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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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35.これは訓練ではない

自衛隊のPKFロアイアン南基地のゲートはコンクリートバリア等の対乗用車用の障害物は設置していない。それはここにはそのような用途の自動車が存在しないからだ。単純にゲートの棒と鉄条網を巻いた柵があるだけである。彼等囚人部隊が乗ったバスも、ここを通過した際には通り一辺倒のチェックしか成されなかった。囚人達は完全に見学者を装ってゲートを無事に通過した。そしてその頃、食事会を行っていた席では笹川陸将補とハルメル中将の他、レティシア大隊の指揮官達が食事をしながら、自らが見た物に対する情報交換をしていた。


「大尉、見ましたか? あのデカイ大砲が付いた車。ああ、戦車って言うんでしたっけ?」


「ああ、見た。1kmの距離で50cmの装甲板を撃ち抜くのだそうだ。そもそも我々の技術力じゃ50cmの装甲版とやらも用意出来ないだろうな。しかも高速で走りながら撃ち、それがまた外す事無くだ。あんなモノが何台も揃っているとはな。」


ブルーロはこれから訪れるであろう計画の過程を考えて余り浮かれる気分では無かったが、自衛隊が装備している武装の数々を見て、更に気分が沈んだ。こんな恐ろしい武器を山ほど持っている連中に対するテロとか、正気の沙汰じゃない。そもそも連中の装備は明らかに彼等と同等の存在を相手にする装備だ。装甲車両なんて持っていない俺達相手なら、良く言ってアリの巣に湯を流し込む程度の苦労で俺達を殲滅出来るだろう。


「第二軍はあの戦車とやらに殲滅されたそうです。しかも、あの時は10台程度の戦車だったそうです。何やら型式がその時の奴よりココにある方が古いと言っていましたが。」


「ああ、10式とか90式とか言っていたがな。どちらも俺達にゃ歯が立たん相手だろう。」


「それと自走155mmりゅう弾砲でしたけ。あれが最大射程30kmから40kmと来た日にゃ……近づく事も出来ないですね。」


「寧ろ歩兵であったなら、それの方が脅威だな。何せ撃たれている事に気が付かずに彼方から殲滅される。しかもアレだろ、相手の位置を正確に知る術があるんだろ? 戦いにならんだろうな、これは。」


「見学するだけでどれだけニッポンが危険な存在か分かりますね…あの普通科とか言う歩兵達の装備も訳が分からない程に重装備でしたね。あの単なる筒みたいなのが大砲だったり、銃が全て連射銃だったり。」


「有り体に考えて、連中が俺達ガルディシアに全て見せる、ってのは圧倒的な戦力差を見せた上で戦意を挫く作戦なんだろうな。だから全てを見せているし、その性能も隠す事無く開示している。その作戦は正直凄い成功していると思うぜ。現に俺の戦意は挫かれた。こいつらとは喧嘩したくない。」


「ブルーロ大尉、結局戦うのは人間ですよ。彼等ともしやり合うのであれば、それに適した戦術がある筈です。」


「お前、彼等と戦う所が一瞬でも想像出来たか?俺には出来ないよ。死ぬ場面しか想像出来なかった。」


「そりゃ…確かに…」


ブルーロと話していたヴァルター曹長は、彼が言うようにもし彼等と戦った場合はどうなるのかを想像した場合、戦う前には死んでいる想像しか出来なかったのだ。そして前述の装備以外にも様々な装備を惜しむ事無く自衛隊は開示し、質問を受けた際には全て答えしていたのだった。そこから引き出される答えは、ガルディシアの帝国軍人であれば誰もが共通の内容となっただろう。すなわち我々ガルディシア帝国軍は、ニッポン軍と完全に敵対した瞬間に終わる、と。


和気藹々となる筈の食事会だったが、誰しもが先程まで見学していた物が出来る事を考えた場合、自分達に未来が無い事を悟ってしまった。それが故に段々と皆の口数も少なくなり、遂には話しているのは笹川陸将補のみとなってしまったが、突然に彼の携帯が大きな音で鳴り出し、彼の発言を遮った。

そして、その時は来た。


突然に、食堂の外から爆発する音と振動が彼等を襲った。

と、同時に基地全体を警戒を表すサイレンと放送が鳴り響いた。


「敵襲!敵襲!!警戒せよ、これは訓練ではない! 繰り返す、これは訓練ではない!」


そして基地警備担当の将校が慌てて食堂に入ってきた。


「何事か!」


「閣下!敵襲です、見学者に紛れてゲリラコマンドが潜入しました!」


「敵の規模は!?」


「30名以下です。既に基地内に浸透しています。閣下、安全な場所に退避願います。」


「うむ、そうしよう。彼等は安全が確認出来るまで別の場所で待機してもらえ。護衛は付けろよ。」


「了解致しましたっ!」


こうして笹川陸将補は別の場所へと移動して行き、残されたハルメル中将とレティシア少佐、クルト中尉の3名と、それ以外の7名は自衛官達に別々の場所へと連れられていった。そして基地内はたった24人の敵ゲリラコマンドに混乱を来たしていた。彼等ゲリラコマンドは、爆発物と剣を以て襲い掛かっていた。そして基地内である事から最初発砲に躊躇していた自衛官には結構な被害が発生していた。だが、皮肉な事に被害が発生し始めた頃から自衛官達は腹を括って反撃し始めた。そして基地司令部も状況を把握して立ち直りつつあり、対ゲリラ戦として反撃を開始し始めた。


「A-3地区、建物内突入、敵兵駆逐、掃討完了。」

「B-1地区、倉庫内クリア。敵兵無し。」

「A-2地区、敵兵少数潜伏の模様、人数不明。至急包囲殲滅せよ。」

「B-2地区、掃討完了。敵死体の数は5。」


「状況はどうだ、皆川幕僚長?」


「笹川陸将補。現在、孤立した敵兵の駆逐に状況は移りつつあります。」


「ふむ、30名程だと言っていたな。この機に乗じての別動隊とかは居らんだろうな?」


「居らん様ですな。何を目的としているかは不明ですが無謀過ぎる。」


「確かにな。こちらの被害はどの程度だ?」


「奇襲初期段階で見学の準備を始めていた戦車と特科の説明員に被害が出ています。人数と怪我の程度は不明。」


「ふうむ、そうか……連中の武装は?」


「何等かの爆発物と剣の類ですね。銃は持っていない様です。」


「そんな物で奇襲しに来たのか? 決死隊なのか?」


「何れ判明するでしょうが…死体を確認した結果、ガルディシア帝国陸軍の制服だそうです。」


「なるほどな。後でハルメル中将に確認させるか。」


その頃、ハルメル中将達は安全な場所へと移動する途中で建物のドアを出ようとした瞬間に、どこか他の場所からの爆風でドアごと吹き飛んで前を歩いていた自衛官が巻き込まれた。後ろを護衛していた自衛官が慌ててて倒れた自衛官に駆け寄るも既に事切れていた。


「え、遠藤一士?おい、遠藤!! くそっ……ここは駄目だ、皆さん引き返して下さい!」


その時、建物の側面に空いた穴から敵兵が侵入してきた。既に侵入してきた敵兵は抜刀しており、後方を護衛していた自衛官を切り捨て、更にこちらに切り掛かる態勢に入ったまま、その敵兵は固まった。


「なっ、何故!? 何故お前がここに!!? クルト!!」


その質問にクルトは答えられなかったが、レティシア少佐が黙って剣を抜いた。そしてレティシアは固まっていたオスカーを一閃の元に切り捨てた。オスカーは即死だったが、その死に顔は"どうして?"という疑問が張り付いた顔だった。ハルメルはPKF基地攻撃の際にもし囚人部隊と鉢合わせた場合は即座に囚人を切り捨てよ、との命令していたのだ。もし仮に生きていて情報を吐かれ命令の出所が帝国第四軍であるという事が漏れたら今までの工作が全て無駄になる。その為、潜入した彼等囚人部隊は自衛官に会ってもレティシアの部隊に会っても殺される運命だったのだ。


だが、ハルメル中将達は案内していた自衛官が殺されてしまい、PKF基地内で案内も無いままの状態で孤立していた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ついに自衛官から戦死者ですか… とは言え、日本人ですからねー アメリカさんと違って、基本的にはこれくらいのテロ状況で、テロ報復やら対テロ戦争には進みにくいですよね…(アメリカのように沸点低く…
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