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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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28.ザムセンから来た囚人達

レオポルドは正直、この作戦には余り賛同していなかった。何故ならば余りにも相手側の反応に依存した作戦だったからである。我々が思うように相手が動いてくれるならともかく、そうでは無かった場合には我々自体が危険になる。それどころか、帝国そのものが危険に晒される可能性も高い。だが、決定の判断が下され既に動き出してしまっただけに、今更異を唱える事も出来ない。潮風に晒される駆逐艦の甲板上で、レオポルドは近づくヴァントの港を陰鬱な気持ちで眺めていた。


「局長、そろそろヴァントに到着します。囚人たちの下船準備も出来ています。」


「うむ、ご苦労。彼等に体調不良な者とかは居るか?」


「船酔いの者は何名か居りますがその程度です。」


「分かった、到着次第直ぐに第四軍司令部に行くぞ。」


レオポルドと囚人たちを乗せた帝国海軍所属の高速駆逐艦はヴァント港に接岸し、直ぐにタラップが掛けられた。この囚人達はザームセン公爵に命じられた情報局が、軍刑務所に収監されている中でも特に戦闘能力が高く残忍な傾向にある者達を厳選した決死隊要員だった。彼等は懲役50年以上、事実上無期懲役で死刑の一歩手前である者達ばかりが選ばれており、彼等に対して今作戦において計画が成功した暁には、懲役を免除するとの約束が成されている。命じる方は、必ず死ぬだろう命令を下し、命令を受けた方はどうやって逃げ出すかだけを考えていた。レオポルドにも囚人達が考える事については当然或る程度の予測が付いている事から、解体直前に秘密警察から何人か優秀な者を引き抜いて情報局に転籍させた者達を同行させていた。彼等は囚人輸送専用の馬車によってヴァント総督府にある第四軍司令部のハルメルを訪れた。


「ハルメル中将、囚人達の輸送完了居たしました。引継ぎをお願いします。」


「おお、レオポルド。良く来たな、ザムセンで連中を連れ出した事は誰にも漏れてはおらんな?」


「その為の情報局ですよ。一切証拠も残してはおりません。」


「うむ、連中はどんな具合だ?」


「体力頑強、生存能力が高く極めて危険な連中です。何人かは船酔いの影響が抜けきっておりませんが、多少の時間で回復すると思います。親類縁者の一切無い25名を要望という事で、その数は満たしております。」


「そうか。ご苦労だった、レオポルド。あとはこちらに任せてくれ。彼等はレティシアの部隊で鍛えてから例のアレを実行する予定だ。」


「レティシアの部隊ですか。私もそこに立ち寄っても宜しいですか?」


「ああ、元々彼女の上官だからな。積もる話もあるだろうから寄って行きたまえよ。案内を付けよう。おい、当番兵!レオポルド情報局長をレティシアの所に案内せよ。外の囚人達も含めてな。」


「感謝します、ハルメル中将。では。」


こうしてレオポルドはハルメル中将の司令部を辞去した後、囚人達を監視していた情報局員を第四軍司令部の兵に引き渡し、そのまま彼等囚人達と共にレティシア部隊の元に向かった。


「あ、レオポルドだ!ひっさしぶり!! 私、少佐になったよ!」


「お前は相変わらずだな、レティシア。今度の作戦に使う囚人達だ。とても危険な連中なので気を付けろ。まぁ、お前に対しては野暮な事を言っているのは自覚しているが、一応な。」


「なーるほど、これがハルメル中将の言っていた囚人兵って人達ね? 何を鍛えれば良いの?」


「…お前、そこまで聞いていて何を鍛えるかは聞いていなかったのか?」


「なんか言ってた気がする。あー、破壊工作だ。でしょ、レオポルド?」


「全く…ブルーロやギュンターはどこだ?連中に話した方が早そうだ。」


「ちょっと待ってね、今呼んでくるね。」


彼等囚人達は日本のPKF基地で破壊工作をそれと分かるように行う予定だ。その為に、破壊工作の技術を習得しなければならない。爆発物やら隠して持ち込める暗器の類、それらの作り方、使い方を訓練しなければならない。そして戦闘訓練も一通り行われる。それらの説明を呼ばれてやって来たブルーロ大尉が行った後に、まずは彼等の体力を見ようという事で訓練所へ移動した。

様々な理由で刑に服している囚人達だが、この任務を全うした場合は無罪放免となる。それに監視も付かない作戦行動となる場合は、失敗したとしてもどこなりと逃げる事が出来る機会もあるだろう。いや、この時点で俺達には脱出する機会だってある筈だ。そう考えた彼等囚人達は、レティシア大隊の訓練場に連れていかれ、手足の鎖を外された瞬間に示し合わせたようにレティシア達に襲い掛かった。レオポルドはやっぱりという気持ちと共に、レティシアが全員殺してしまわないかを懸念した。


「レティシア!殺すなよ!!」


「え?駄目なの? 仕方が無いなぁ…でもこれ訓練用の剣だから、叩く事しか出来ないよ?」


「このアマ何を言ってやがる。お前等を全員この場でぶっ殺しちまえば、あとは俺達は自由の身だ。知ってるぜ、俺達を極秘に連れ出した事を。どうせ国には内緒で後ろ暗い事をやろうとしてんだろう、テメエらはよぉ。」


「これから戦うって時に、無駄口ばかりで全然駄目ね。」


「いちいち勘に触るぜ、このクソアマ。10年振りのシャバだ。テメエの腹ひっ裁いてそこに突っ込んでやるぜ。」


「ふふっ、言い方面白ーい。頑張ってやってみてね!」


この場にはレオポルドとレティシア、そして呼ばれたブルーロ大尉とギュンター中尉、そして囚人達を連れてきた第四軍の兵達が居たが、殆どの囚人達が向かって行ったのはレティシアのみだった。第四軍の兵はレティシア大隊の実力を知っているだけに、彼等囚人を哀れみの視線でただ眺めていた。そしてレティシア自身が手出し無用ね、と叫んで抜刀した。その中で、一人の囚人だけがその場から動かず、全体を眺めていた。


次々とレティシアは襲い掛かる囚人達の攻撃を避け、同時に一撃を入れて行く。一撃を受けた囚人達はそのまま戦意喪失し崩れ落ちてゆく。あっという間に半分程が倒れた状況になった時に、最初に叫んでいた囚人が、その場に動かない囚人が居る事に気が付いて、その男に向かって叫んだ。


「テメェ、クルト!!何をじっとしてやがる、テメエも手伝え!!この女をやるぞ!!」


「はぁ、何を言ってんだオスカー。その女はアレだ。レヴェンデールの狂女だ。俺も命は惜しい。」


「え? レティシアって、あのレティシアか?」


「はい、隙だらけー!」


オスカーと呼ばれた男がレティシアの一撃を喰らって昏倒した。

そして残りの囚人達は一斉に腹ばいに伏せて、降伏した。

ZOOM飲み会で呑み過ぎて二日酔い…

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