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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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54.ザームセン公爵の秘策

ル・シュテル伯爵の居城では、再びシアタールームに指揮所が設置されていた。スクリーンには高田が過去に持ち込んだ簡易戦闘指揮システムが設置されたままになっていたが、これが再び活用されていた。


「帝国の第一艦隊先鋒が全部港に引き返していますね。どうしたんでしょうか?」


「それと何やら海軍基地から長蛇の列が陸軍の方に続いていますね。……これ、海軍の乗組員かな。全員演習場になんか簡易のテントやら何やらで押し込まれていますね。もしかして、捕縛されているんでしょうか。うーん……ちょっと分からないですね。後でゾルダーさんに聞いてみましょう。」


「とすると、皇帝側が第一艦隊に何等かの先制攻撃をしたんでしょうか?」


「恐らく反逆の証拠を突き付けられたか何かで第一艦隊を無力化している所でしょう。乗組員も下船上陸の上で、第一軍の陸軍基地の一か所に集められている感じがしますね。第一艦隊関係者は大量逮捕して拘禁の流れでしょうね。」


「ああ、成程。そうするとザームセン公爵が当てにしていた海軍の乗員ほぼ全員が第一軍に下った、と。いう事は……?」


「そうです。皇帝側と反皇帝側の戦力は拮抗しました。まぁ、地の利もありますから同数同士なら皇帝側有利、でしょうかね。ここをひっくり返すには反帝国側はどういった手法を用いるでしょうかね。面白くなって来ましたねぇ。」


帝都ザムセン上空と東方都市ヴォルン周辺に2機の無人偵察機を飛ばしていた高田だったが、一か所見落としていた場所があった。それはザムセンに通じるエウルレン街道を監視対象から除外していたのだ。何故なら24時間常に動かせる無人偵察機の最大が2機までだった為、優先順位の高い場所に割り当てていた為、ザムセン側の要塞化と帝国第一軍の防衛線範囲内に街道出口が含まれていた為に、敢てそこは監視しなくても良いだろうとの判断だった。


高田、いや日本政府としては、最も望ましい結果は帝都ザムセンで皇帝側の第一軍と、反皇帝側の第四軍が衝突し、双方が立ち直れない打撃を受けた上で、その後に日本に害の無い政体としてガルディシアが成立するのが望ましい。その時に向けてアルスフェルト伯爵が帝国の実権を握った上で、緩やかに実権の移譲を帝国議会に行うという流れを早急に実現すべく、ゾルダーやグラーフェンが動いている筈だ。最悪の場合はどちらかが圧倒的に勝ってしまい、戦力的にもあまり減らないような状況になる事が最も宜しく無い。その為に、日本としては見えない形で介入する機会を覗っていたのだ。その直接の目が無人偵察機であり、考える脳が高田や伯爵達シアタールームに詰めている者達であり、下す手がエウグスト解放軍に参加しているレイヤー部隊なのだ。最悪、どちらかの天秤が傾き始めた場合、前述のように圧倒的な状況にならない様にレイヤー部隊が介入して、バランスを保つという任務を負っていた。


そして、反帝国側が集まる東方都市ヴァント郊外の海軍演習場には2万の海兵陸戦隊が駐屯していたが、ザームセン公爵の警告から、臨戦態勢で待機した状態となっていた。だが、警告とは裏腹にドラクスルの第一軍は攻めてこなかった。実際にドラクスルはザームセンを詰問した際に海兵陸戦隊の事も言及していた為、恐らく偵察を行っても意味が無い状況となっており、それならば陣地構築に時間を費やした方が良いという判断だったのだ。そうと知らない海兵達は不眠不休の臨戦待機状態のまま演習場で陣地を構築して待ち受けていた。そしてハルメルの第四軍二個歩兵師団が到着した時には、相当に海兵陸戦隊は疲弊した状態に陥っていた。そこで海兵と到着した歩兵師団を休ませ、ザムセン方面に偵察を出した所、皇帝側は帝都ザムセン東方に至る唯一の侵入路に防衛陣地を構築しており、兵力も海軍基地のあった半島の山に砲兵陣地を構築していた。この山の砲兵陣地は侵入路全体を見下ろす形で設置されており、しかもこの山に登る為には麓にはる第一軍右翼防衛陣地を突破しなければならない。つまり、この隘路を抜けない事にはザームセン公爵の兵は帝都ザムセンに突入する事が出来ない。だが、厚い防衛ラインを構築した皇帝側帝国第一軍の陣地は容易には突破出来そうにない。おまけに、待てど暮らせど、海軍の乗組員達はやって来なかった。


「シェーンハウンゼン准将はどうやらしくじったか。それともドラクスルが上手だったか。」


「ザームセン公爵、乗組員達2万の兵力が無いのは相当に痛いですな。攻撃三倍と言いますからな。今のままの状態で敵味方の兵力数は、ほぼ同一状況にありますぞ。これでは攻めるに攻め切れぬ。」


「そんな事は分かっておるわ。ハルメルは未だか?既にヴァントには到着しておろう?」


「確認してまいります!」


ザームセンには策が二つあった。

一つには臼砲を使用しての敵砲撃陣地の破壊であり、一つにはレティシア大隊による奇襲攻撃だった。だが臼砲を陸上で運用する事は海軍には未経験の事であり、その辺りは陸軍のノウハウが必要だ。その為、設置方法や移動方法について陸軍側との協議も行いたいのに、未だそれが実現していない。それと、レティシア大隊が果たして警戒厳重なエウルレンを突破し、尚且つエウルレン街道まで行けるのか、そしてザムセンまで来る事が可能なのか? レティシア少佐の能力を考えれば可能に思えるが、大隊全員を考えるとそれも怪しくなる。冷静に考えると秘策とも言えない状況ではあるが、本来ならば海軍の砲撃が全てを吹き飛ばす予定だったのだ。それが使えなくなった為に、保険であった策の重要度が増してしまった。ザームセン公爵は正直イチかバチかの賭けとなった事に失笑を禁じ得なかった。


「お、公爵閣下、笑って居られるのは何か秘策でも思いつきましたかな?」


「なに、我ながら追い詰められると何にでも頼る物だ、と自重しておったのだよ。」


「ハルメル中将閣下、到着致しました!」


「ようやく到着したか! 直ぐにここに呼んで参れ!」


こうして到着したハルメル中将を迎えたザームセン公爵は、ザムセン攻略作戦について海軍の助攻が出来なくなった事を伝え、作戦の修正に取り掛かった。

遅くなりましたー。なんとか22時までに更新セーフ。

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