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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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46.全員尋問すりゃ良いんじゃね?

「君は一体何の権限でこの指令室に立ち入っているんだ!」


「そうですね、この騒動の最初から最後までを確認する為ですかね。それとも必要とされるべき兵力を過剰な迄に削減した挙句に、不審者の侵入を許してしまった当該基地の現状を官邸に報告する為に、でも良いですよ。」


そういえばこいつは内調と言っていたな……内閣調査室だと!?なんで官邸が動いているんだ?どういう事だ…?いや、そもそも帯同しているのは他国の軍人だ。自衛隊の恰好はしているが、何者だ?


「そ、その軍人はどこの誰だ?」


「彼はエウグスト解放軍所属のエンメルス大尉です。で、本題なんですが、私とエウグスト解放軍はこの事態を結構前から把握しておりまして、その準備に奔走していたのですね。」


「知っていただと!? では何故こちらに連絡しなかったんだ!!」


「教えて差し上げても良かったんですがね。アナタの思想信条に従った場合、より悲惨な結果を招く可能性があったんですよね。あなた、この後に及んで話し合いで物事を解決為さろうとしませんか?」


「当たり前だ!我々は人間だ。人間は言葉を使うのだ。言葉は互いを理解し合う為に存在する。お互いが真摯に話合えば。物事は理解が可能だし、分かり合えるのだ。直ぐに武力に頼るなど、蛮族の類と同然だ!」


「いや、ご立派なご高説ありがとうございます。それは恐らく文化レベルと倫理観が同等の相手にのみ通用する話だと私個人は思う訳ですが、参考までにガルディシア帝国に滅ぼされたエウグスト人の彼に今の意見をどう感じるか聞いてみましょう。エンメルス大尉、どう思う?」


「あー、俺すか?……ここで俺に振るかな。ええとですね。私個人の意見ですが、相手が話し合いを求めてきたら何か弱い部分があるんだ、と判断しますね。それを話し合いで誤魔化そうとしていると。平たく言うと"俺は弱いから攻めるな"と声高に叫ぶボンクラは武力で圧します。エウグスト人の俺でさえそう思うんですから、ガルディシアなら更にそう思うでしょう。」


「だ、そうですよ、枝野陸将補。まぁこれは彼個人の意見ではありますが、恐らくこの世界では誰に聞いてもそれほど相違無い話だと思います。そういう世界で、私達の理屈を持ち込んだ場合、彼等はどう思うかを想像した事がありますか?」


「いや、そんなモノは詭弁だ。それにたった一人の意見ではないか!」


「ですよね。それで思ったんですよ。有効なサンプルが多ければ多い程、より真意に近づけると。つまりはまあこれから拘束した不審者達の尋問やら何やらを枝野陸将補自ら行って頂きたいんですよ。あ、質問はこちらで用意しておりますので、最低限の質問はそれを使って下さい。あなたが個人的に聞きたい事を追加するのは自由です。」


「一体それを自分にさせて何を得ようとしている! 大体、私の考えが間違っているとでも言うのか!?もし仮に間違っていたとしても、それはこの世界が野蛮であるが故だ!」


「ん-、その辺りは最早どうでも良いんですよ。ともかく現在不審者を二千人以上捕縛しておりますので、彼等を一人ひとり尋問してくださいね。何日かかるかなぁ……」


「待て、それは私が行う事では無い。高田と言ったな。大体、何の権限があってここに立ち入り、そんな事を命令してくるのだ。おい当番、こいつを拘束しろ。許可無く指令室に侵入した不審者だ!」


高田の両脇に自衛官が二人、恐る恐る近づくが両脇を固めるような動きはしていない。彼等もまたこの場で今のやり取りを聞いていたからだ。どちらの命令を聞いたら良いのか彼らは当惑していた。その様子を見ていた高田はうんざりするような顔をしつつ懐から紙切れを2枚出した。


「ふーむ……これ、読めます?」


「こ、これは北部方面総監の命令書……飯島総理直筆の要望書!?」


「これを見た上で私を拘束するならばそれも良い。その後の貴方は自衛隊での居場所は無くなるだろう。貴方の思想信条に従ってもこの基地が安全であるならば看過もしよう。だが既に過剰な兵力の削減によって当該基地は本来行うべき地域の安全に寄与する防衛機能を喪失している。それは一重にあなたの思想信条から来る物だ。確かに他国に基地を置く是非については置いておくとしてだ。一たび地域の安定と平和を目的とした駐屯を行うのであれば、その兵力は過小でも過大でも良くない結果を生む事を理解していない。その事を官邸は危惧しているが故に私が派遣された。」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。お互い誤解が有ったようだ!」


「おや、許可なく指令室に侵入した不審者なんですよね、私は?」


「すまない、誤解だ、高田…さん。私の間違いだ。」


「そこの間違いは認めるんですね。まぁ、別にそれはどうでも良いんですけどね。先程も申し上げたました通り、二千人以上の不審者の方々とこれから尋問の方、宜しくお願いしますね。全員ですよ。それを報告書として提出お願いします。」


「高田さん、それは勘弁して貰えないだろうか…?」


「え?どうしてですか??あなたが言う思想信条が正しいか否かの裏付けが出来るんですよ?あなたが今迄行った行為が正しかったと証明出来る機会なのに、何故に回避なさろうとするのです?」


「……すまない、高田さん。私が間違っていた。認めよう。私は、私の個人的な思想を元にして、この基地の現状を理解せずに私が思う理想を実現しようとしていたのだ。そこに周辺地域に於ける戦力分析や危機判定を除外していた。既にここは安全であるし、何かあっても話し合いで何とかなると思い込んでいたのだ。」


「そうですか。多少ご理解頂けたようですが、既にこの基地は不審者に大量に侵入された状況です。相当数は捕らえましたが、その背後に居る者達には未だ手が届いていない。早急にその対処を行うには戦力が足りない状況となっている事をご理解下さい。その為に、私がエウグスト解放軍に協力を要請し、彼等が不審者の捕縛に協力をしている状況です。これは官邸も承知しておりますので悪しからず。」


「そ、そうなのか…私は何をすれば良いのだ?」


「不審者を全員尋問すりゃ良いんじゃね?」


エンメルスがぼそりと呟いたが、静まり返った指令室内では全員に聞こえてしまった。それを聞いた鴻上一佐は堪え切れずに笑ってしまったが、当番もまた同時に笑い出したので余り目立たなかったのが幸いした。枝野陸将補は他国の軍人に怒りをぶつける事が出来ずに、当番に当たり散らした。


「な!貴様等!何が可笑しい!!」


「まあまあ、枝野陸将補。取り合えず未だ基地内に侵入した不審者は全員捕縛した訳ではありません。それにそれを企画した背後の連中も未だ判明してはおりません。鴻上一佐は連中の捕縛に関して先程まで指揮を取っておりましたが、貴方に呼び出されてここに居ます。この時点で既に誤りを犯しています。早急に誤りの是正を願います。それと尋問に関しては、あなたが直接にせよ間接にせよ必ず行って頂きます。宜しいですね?」


「わ、分かった。早急に対処しよう。鴻上一佐、すまんが引き続き指揮を頼む。」


「了解しました、鴻上一佐指揮に戻ります。」


鴻上一佐は部屋を出る直前に高田の方を向き、にやりと笑って指揮に戻っていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 話し合い主義の連中ってのは基本的に勘違いしてるんですよね… 背景に 価値観や倫理観が同じというのがまず必要。 アメリカのように多民族や急激な移民増だと価値観のすり合わせが出来なくなってます…
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