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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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31.ザムセンは内戦一歩手前

「ゾルダー、第二艦隊のロトヴァーン侯爵からの協力が得られるようになったぞ。」


「本当ですか、アルスフェルト伯爵!それは心強いですな。」


「ああ。ただムルソーは遠い。協力を得られるからと言っても事前に動いてしまえば色々都合が悪い事を知られてしまう。つまりは第二艦隊に関しては無力化という状況に近いかもしれんよ。」


「いや、第二艦隊が敵に回らなくなるだけでも大きいですよ、伯爵。」


「それとだ。どうにも第一艦隊の高級将校の一部が不穏な動きをしている。恐らくザームセン公爵派閥だと思うんだが、海兵が陸戦の訓練を開始しているらしい。しかも第一軍の協力も無しでだ。君の所に何か情報は無いか?」


「私もその動きは掴んでいます。どうやら以前から小さい形でそのような動きはあったのですが、秘密警察解体と第一軍への編入辺りから加速しているようです。それと、詳細は不明なんですが長期収監されている囚人達が一部移動しています。問題は、その囚人達の移動の痕跡が消されている事です。」


「なんだそれは。囚人が移動?どこにだろう。」


「移動の痕跡自体は消されてはいたのですが、港の出港記録と照らし合わせると第一艦隊所属の高速駆逐船が積載不明の荷物をヴォルンに運んでいるようで、恐らくはそれが囚人達かと。ただ、何故記録を消しているのか理由が不明ですね。」


「ふーむ……良くある手では、囚人達で陽動か何かの作戦を実行するとかだな。海兵の訓練といい、近々何か動きがあるかもしれん。目的は何だ……まさか、クーデターか?」


「いや、それは無いと思います。陸軍第一軍は秘密警察軍の編入により戦力は相当に強化されていますから、ザムセンをそれこそ灰にする覚悟が無ければ海兵の戦力ではクーデターは成功はしませんよ。それにご存知の通りエウグストの連中による奇襲に備えてザムセンはほぼ戒厳令状態ですから警戒も厳しい。そんな所に敢て頭を突っ込んでくる奴は居ないと思いますよ。」


「いや、そうだよな。だとすると一体何が目的なんだろう。引き続き探りを入れてみてくれ。何か判明したら報告が欲しい。ああ、そうだ。戒厳令といえば、ザムセン北のトンネルは今どのような状況だろうか?」


「エウグスト独立軍の侵入に備えて侵入路の限定と遅滞を目的とするトンネルという名目で作成中で、完成度は既に7割方といった所ですね。陸軍第一軍が打って出るには逆に律速になりますから、当面はエウグストへの侵攻は無いものと考えています。皇帝ドラクスルはニッポンとの敵対は避けようとしていますね。」


「ああ、陸軍第二軍があれだけやられたからな。対抗する術が無いのなら、敵にしない、敵にならないという方向は正しい。問題はニッポンを警戒し過ぎて足元が疎かになる事だ。どうも海軍の動きが気になる。」


「ああ、それに関しては結構な頻度でザームセン公爵邸で将軍達が集まっているそうです。判明しているだけでボーデン子爵、ハイントホフ侯爵、ハルメル中将等が夜半迄色々と話し合っている様ですね。」


「ハルメルもか。陸軍も絡んでいるとなると…クーデターの可能性は高いな。だとすると、今後は彼等旧皇帝派閥と我々が衝突する可能性も高くなってくるな……勧誘とかも気を付けた方が良いね、ゾルダー君。ああ勧誘と言えばグラーフェン中佐の方はどうなっているかな?」


「グラーフェンは、この手の勧誘に余り向きでは無いので、他の信頼出来る者に任せております。今の所は情報が漏れる事無く順調に引っ張り込めていますね。」


「そうか。何れにせよ状況が良くない方向に動いているような気がしてならないよ。何か新しい情報が出てきたら教えてくれたまえ。それと、例の囚人達の件も頼むよ。」


「分かりましたよ、伯爵。それでは通信を切ります。では。」


通信機を置いたゾルダーは、アルスフェルト伯爵が言った"陽動か何かの作戦"の可能性について考えていた。今現在、バラディア全土では戦闘は発生していないし、不穏な動きも無い。それは日本から派遣された第五旅団がロアイアン南に駐屯しているからこその平和だ。そしてザムセン-エウルレンを結ぶ街道のザムセン側の出口にはトンネルが築かれ双方にとって交通の要害となっている事から、ここでの戦闘もまた発生しにくい。そう考えると陽動として攻撃を行う様な目標となる場所が無い。


可能性が無い…目的は何だ…? 陽動…囚人部隊…

囚人部隊の常として、その作戦は生き残る可能性が低い場合が多い。そしてエウルレンに対する攻撃を行うなら、陽動の可能性は無いだろう。そもそも実戦力となる第三軍と第四軍には日本の第五旅団の存在が大きな重しとなっている。多少の陽動を行った所で効果は見込めず、ましてや少人数過ぎて陽動にもならずに殲滅されるだろう。


それでは破壊工作コマンドとしてエウルレンへの潜入を目論む部隊なのか?

それも囚人部隊としての性格から考えると無理な話だろう。彼らは自己が生存する為に即座に転向するなり逃亡するなりする筈だ。何せ囚人なのだ。減刑なり何なりを餌に飛びついた任務で、潜入などという自ら自由になれる作戦なんぞには投入されない筈だ。それにこの手の類では親戚縁者が居ないような犯罪者が選ばれている筈だ。そうすると親類縁者を人質にする事も出来ない。それが故にル・シュテル領への潜入の可能性は無いだろう。


一体全体、何を目的としているのだ?

もしかして陽動では無い?となると…

目標として、少人数で攪乱可能な場所?

……ニッポン軍の基地か!?


だが、我々帝国軍として考えた場合、それはあり得ない筈だ。

彼等ニッポン軍の能力を考えたら、初動の遅れはあるだろう。だが状況を分析した後の反撃は苛烈を極める。そんな攪乱目的程度で日本の基地を攻撃しても何のメリットも無い筈だ。必ず苛烈な反撃を受けて我が方が弱体化するのは必至だ。そう考えるとニッポンの基地の可能性は薄いだろうが……何かを見落としている。何かが合致しない。それは何だ?


ゾルダーは核心に近い所までは迫っていたのだ。

だが、まさか同じ帝国軍同士で相手の弱体化を図る為の破壊コマンド、という所までは至らなかった。既にガルディシア帝国内は内戦一歩手前であり、旧皇帝派閥と現皇帝派閥による暗闘が表舞台に出ようとしていたのである。

いつもご覧いただき有難う御座います。

昨日ジャンル別日間1位になりました!

……朝見たらもう落ちてましたwwww

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