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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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26.第五旅団のPKFロアイアン南基地見学

今の所、第五旅団が駐屯するロアイアン南PKF基地では、第五施設隊がフル稼働で様々なインフラの設置や整備を行っていた。彼等と比較すると、比較的暇な状況にある特科や戦車大隊は日々この異世界の基地で訓練に明け暮れていた。だが、それもなるべく燃料消費を抑える様に命令されている事から、専ら身体を動かす事ばかりの毎日だ。今日も訓練を終えて雑談に興じるのは派遣された第五旅団第五戦車大隊第三戦車中隊の90式戦車に乗る砲手、田所3等陸曹が土井陸士長と帝国の監視塔を横目に見て歩きながら、話していた。


「しかしゴラン高原やらハイチやらスーダンでもこんなの持って来なかったんだけどなぁ。」


「ああ、まだ戦車なら分かるけど、特科まで来てるもんな。」


「今の所、何も不穏な状況にはなってないけどさ。あいつらも大変だよな。」


「あれだろ、ここから随分南の方で第二戦車連隊第四中隊が戦って相手全滅したじゃん。そら警戒もするってよ。」


「ほら、また見学者のバスが入ってきたぞ。無駄話を切り上げてキリキリ動け!」


「了解です、高橋一曹!!」


このPKF基地では、見学を要望した者は100%受け入れていた。

基地の目的自体はこのロアイアン南地方の安定だ。武装勢力への睨みを効かせてこちらへの攻撃を控えさせると共に、周辺住民の安全を確保し、農民達が戻りやすい環境を作る。そして戻った後も恒久的に安全な生活が可能となれば任務完了である。だが、目の前に帝国陸軍が存在する事は、幾ら自衛隊という組織があっても不安が残る。


その為、見学に来た者はエウグスト人のみならず、ガルディシア帝国人も受け入れるようにした。そして見学者達にPKF基地にある稼働可能な兵器の類を全て見学可能とし、更には彼等に理解し易いレベルで性能の開示もしていたのだ。その結果、割と近隣に基地を構えるガルディシア帝国陸軍第三軍の将校達がPKF基地に訪れる様になっていた。彼等は帰りがけには一様に死にそうな顔をして去っていったが、彼等が自分達の基地に戻って話した内容の信じ難さが次の見学者達を呼んだ。そこで第五旅団ではガルディシア帝国のロアイアンに居る第三軍専用のバスを1台用意し、彼等を専用で見学させるツアーを組み、定期的にガルディシア第三軍の見学希望者を受け入れるようにしていた。


「今日来るのは避難民ではなくガルディシア帝国軍人の方だ。しかも今日の見学者は帝国陸軍第三軍の司令官だ。くれぐれも粗相も不慮の事故なども起さんようにな。」


「一曹、不慮の事故って何ですか?」


「茶化すな、田所三曹。公式には我々は第三国であって帝国とは敵対していない。敵意をもって接するな。」


「敵意も何も連中のレベル考えたら、こちらの武器の脅威度がどれほどなのかも分からんのでは無いですか?」


「だからそれを見学させて懇切丁寧に教えてやるんだ。敵に回したらどんな目に遭うかをな。それで連中の戦意を挫ける事が出来たなら、これほど安全な事は無いだろ?」


「なるほど! 田所三曹、張り切って説明致します!」


「あんまりやり過ぎんなよ。」


今回のバスツアーでは、帝国第三軍司令シュテッペン中将と参謀のマクスウェル大佐が参加していた。自衛隊第五旅団の旅団長である笹川陸将補から公式な招待を受け、見学に訪れていたのだ。一番最初に、どこからも見学を受け付けるとPKF基地からの連絡を受けた際に直ぐに見学に行きたかったシュテッペンだったが、その際に第四軍のハルメル中将が表敬訪問していたので、彼に優先的に見学を譲ったのだった。ようやく日本軍の基地を見学する機会が訪れたシュテッペンは浮かれていた。


「漸く彼等ニッポン軍の全容がこれで掴めるという物だな。以前に送った将校達からの報告はどれも信じ難い物ばかりで、自らの目で確認せねばと思っておったのだよ、マクスウェル君。」


「いや確かに。どうも彼等の報告書はどれも大袈裟な内容ばかりでしたから。」


「それにしても……見慣れない大型機械が沢山あるな。謎の軍隊がこれで解明出来ると良いのだがな。あれらは見学可能なのだろうか。どういう用途なのだろう。」


「多分に見学させては貰えない部分もあるかとは思います。機密は彼等もありましょうから。」


「ああ、そうだな。何れ全貌は掴めよう。だが、それを知るのは我々でありたいものなのだが。」


こうしてシュテッペン中将を乗せたバスはPKF基地内部の司令所まで彼等を運んだ。到着と共に軍楽隊が演奏を始め、バスの周りには緑色の見慣れない軍服を着た兵達が整列し、彼らを出迎えた。


「お越しいただきありがとうございます、当基地司令の笹川陸将補です。本日は日本の平和維持活動拠点であるこの基地を隅々までご覧いただければと思います。」


「お招き預かり恐縮至極です。ガルディシア帝国第三軍司令のシュテッペン中将です。本日は宜しくお願いします。」


お互いが敬礼と簡単な挨拶を済ませ、シュテッペンが基地内にある施設を一通り眺めた後で笹川陸将補は切り出した。


「閣下、どのような物からご覧になられますか?ご希望があれば、それを優先的にお見せ致しましょう。」


「どのような物……あの大きな乗り物のような類、そしてあの空飛ぶ機械、それらを見たいですな。」


「そうですか。それでは戦車大隊と特科の自走砲からですな、ご案内します。」


こうしてシュテッペンとマクスウェルは、高橋一曹の説明で戦車という物がどういう行為を目的とし、それを実行する為の装備が如何にガルディシアにとって恐るべきものなのかを理解した。しかも自走砲や偵察警戒車やオートバイといった目的別にそれぞれ能力が特化した乗り物があり、それら全てがガルディシア帝国にとって致命的だった。そして彼等の歩兵の装備自体が帝国軍の歩兵とは隔絶した性能と能力を持ち、連射銃云々どころではない攻撃力を持っている事も判明した。


「これは……なんというか……ニッポン軍が持つ兵器はどれもこれも我々では対抗出来んな。」


「あの乗り物、戦車でしたか。あれを破壊する能力は我々にはありませんね。」


「我々の持つ野砲を直撃で当てられる事が出来れば、或いは可能かもしれんが……あの速度で動かれたら、まず当てる事など不可能であろう。」


彼等は戦車や偵察警戒車の試乗までさせてもらい、どれ程の速度で移動が出来、そして移動中にも必ず当たる砲撃が可能である事を実演して貰った。しかも大型の高威力を持つ連射銃もあり、これらは通常の砲扱いでも差し支えない程の威力を持ちながら、恐ろしい連射が可能だ。12.7mmというからには通常の弾丸よりも多少大きいレベルだが、それがあの威力なのか、と。彼等が敵となった第二軍が、どれ程の犠牲を出しても突破出来なかった第二軍の壊滅理由を完全に把握出来た。これらの装備を隅々まで持つ日本軍のこの基地は、バラディア全土を制圧するだけの能力がある。正面切って戦うなら、補給の続く限り日本軍は無敵だろう。だが…ともあれ、今日得た情報は直ぐに持ち帰らなければ。


シュテッペンがPKF派遣の第五旅団の実力を把握しつつある頃、ザムセンでは引き続き日本に対する欺瞞攻撃を行う作戦を検討していた。


「そういえば、今日辺りシュテッペンの奴がニッポンの基地を見学しておるな。」


「ニッポンの基地見学…そうか。それだ!」


「ん?なんだ、ハルメル中将。何か良い策でも浮かんだか?」


「おおよ、連中は基地見学に関しては誰でも受け入れると表明しておる。儂も見学しに行ったしな。つまりは連中の基地には簡単に立ち入る事が可能、という訳だ。古来より要塞は外より内の方が弱い、と言うではないか。」


「ふむ、つまりは見学として潜入し破壊工作をした後に、皇帝軍に仕業に見せかける、という事か?」


「そうよ。問題は脱出方法だが、潜入破壊工作部隊を決死隊で構成するならば可能ではないか?」


「なるほどな。死んでも良い部隊か。あれだな、重犯罪を犯した連中を減刑と引き換えに軍刑務所から出して使うか。それならば惜しくもあるまい?」


「その通り、ザームセン公爵。あとは我々の立ち位置が現皇帝とは違うという事をニッポン軍に理解させる方法だな。これは私が再度ニッポン軍の基地に訪れて、ニッポン軍に対して理解を得られるよう動こう。」


「彼等はそれで理解するかな。それを行う時期も大切だろう。早めに手札を切って内容を知られてしまうと我々が反逆罪に問われるぞ。そこは大丈夫か、ハルメル?」


「そんな無様な真似はせんよ。任せておれ、ボーデン。」


こうして日本が良かれと思って見学をさせていたPKF基地公開は、次の惨劇の舞台として着々と準備が整えられていったのだ。

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