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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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47.ハルメル中将の計画

ロアイアン南基地への侵入口からやや離れた小高い丘の上に数人の男女が潜んでいた。

彼等は、ハルメル中将とレティシア少佐、ブルーロ大尉他数名のレティシア大隊の兵達だった。直前で、侵入する人選の変更があり、突入して情報収集するのはリンデマン大尉とマイヤー中尉のみにハルメルは絞ったのだ。その理由をハルメルは一応の用心の為と称していたが、その変更は功を奏した。侵入口の二カ所は既に第5旅団隷下の第5偵察隊によって包囲されていた。


「やはりニッポン軍は夜間戦闘能力がある様だ。恐らく昼と変わらず戦闘が可能だろう。突入した入口は奴等の戦車によって封鎖された。その後に、基地内の灯火が灯され、潜入組も全て捕獲された模様だ。それにしてもこの双眼鏡は夜間でも良く見えるな…これ、まだあるのか、ヴァルター曹長?」


「ああ、あと数台確保してありますよ。以前エウルレン潜入の際に雑貨屋で購入したんですがニッポンでは軍用ではない民生品でこのレベルって、これで軍用となるとどんな事になるのだか恐ろしいですね、ブルーロ大尉。」


「ああ、軍用なら遥かに高性能だろう。夜間戦闘能力も頷けるな…それにどうやって探知したのかは知らんが、迷わずに侵入口にあの部隊は直行したぞ。何か監視するシステムがあるのかもしれん。」


「ほら、少佐。今回は見送って正解でしたよ。」


「別に見送った訳じゃないわよ。ハルメル中将に出撃禁止を言い渡されただけよ。」


「お前があの混乱の中に居たら、必ず死人が出るだろうからな。そうすると幾ら軍とは関係の無い荒くれ者だとも見逃して貰えんだろう。あの基地に荒くれ者を3000人も捕縛しておくだけでかなりの負担を連中に強いる事となるし、あれらの監視に人手も相当に取られよう。これまでの経緯から判断するに、あの新しい基地司令は恐らくこれで基地撤退か、更に縮小の方向に動くであろうし、そうなれば捕縛された連中も解放されるに違いない。その時にはリンデマン大尉とマイヤー中尉の回収も出来よう。ともあれこれでニッポン軍の基地は麻痺状態に陥った訳だ。早急にル・シュテルへの工作を成功させよ。」


「了解です。」


ハルメル中将の目的は、PKF派遣第5旅団の完全撤退乃至は第5旅団の無力化だった。もし基地内で人的被害が出た場合、これまでの司令官では無く、また別の強硬派の司令官を送り込まれる可能性の方が高いだろう。とするならば、現行の基地司令をそのままに基地に過剰な負担を掛けさせて麻痺状態においた方が得策、と睨んだのだ。日本のPKF基地に潜入した荒くれ共は、取り調べが終わればその内に釈放されるだろう。何せ専守防衛な上に話し合いで物事の解決を図ろうとする軟弱な指揮官だ。だが、釈放されるまではあの基地に過剰な負担を強い続ける筈だ。そうなれば、あの基地自体麻痺している間は戦闘的な行動が出来なくなるに違いない。


そして日本の基地が麻痺状態にあるうちにエウグスト領域に対して工作を仕掛け、領内通行に関する了解を得る。日本の派遣軍は過度に兵力を引き抜かれ、残った人員が捕虜の扱いで身動きが出来ないうちに、ガルディシア帝国陸軍第四軍の二個騎兵師団総兵力4万弱を一気に東海岸線を南下させる。だが、この海岸線に沿った道は中央と違い余り整備もされておらず、大軍の移動に向いてはいない。そこで陸軍の必要な装備を全て海軍が運び、東の都ヴォルンで陸揚げした上で、ザムセンの海兵4万と合流し、帝都ザムセンへの侵攻という計画だった。


だが、この計画を実行するには、エウグスト支配領域と思われるティアーナ港以南の街道が問題となる。その為、ル・シュテルへの工作でティアーナ以南の無害通行の許可を得ようとしていたのだ。第四軍の騎兵師団がティアーナ港へ到達するのは遅くても5日後となる。つまり5日以内にル・シュテルに対しての許可を得ないと、エウグスト解放軍との戦いとなる。そうなればニッポン軍はどのように動くか全くの未知数だが、決して第四軍を見逃しはしないだろう。


「それとレティシア少佐。お前の大隊はル・シュテルへの工作が成功した場合、ル・シュテル工作チームとエウルレンで合流し、そのまま南下してザムセンへの侵入を図れ。未だエウルレンから定期的にザムセンへの食料供給は続いていると聞く。この輸送網を使ってザムセンへ侵入せよ。」


「りょーかいでーす。」


「なんだ、不服か。レティシア少佐?」


「えー、だって潜入とかして殺すなとか言う話じゃないんですか、ハルメル中将?」


「今回は違う。いいか?第四軍と海兵が合流し、ザムセンの第一軍と対峙した場合、歩兵戦力は同数同士だ。そして恐らく戦場は海兵が居るザムセン東方と第一軍が居るザムセン西方のちょうど中間地点となる。貴様等レティシア大隊は、トンネルの防護部隊を突破しさえすれば、ザムセン西方に陣取る第一軍の左翼への攻撃が可能となる。そうなれば、お前の邪魔になるものは全て粉砕せよ。」


「了解しました!レティシア大隊はその存在を掛けて粉骨砕身、敵殲滅を遂行致します!」


こうしてハルメル中将とレティシア大隊の皆が、PKFロアイアン南基地に対する興味を失いつつあった頃に、その基地内ではトンネルに潜んでいた者達がほぼ地上に出て、しかもほとんどが何かをする事も出来ずに捕縛されつつあった。


「鴻上一佐、今穴から出てきた奴でどうやら最後です。」


「了解、さて、こいつらの扱いをどうするか。……どうします、高田さん?」


「私ですか?そうですね……施設内に入れるのは問題があるでしょう。仮設テント立てて周辺を電気柵で囲みますか。その上で監視の兵を配置しましょう。デモンストレーションを何度かした方が良いかもしれませんね。銃の連射性能と威力を見せて、その柵を出たら遠慮なく撃つ、と。大人しくしていたら、数日で解放するしその間の食事も出すが、柵を越えようとする者は命を懸けて実行せよ、とね。彼等も金で雇われている者達でしょうから、数日待てば大人しく解放されるのであれば、大人しく従うと思いますよ。」


「そうですね、業務用天幕2号(改)と宿営用天幕搔き集めれば何とかこの人数を収められますね、」


「場所やら監視の担当やらはお任せしますので、早速取り掛かりましょうか。で、エウグスト解放軍はここで撤収させても宜しいでしょうかね?」


「ありがとうございます、大変助かりました。ちなみに彼等はどうやって戻りますか?」


「自前の輸送車でエウルレンに戻ります。途中給油が必要な際には使わせて貰いますが。」


「了解です。あ、高田さんはどうやって戻ります?」


「ヘリ1機貸して下さい。それでマルソーまで行きますので。」


「了解しました。枝野陸将補に確認とりますが、嫌とは言わんでしょう。」


「いや、これで嫌と言い出したらそれはそれで面白いんですけどねぇ。」


「ははっ、それでは我々は直ちに天幕の構築に入ります。」


「私もヘリの準備が出来次第ですね、鴻上一佐、それでは!」


遅くなって申し訳無いです・・

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