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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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22.帰らない避難民達

ここエウルレンでは大規模な郊外の開発が進んでいた。

大量に流入した避難民達への居住施設の提供が追い付かなかったからだ。その為、日本の全面協力の元で簡易住宅が大量に設置され、避難民達に提供されていた。彼等は一時的に簡易住宅に住んだ後に、ロアイアンの情勢が安定化した段階で元の家に戻るという流れになっていたが、大部分は住み慣れた元の家よりも電化された簡易住宅の方が利便性が良く、しかも今や先進都市化しつつあるエウルレンが程近い事と、幾ら情勢が安定したからと言っても帝国軍による虐殺の記憶が新しい事から、なかなか元に戻りたがらなかった。


「伯爵、日本への輸出の件なんだが…どうも必要量に足りない。全て輸出してしまうと、今度は我々の食料が無い。それにある程度帝国に送る分も確保しないと、彼等が何をし出すか分かったもんじゃない。優先順位をどうする?」


「ベルトランさん、ニッポンからは一時的に出荷量が下がる事の了解を得ています。我々と帝国の分をニッポン輸出分から差し引いて下さい。」


未だ戻らない農民達を生産作業に戻すにはどうしたら良いのか?

ル・シュテルは日本の第五旅団によるPKF派遣によって出来た貴重な時間が、エウグスト領域の独立に費やされる事無く無為に避難民対策に消費されてゆく状況に悩んでいた。エウルレン南方防衛戦の後に、解放戦線は軍事的な組織の大幅な改編を行ってきたが、その他の部分は人材不足もあって余り手が付けられていない。その為、こういった実務に関してもル・シュテル伯爵や旧来の解放戦線参加者で旧エウグスト公官庁出身者を集めて避難民対策チームを作っていたが、全く追い付いていなかった。詰まるところ、ル・シュテル伯爵領域内での管理体制は、既にル・シュテル伯爵の手に余る程に拡大していたのだ。将来的なエウグスト独立を見据えた上で解放戦線が政府のような組織化をしていかなければ限界だった。


そこでル・シュテルは解放戦線の中に旧エウグスト公官庁出身者のデルロンを、解放戦線における実務関係の最高責任者に任命した。デルロンは元の職場関係者を集めた。デルロンに集められたその中の一人、ベルトランは国内で生産された食料の管理を行い、配分や輸出関連を扱っていた。避難民の対策としては、同じく集められた一人であるウーディノが起用された。彼等によって解放戦線の領域内における小さな政府組織が機能し始め、様々な事が効率的に動けるようになった。だが、それでも避難民達は戻らなかった。


「という訳で困っているんですよ、タカダさん。何か良い知恵は無いですか?」


「確かに彼等避難民からすると、安全だと言われて何か遭っても被害を受けるのは彼等ですからねぇ…」


「それに加えて今迄暮らしていた環境と違って、色々な事がとても便利なっている事も離れがたい理由になっている様なんですよ。あの街道周辺は電化もされていないし、街道も整備されていない。それと比較してここエウルレンには、あの地方には無い物が山ほどある。」


「それで不便な生活に戻れ、というのも酷な話ですよね。分かりました、ちょっと政府と相談してみますよ。一応、こちらとしても平和活動維持という名目があるので、その辺りから突いてみますね。」


こうした経緯の結果、日本から齎されたのは農林水産総合技術センターの設置だった。第五旅団のPKF基地内に周辺農業従事者の収獲向上や品質向上を目的としてこのセンターが出来、このセンターへ周辺農家が相談に来る事で、自衛隊に守られている事を実感すると共に、農業支援を受けられるという仕組みだったのだ。更に、エウルレンの帰りたがらない避難民達に対し、ここへの見学ツアーを行い、今やロアイアン南方面は安全である事と、農作業による収穫量が今迄よりも各段に向上し、尚且つ機械化によって楽になる方法や手段を公開した。だが、それでもエウルレンから戻らない人達は居たのだ。そこで日本は最終的に農業関係の会社を現地に作り、大規模農場の設営に乗り出した。そしてこれらの日本の関与が色濃くなってゆくにつれ、帝国側の監視の目も強くなっていった。


「あー、また何かを散布するような機械があるぞ。デカいなぁ……」


「ニッポンから来た連中がどこぞの農場を複数纏めて買い取って、その農地を統合して凄いデカい畑にしたって話を聞いたがこの辺りも着々と買われているな。あんなデカい機械があれば、そりゃ畑もデカくなるよな。」


「でもさ、あれだけ畑が大きかったら、収穫の時はさぞかし大変なんだろうな。だって地平線の彼方まで畑なんだぜ。」


「ニッポンの事だから収穫専用の機械があるんじゃないのか?」


ここは日本の第五旅団が駐屯するPKF基地にほど近くロアイアン寄りの帝国第N14監視所である。ここには24時間勤務で6人のガルディシア帝国陸軍兵が詰めていた。彼等は2交代で、日本のPKF基地を監視していた。最初の頃は物珍しさもあって、この監視所勤務は楽しかった彼等だが、暫くすると珍しい物も無く、唯々監視する毎日に飽きが来ていたのだ。しかも、監視担当になると12時間交代が1週間続く。その間はどこにも出かけられない。若い兵程、飽きは速かった。


そんな彼等が飽きない状況が訪れた。

第五旅団のPKF基地にヘリポートが複数設置され、マルソー飛行場と南ロアイアンを結ぶ定期航路が開設されたのだ。噂に聞く空飛ぶ機械が定期的にやって来るようになった。信じられない轟音と風を巻き起こし、やって来ては降り立ち、人を吐き出し、そして再び去ってゆく。更には大型バスが何度も出入りするようになった。この大型バスに乗っていた者達は元々この辺りの農民らしかったが、たまに軍人らしい者達も居た。彼等監視所の要員はこれらを逐一報告していたが、この報告を受け取った軍の上層部は侵略の下準備と受け取った。


「ハルメル、この報告書の内容は本当なのか?」


「ああ、ニッポンはPKF基地とやらの設備増強を行っている。空飛ぶ機械を降着させる場所を作り、1日何度もやって来ては去ってゆく。それに大型の輸送車両がやって来ては、周辺を見学しておるようだ。」


「それはどこから来て、何をしているか理由は判明しておるのか?」


「ああ、見学を申し入れた所、快諾されたよ。自由にご覧下さいとな。」


「それは…見ても差し支えない程度の物しか見せられなかった、という事なのか…?」


「どうだろう、その辺りの真意は分からん。だが、兵器の類も隠す事無く見学は可能だった。逆に見せる事により、こちらの戦意を挫く目的もあるのかもしれんな。ちなみに連中の説明だと、あの飛ぶ奴はヘリコプターという乗り物で、マルソーとロアイアン南を結んでおり、民間定期便なのだそうだ。」


「なにっ!?み、民間だと? 民間があのような機械を保有し運用しているのか?!」


「ああ、そうだ。例のエウルレン北で飛んで来たのと原理は一緒だそうだ。だが民間なので武装なんぞは無い。だが、武装が無いとはいえ民間があのような機体を飛ばしているとは恐ろしいを通り越して笑ったよ。それとだ、あそこで駐屯している連中の武装も規模も判明したぞ。」


「いや、あの連中は相手にせんと早々のお帰り頂く方向では無かったのか?」


「元よりその積もりだ。だが、連中の武装内容と出来る事を聞いたら尚の事戦おうという気持ちも無くなったわ。」


「やはりそれ程なのか、ハルメル?」


「あの旅団一つで、ガルディシア帝国陸軍全てを殲滅可能だ。」


「……ほ、本当か……それ程なのか…」


「ああ、それともう一つあるぞ、ハイントホフ。海軍の事も多少聞いたが、連中の海軍は超々遠距離からの攻撃特化しておるらしい。射程は聞いたら笑うぞ。100kmとか150km先から撃つんだそうだ。」


「え?…すまん、もう一度言ってくれ。」


「100kmとか150km先から狙い撃つのだそうだ。しかも100発100中だとな。だが、これは彼等駐屯部隊の連中から聞いた話だが、海軍の連中に聞いたらまた別かもしれんがな。」


帝国海軍第三艦隊司令官ハイントホフ中将は空いた口のまま次の言葉が出て来なかった。だが、陸軍のハルメル中将とハイントホフの気持ちは一緒だった。ニッポンと敵対してはならない、と。彼等二人は今にして、現皇帝ドラクスルと同じ結論に至った。


総合評価が1000超えてました!

何時もお読み頂きありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヘリで定期便ですか… 燃料が… 滑走路作って小型機(コミューター機)やビジネスジェット使った方が良いのではないかと…
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