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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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38.日本政府の混乱

「全てのゲリラコマンドは掃討が完了しました。」


「敵コマンドで生きて捕獲した者は居るか? そして我が方の被害はどの程度だ?」


「敵コマンドの生存者は居ません。全員自害した模様です。我が方の被害は……死亡が最初の爆発時に案内をしていた戦車3名、特科4名の計7名。基地内での戦闘で12名です。その他重軽症が22名です。」


「死者19名、重軽症22名か…」


「それとハルメル中将から気になる証言が出ました。この攻撃はガルディシア帝国陸軍の第一軍の攻撃ではないか、との事です。その証拠として襲撃してきたゲリラコマンドは第一軍の制服を着用していた、と申しております。」


「そんな馬鹿な話はあるか。態々自らの身分を明らかにしながら潜入してくるコマンドがどこに居る。何等かの欺瞞工作だ。恐らく何等かの工作で第一軍を標榜していたに違いない。どういう裏があるのかを調べたかったが……」


「申し訳ありません。全員が毒物を仕込んでいて、戦闘能力を失った段階で自害しておりました。」


「益々偽装を裏付ける様な物だろうが、それは。主義主張があるのなら捕虜になってでも生きて目的を達成しようとするだろう。生きて捕まるとバレる何かがあると言っている様な物だ。ハルメル中将を呼んできてくれ、話を聞きたい。」


「了解しました。」


笹川陸将補の元に連れられてきたハルメル中将は、辺りを見渡して被害状況を確認した。どうやら既にニッポン軍は潜入コマンドの制圧に成功した様で、既に後片付けに皆が動いていた。どの程度被害を与えたかは不明だが、やはりこの軍は立ち直りが早い。彼の目には彼等の混乱は一瞬であり、思った様な被害を与えた形跡も無い。


「おお、ご無事で何よりです、ササガワ陸将補!」


「ハルメル中将、お伺いしたい事が2、3ありまして、ご足労願いました。」


「何ですかな? 私で答えられる事であれば何なりと。」


「何故、この基地にこの時期に襲ってきたのですか?」


「さて何でしょう。私も彼等とは国は同じでも軍の所属が違いますからな。ただ、彼等は第一軍に所属している様だった。第一軍と言えば皇帝直属の精鋭陸軍であり、その皇帝が以前指揮していたのは既に一度壊滅した第二軍。彼等に繋がる残党か何かの可能性が高いのではないでしょうかな。」


「なるほど……つまり彼等は皇帝の私兵かそれに類する何かだと?」


「何れそれに類する者かと。まぁ所属がどうあれ何等かの繋がりはあるのでしょうな。」


「……」


笹川陸将補は、目の前の男ハルメル中将を疑っていた。

彼等が来たタイミング、そして彼の事前の主張。帝国内の別の派閥が存在する事。その別の派閥であると称する襲撃してきたゲリラコマンド。つまりは掃討された第一軍を偽装する潜入コマンド達は、見た目とは別の所属だろう。ハルメル中将に聞いても答えは出ない。それはこのコマンドを送り出したのがこのハルメルだからだ。つまりハルメルと敵対する勢力を自衛隊の戦力を以って減らそうと画策しての攻撃に違いない。笹川陸将補はこの襲撃事件に対しほぼ正確に洞察していたが、残念ながら彼の洞察内容は世に出る事は無かった。


PKFロアイアン南基地襲撃事件によって日本には激震が走った。

PKF基地は絶対に安全であり自衛官には被害は発生しない事を明言して派遣していた日本政府への打撃は大きく、自衛官被害発生によって政府に対しての野党の攻撃は集中した。特に非難の急先鋒は野党の恒西議員からの物だった。その結果、派遣されていた第五旅団長笹川陸将補は自衛官殉職の責任を取る形で解任されたのだった。


結果的に日本政府は皇帝への圧力は多少はちらつかされた物の、その後の襲撃してきた身元調査で第一軍に所属している兵では無い事が判明し、ガルディシア皇帝ドラクスルは改めて、日本軍PKF基地襲撃とは無関係である事を表明した。そしてドラクスルは日本の調査隊に対し、真摯に全力的に協力を行った事から日本からの疑いも晴れた。ドラクスルにしてみたら、降って湧いたような疑いを掛けられ、敵対する気も無い国から敵意を向けられて、慌てて全面的に協力したに過ぎないだけだったが。


そしてこれはガルディシア帝国の一部急進派に誤ったメッセージとなった。

通常の論理で行けば襲撃を行った者が悪い。つまり襲撃の出所を徹底的に調査した上で、その襲撃者への攻撃を行うという事が当然の流れだった。つまり、そうなればハルメル中将の工作が実を結べば皇帝の第一軍へと攻撃の矛先が向いただろう。だが日本は何故か自らの責任を追及し、守るべき自軍の将校に対して責任を追及した挙句にその将校を解任したのだ。つまり何等かの攻撃を仕掛けて日本軍に被害を齎した場合、彼等は自ら勝手に弱体化してゆく組織という事が判明したのだ。旧皇帝派閥は、この襲撃に関する結果に全面的とは言えない物の、意外な結果には満足していた。


「ハルメルめ、意外な結果を出してくれたものだ。」


「ザームセン公爵。思ったよりも面白い事になりましたな。ニッポンという国、実に面白い。いや面白いというよりは馬鹿な国ですな。あの襲撃事件がこんな結果になるとは……」


「うむ、何故にそういう結論に至ったかは皆目分からんが、あのニッポンの基地司令が解任されたのは確かだ。そこから導き出される事は、連中は何等かのミスが発生した場合、内部に責任を求める癖があるようだ。そんな事を繰り返していたら、自ら弱体化していく事も気が付かないとは、愚かな国だ。」


「その愚かな国であっても、戦力は侮れない。とするならば、似たような事を頻発させてやれば…」


「そうだ、ボーデン。戦争とは間違った事を多くした方が負けるのだ。ニッポンの様な国であっても、戦う際に間違った事が連中に多く起きれば、我々の兵力が如何に連中に対抗出来ぬ物であっても我々が勝つことも可能なのだよ。」


「公爵、既にその策があると?」


「考えても見ろ。連中は何か問題が発生すると自らに原因を求める連中だ。挙句、戦う能力がある者を罷免してでも、定めたルールに従おうとしておる。我々はそれに付き合う必要など無い。策も何も貴公が今申していたであろう。同じ事を頻発させてやれば、と。」


「確かに……これは面白い事になりそうですな。」


そしてPKFロアイアン南基地は新たな司令官を迎えた。だが、政府からの人事介入で非実戦部隊からハト派と見られていた枝野陸将補が派遣されたのだ。これは野党からの追及を躱す目的もあったのだが、より大きな混乱を齎す事となった。

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