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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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57.第13歩兵大隊の運命

「ファルマー少将、半島山頂の砲兵陣地が破られました。」


「何ぃ? あそこは街道正面に第一歩兵師団、後背に第三歩兵師団が防御している筈だ。一体どうやって山頂の砲兵を破ったのだ!?」


「東方から接近した敵砲艦が臼砲にて山頂を砲撃、砲兵大隊のヴァイクス少佐は砲撃により戦死しました。山頂の砲12門は全て砲撃により破壊され、砲兵大隊残余は山頂から後退し第三歩兵師団と合流。尚、敵砲艦は山頂攻撃後、後退した模様です。」


「敵砲艦か……すると敵は街道に殺到中か。正面の防御陣地は持ち堪えられそうか?」


「あの区域担当はボルツ少佐の第13歩兵大隊です。恐らく最終的には突破されるでしょう。ですが、それまでの間に後詰である第4歩兵大隊の展開は終了していますし、例の連射銃大隊の配置も終了しているでしょう。第13歩兵大隊を突破し、浸透段階に入った所で一気に殲滅が可能かと。」


「作戦通りという事か。陛下も恐ろしい采配を為さる物だな…」


第13歩兵大隊が掘った塹壕は、山頂の砲兵と共同で進行する敵を倒す構造となっていた。だが山頂の砲兵が撃滅された今、単独で街道を守るには少々心元無いのが正直な所だ。ボルツ少佐は、急ぎ伝令を後方に走らせ援軍の要請を行った。だが、第一歩兵師団司令部からの返信は、現有戦力を以て死守せよ、だけだった。


「一体司令部は何を考えているんだ。山頂の砲兵がやられたのに我々だけで街道を死守なんぞ出来ん。ファルマー少将には俺が直談判してくる。シェーファー中尉。俺が居ない間、ここを指揮しろ。」


ボルツ少佐は後方の第一歩兵師団司令部を訪れると、直ぐにファルマー少将の元に向かった。


「閣下!!今直ぐ援軍を下さい!我々だけでは街道は守り切れません!」


「何事だ、ボルツ少佐。その要請は却下した筈だ。」


「何故でありますか? 既に山頂の砲兵陣地は砲撃されて機能を失った。街道を守る要の一つが失われ、我々第13歩兵大隊のみが街道正面を守っている。ですが敵は二個師団規模です。たった一つの歩兵大隊だけで押し止めるのは不可能です!」


「貴様の第13歩兵大隊には第13歩兵大隊の役割がある。それは現有戦力を以って現地を死守だ。援軍は送れん。難しい事は分かっては居るが、不可能であってもやらねば成らん事がある。呑み込め、ボルツ少佐。」


ボルツ少佐は師団司令部が第13歩兵大隊への援軍を送る気が全く無い事を悟った。

……これはアレだ。第13歩兵大隊を街道正面で抵抗出来るだけ抵抗させた後で壊滅し、第13歩兵大隊の防衛線を突破した敵軍が勢いよく防衛線の後ろに展開した所で、例の連射銃大隊による掃討を行おうとしているのだ。つまりはエウルレン南で俺達がやられた戦法を、ここザムセンで反乱軍に対してやろうという事だ。その為に、抵抗出来るだけ抵抗を行った上での捨て駒だ。俺達が抵抗すればする程に、あの防衛線を突破した反乱軍は勢いよく後方に展開するだろう。つまり、それだけ反乱軍は相当な被害を受ける。だが、俺達第13歩兵大隊が全く抵抗せずに後退した場合、敵軍は慎重に兵を進めるだろう。その場合は敵への損害も余り期待出来ないだろう。


「了解しました、ファルマー師団長。可能な限り第13歩兵大隊は現地を死守します。ただ、負傷した兵の後送に関しては、こちらの判断で宜しいでしょうか?」


「そこは任せた。ボルツ、反乱軍の突破を許すな。」


「了解です。ボルツ少佐、戻ります。」


ファルマー少将は、そもそもこの命令の出所が皇帝である為、幾らボルツに同情的であっても命令を覆す事が出来ない。ボルツの言う事が全うではあっても、皇帝の考えでは戦争恐怖症にかかった彼等は、著しい戦力の低下を来たし将来に渡って影響下にあるだろうという判断の元から、敵兵力の探り針的な扱いであり消耗し切っても惜しくない扱いとなっていた。その皇帝直々の配置命令だけに、ファルマーは彼等第13歩兵師団に対して何も援護を与える事が出来ない。せめて山頂の砲兵陣地があれば、それなりの攻撃でも街道を守る事も出来ただろうが、既に山頂陣地も無い。ファルマー少将は負傷兵の後送だけはボルツの判断に任せた。後にボルツ少佐はこの委ねられた判断を巧妙に使い、第13歩兵大隊の一部の後送に成功した。



「ボーデン、良くやった! 敵の山頂砲兵陣地が壊滅したぞ!!」


「攻撃を行ったネダー中佐を褒めて下さい、ザームセン公爵。ですが不思議な事があります。ニッポン軍は我々の10隻の砲艦隊に対して全く攻撃を行わず、姿も見せませんでした。これはもしかして、ドラクスルめに謀られたのではありませんか、閣下?」


「うむ、それは儂も気が付いておった。ドラクスルの奴め、我々の海軍兵力を釘付けにする為に口先だけで艦艇の動きを止め、しかも海軍将兵を拘束しおったな。ボーデン子爵、ハイントホフ侯爵に伝えよ。可及的速やかに行動可能な艦艇をザムセンに向けて出航させよ、と。奴等の守る陣地を後背から砲撃してくれる。」


「了解しました。ああ、ちょうどネダー中佐の砲艦隊が戻ってきましたな。その辺りも伝えましょう。」


こうしてボーデン子爵はハイントホフ侯爵の第三艦隊始動命令を伝えた後に、ネダー中佐達の元に向かった。


「ネダー中佐、よくやったぞ!!山頂の砲兵を排除した結果、海兵陸戦隊の前進が可能となった。今、ザムセン東に全軍が前進中だ。」


「ボーデン閣下、我々はニッポン軍の攻撃を受けませんでした。今、彼等ニッポン軍は何かの事情があってこちらを攻撃出来ないのかもしれません。今が好機です。この隙を突いて連中の防衛線を砲撃しましょう。補給が終了次第、我々は再度出撃します。宜しいでしょうか?」


「む、当然だ。生きて帰れば貴様の功績は2階級特進だ。ザムセン東の防衛線を海から砲撃を行って撃滅せよ。今、第三艦隊も始動させておる。缶が温まるまではやや暫く時間がかかる。それまでは貴様等だけが頼りだ。」


「元より了解であります。早急に補給を行った上で、再度出撃します。」


「うむ、頼むぞ、ネダー中佐。」


こうしてネダー中佐が率いる砲艦隊9隻は、ザムセン東方を守る第13歩兵大隊への側面攻撃の為に、再び出航した。

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