24.旧皇帝派の企み
「至急の要件とはなんだ、ハインツリィー大佐?」
「はっ、只今陛下に呼び出しを受け、秘密警察の解体を告げられました。」
「なっ、なんだと!秘密警察を解体するだと!?」
「尚、解体した秘密警察は第一軍へと編入する、との事です。」
ハインツリィー大佐から報告を受けたレオポルドは驚きの余り、ついらしからぬ態度を取ってしまった。一拍置いて動揺から立ち直ったレオポルドは、現皇帝への反乱を行うにあたり主要な兵力となる帝都ザムセンに居る秘密警察軍が解体され、しかも第一軍に編入されるとなると、ザームセン公爵の計画が根底から覆される事に気が付いた。
「そうか…報告ご苦労。俺は暫し外出する。諸般の手続きがあるだろうが、後は頼む。」
ここで帝都ザムセンに於けるザームセン公爵が使おうとしていた戦力は海兵が4万、秘密警察軍が2万の計6万だった。恐らく再建中の第一軍残余3万を相手にしても優位に事を進められる筈だった。だが、秘密警察軍の2万と第一軍残余3万が相手となると、相手の方が数の上では優勢となる。装備に関しては、第一艦隊がある為にザームセン側が優勢であっても、威力が大きすぎて街を廃墟にしてしまう可能性がある為、迂闊に使う事は出来ない。レオポルドはザームセンに連絡し、大至急ザームセン邸での招集を要請した。直ぐにその日の夜迄にザームセン邸には陸軍第四軍指令ハルメル中将、第三艦隊司令ハイントホフ侯爵、第二艦隊司令ミューリッツ少将、元第六艦隊のボーデン子爵、そして情報局長レオポルドら強硬派の面々が揃った。
「緊急の呼び出しに来てくれて先ずは礼を言おう。諸君、我々の計画に重大な問題が発生した。」
「一体重大な問題とは何だ。呼び出す程の事なのか?」
「そうだ。事の詳細はレオポルドに語って貰う。レオポルド、話せ。」
「はい、閣下。現皇帝が本日ガルディシア管轄区秘密警察局長ハインツリィー大佐に、秘密警察の解体と解体後の第一軍への編入を命じました。帝都ザムセンの秘密警察は全て第一軍へと編入される為、我々が当初戦力の一部として認識していた2万の秘密警察軍は使えなくなり、且つザムセンに於ける対陸軍戦力比が逆転致しました。」
「秘密警察が解体だと!?ドラクスルはまさか我々の計画を察知しているのか?」
「いえ、そうでは無い様です。一番の目的は対エウグスト解放戦線の侵攻に対する物です。第一軍の再建が思うように進んでいない事から、兵力の補充に最も早い方法を選択した様です。」
「ちなみに彼我の戦力比はどのように変化した?」
「6万対3万で我々の優勢から、4万対5万で劣勢となりました。」
「1万の兵力差か…ボーデン、お前の元第六艦隊の海兵は今はどうなっている?」
「ヴァントに居る者はムルソーの第二艦隊に一部は吸収された。が、残りは殆ど秘密警察軍や警察軍の方に転籍していて兵力としては計算出来ないと思う。」
「そうか。……ムルソーの第二艦隊があったな。それはどうなのだ?司令官はロトヴァーンの奴めか。」
「第二艦隊のロトヴァーン侯爵だが、どうも考えが読めん。何度かこちらに誘いを掛けては居るのだが、一向に反応が無い。まぁ敵対するにしてもムルソー自体が多少距離があるので、何かが出来るかと問われれば、何も出来んとは思うが。」
「まさかとは思うが、奴も現皇帝派かもしれんな。迂闊に声を掛けて漏洩でもしたら眼も当てられん。これ以上の接触は避けた方が良いな。分かったか、ボーデン?」
「承知した。だが、兵力が足りんな…どうしたものか。」
「ううむ……北から南への兵力移動も不可能だろうしな。」
「ザムセンの兵力が集中している場所に艦砲射撃で攻撃をして兵力を減らしてはどうか?」
「貴公はザムセンを灰塵にする積もりなのか?」
「何等かの手段を考えなければならん。だが今は答えは出ぬようだ。これは改めて協議しよう。その他に何か報告する事はあるか?」
そこでハルメルは現在PKFで駐留している日本の第五旅団についての見学した件について報告した。
「平たく言うと、あそこの旅団規模一つで我が帝国陸軍を殲滅する事が可能、という事が判明した。皆に改めて要請をするが、絶対にニッポンと敵対してはならない。彼等は被害を受けた瞬間に、圧倒的な火力を以て我々を殲滅にかかるだろう。ただ、彼等は彼等自身の規約に基づいて行動をする。それが故に、あの駐留軍は今の所は危険ではないが。」
「…待て、ハルメル。彼等はその戦力を行使出来ない規約でもあるのか?」
「ああ、専守防衛だの言っておったな。撃たれてからでないと反撃出来ない、とな。」
「は?連中は馬鹿か?撃たれてからでは遅いではないか。」
「それが連中の規約とやらであるから仕方が無い。儂もおかしい事を言っている自覚位あるわ。」
「だが…それは面白いな。例えば、連中に被害が発生したらどうなる?」
「勿論、被害を発生させた連中に対し、激烈な反応を示すだろうな。」
「例えばそれが誰であってもだな。偽装された物であった場合はどうなるだろうな?」
「なるほど貴公は、例えば皇帝の軍を偽装してニッポンにちょっかいを出し、結果としてニッポンに皇帝軍を殲滅して貰おうという腹積もりだな?」
「そうだ、ハルメル。我等の兵力が足りないのであれば、減らして貰おうでは無いか、ニッポン軍に。」
「おう、それは確かに面白いな…」
こうして旧皇帝派閥は、邪魔なザムセンを守備する第一軍に対する排除を目的とし、日本をも巻き込んだ計画を立てようとしていたのだ。ロアイアン周辺域における農民達の復帰と生産量復活を含む平和維持活動を目的とした駐留を続ける第五旅団が日本に戻る時期は明確にはなってはおらず、この旧皇帝派閥の企みにも当然気が付いては居なかった。
誤字脱字報告大変助かってます、ありがとうございます。