面を突く片翼包囲の動きをしていたのだ。


だが、この深い森の中にはエウグスト解放軍から派遣されたエンメルス率いる第一レイヤー部隊が、双方の天秤の傾きを正すべく秘かに展開中だったのだ。彼等は、この森の中に幾重ものトラップを仕掛け、彼等の行く向きを変更させていた。そしてそれらは全てル・シュテル伯爵の戦闘指揮所に情報がリアルタイムで報告されていた。


「敵C集団(第九歩兵師団)先鋒、D08からC06に侵入。」


「うーん、真っすぐにザムセン向かってますね。牽制可能ですか、エンメルス大尉?」


『C06地点は起動式設置済みだ。これより牽制する。』


少しの時間の後、再び連絡が入る。スクリーンに映る光点の数は少し減り、大きな集団が立ち止まった所から下がり始めている姿が映し出された。


「レイヤー18より報告、C06地点起動成功。C06の敵は後退中。」


「出来ればもう少しザムセンに向かう道を外れて欲しいですね。」


「そうだな。可能であれば森の中を永遠に彷徨っていれば良いのだが…」


「それはそれで厄介な事になりそうなんですけどね。それにしてもザムセン東方の防衛部隊は頑張りますね。一度奪われた陣地を奪回しましたよ。やりますねぇ…指揮官は誰でしたっけ。」


「誰だろう。だが防衛線後方に味方の部隊が相当数居るのに、彼等に全く助けを出していないな。督戦隊なのか?」


「後でゾルダーさんに確認してみましょう。彼は死ぬには惜しい人材に見えますね。」


深い森の中で、オームゼンの第九歩兵師団は正体不明の敵と戦っていた。というより戦いにもなっていなかった、何故ならば、あちこちに仕掛けられたトラップに引っ掛かり、師団の先鋒は大変な被害を出しつつも前進するのだが、攻撃してくる敵の姿が全く見当たらない。慎重に行動するも、どこからか数発の弾が飛んできては将兵が倒れてゆく。しかもレイヤー部隊は伝令と思われる兵を優先的に狙撃していたのだ。その為、第九歩兵師団は本部との連絡が一切無いままにザムセンを見失いつつあった。


「一体なんだ、この森は!! 敵はどこなのだ!!」


「オームゼン閣下、敵は森に潜んで小さな攻撃を繰り返しています。恐らく兵力は極僅かでしょう。ですが、その僅かな連中によって大量の罠を仕掛けられ、しかもその罠はかなり危険度が高いです。今後の行動を本部に確認しましょう。」


「そんな事は分かっておる!!再程から何度も伝令を出しておるが、全く返答が無いのだ!」


二人はふと顔を見合って、同じ事を思った。まさか、伝令がやられている? これは我々を釘付けにしてここに孤立させ時間を稼ぎ、他の海兵陸戦隊や第八歩兵師団への攻撃を集中させているのでは?


「罠だなこれは……。アルテンブルク大佐、3個中隊選出してこの森を進ませろ。敵は少人数だ。その位で良いだろう。第八歩兵師団は一時後退する。本部と連絡可能な場所まで後退だ。」


「了解です。」


アルテンブルク大佐が選出した第九歩兵師団の三個中隊はザムセン方向に向けて前進を開始した。

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