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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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19.帝国内に於ける三つの勢力

皇帝退位の情報はバラディア大陸全土に即座に知れ渡った。

この退位によって日本にも影響を及ぼした、日本は当初強硬な姿勢を崩さずに居たが、皇帝の退位によって多少態度を軟化させたのだ。所謂ガルディシアからの輸出物に対する関税強化は当初から暫定処置としていたが、エウグストの避難民達が戻れる環境作りをガルディシア帝国側が作ろうとして軍をダルヴォート地域まで引いた事により、その暫定期間の短縮を通告してきた。だが、一向に戻らない避難民達を戻す方便として、日本に対しエウグスト地域における監視団の要請まで行ってきた。そこで日本はダルヴォートに居る第三軍に対するカウンターと平和維持活動を目的として、北海道は帯広駐屯地に居る第五旅団をPKFとしての派遣をしてきたのだ。


エウグスト地域におけるエウグスト人の被害は主に街道周辺に集中し、住宅や農地に対しての被害は余り出ていなかったが、その農地で働く人々が被害を受けた事から、農作物の作成及び収集能力が極端に落ちた。その為、日本からの農業支援として農業用の大型機械が大量に陸揚げされ、第五旅団と共にロアイアンに程近い農村地帯を中心に展開した。ロアイアンはダルヴォート地域だが、ダルヴォートとエウグスト地域の旧境界線上にPKFの基地を構築し、ここに付近の情報と援助の為の拠点とした。日本としては、PKFはこれらの農村地帯で安全に農業活動が可能となった、と判断出来た時点でPKF活動の終了を宣言するとの通告を帝国側にはしていたが、帝国側は日本が言う通りに撤収するなどとは信用していなかった。その為、このPKF基地の周辺には帝国側の監視所が複数設置された。


そしてこの基地内には農林水産総合技術支援センターが近隣農民達への技術指導や近代化を促進した。また、大規模な生産に適した耕作地の作り方や機械の導入、レンタル等を行う事により収穫量が大幅に増大したのだったが、そこに至るまでには結構な年月が掛かった。


第五旅団の派遣施設隊は、ロアイアンからブランザックまでの街道をアスファルト道路に整備し直した上で、ロアイアンからエウルレンまでの別の街道を作り上げた。これによりエウルレンは交通の要所としての重要性が更に増しただけでなく、今迄ブランザックを迂回してきた物流が、そのまま直接エウルレンに行く事により相当な時間の短縮となった事から、エウグスト地域における生産量低下を他地域からの生産物で補う形となった。そして近代的技術の導入により収穫量の増大が可能となり、最終的には余剰の生産物をヴォートランやエステリアに輸出可能となったのだった。


だが当然、皇帝の退位による影響はガルディシア帝国が最も大きかったのだ。

帝国内の改革派は兎も角として、皇帝の退位という事態から対エウグスト強硬派は旧皇帝派閥と皇太子派閥に分かれてしまい、強硬派閥内部は内紛とまでは行かないまでも勢力争いが激化した。


旧皇帝派閥は現行海軍を中心に第一艦隊司令ザームセン公爵を筆頭として、第三艦隊のハイントホフ侯爵、第二艦隊ミューリッツ少将、元第六艦隊のボーデン子爵、陸軍第四軍のハルメル中将、情報局長レオポルド中将及び秘密警察軍が旧皇帝を支持しており、今回の皇帝退位に対して不満を唱えていた。そして彼らが最も日本を敵視していた派閥だった。


そし現皇帝であるドラクスルの派閥は陸軍を中心に第一軍ルックナー少将、第三軍シュテッペン中将がドラクスルを支持していた。つまり現皇帝であるドラクスルの支持基盤は非常に弱い。彼等は最も日本或いは日本に絡む勢力によって相当の被害を受けており、出来れば日本とは敵対せずに帝国の権力構造を維持したい勢力だった。また、シュテッペン中将に至っては皇帝の命令に忠実に従った挙句に今回の虐殺の責を問われた事から、皇帝に対しての不信感が大きかったのだ。彼は幸いにして皇帝退位によって責任を問われる事は無かったが、それでも街道の虐殺者という汚名が第三軍に被せられた事により、彼の軍の士気はガタ落ちし、それに反比例して旧皇帝派に対しての不信感も当然に大きい。


そして最後に元第七艦隊のアルスフェルト伯爵を筆頭とした改革派では、表向きには第二艦隊ロトヴァーン侯爵や帝国議会融和派閥と協力し勢力を伸ばしつつあったが、裏では情報局副局長ゾルダー少将、陸軍第一軍グリュンスゾート大隊の面々が居り、表面上その存在の大部分は感知されていない。そして彼等の背後には日本とエウグスト解放戦線が結託していた。


つまりガルディシア帝国の内部は今、三つの勢力が存在している状況となったのだ。


この三つの勢力の中で、旧皇帝派閥筆頭の第一艦隊司令でもあるザームセン公爵は今回の皇帝退位に対しては、余りにも突然でありしかも自分への相談も無く、これ程重要な事を行った皇帝への怒りよりも、そこまで皇帝を追い詰めた日本に対しての怒りが勝っていたのだ。その彼が集めた旧皇帝派閥の面々が、ザームセン公爵邸に集まっており、その中で上座に居たザームセンが口火を切った。


「此度の皇帝陛下の退位だが……陛下が退位を決意成される迄に陛下を追い詰めたニッポン。諸君は今後のニッポンに対し、どのような対策を行っていけば良いか、忌憚無き意見を聞かせて欲しい。」


「そもそも、自ら一個軍を壊滅させた陸軍司令官が帝位を継ぐなど笑止千万だ。古今東西、敗北の将が帝位を得るなど聞いた事が無いわ!陸軍とやらが随分緩いのか、皇太子という立場が強いのか。」


「これ、ボーデン子爵。どこに耳があるか分かった物ではありませんぞ。その敗北の将は今や皇帝陛下にあらせられる。滅多な事を言う物では無いでしょう。」


「これはハルメル中将、同じ陸軍でありましょうから、思う所もあるのではないですかな?」


「探り合いも嫌味の応酬も沢山だ、諸君。今、我々が為すべき事は我々が抱える諸般の問題に突き刺さる棘を抜き、正しい道に帝国を導く事だ。エウグストの問題然り、ニッポンの問題然り、そして現皇帝の問題然り、だ。その中でも、陛下の退位に最も重大に関与したのはニッポンだ。それが故にニッポンの問題にまず対処せねばならん!」


「そうは言ってもな、ザームセン公爵、それら全ては繋がっているであろうよ。」


「確かにな……更にはダルヴォートとエウグストの境界線上に平和維持活動軍等と称して、ニッポンの軍隊が駐留しておる。あれもドラクスルの判断により駐留させたという話だが、我々の主権を一体なんだと思っておるのだ。」


「ちなみにその平和なんとか軍とやらはどの程度の規模なのだ、ハルメル中将?」


「数はそれ程多くは無いが、正体不明の兵器が大量に在る。そして連中の装備は我々より遥かに優れておる。兵器の中で判明しているのは第二軍が壊滅した際に、連中が派遣した戦車というのが複数台ある。これはあの時よりも数が多い。それに似た形の戦闘を目的とした車両のような物も複数台ある。口径の大きな砲の自走型もあるな。第一及び第二軍の戦闘結果を考えるに、この連中に喧嘩を売るのは手の込んだ自殺と一緒だ。」


「そ、それ程か…だが、連中も恒久的に駐屯する訳ではあるまい?」


「そうだ。現皇帝曰く、約束が守られた場合は最初に設定した期限を厳守し撤退する、と表明しておる。だが、そんな物は守られる訳でも無いであろう。特に、基地として完全に機能し始めたら侵略の前進基地になるのは明白だ。大体、我々がそこに対抗出来ない事を知っているであろうからな。」


彼等は自らの行動を振り返って、自分達ならこうする、という理屈で物事を考えていた。つまりは、日本が作ったPKFの基地は日本がガルディシア帝国を侵略する為の前進基地である、と。その為、日本は作った基地を元にしてガルディシアへの侵攻を必ずや開始するに違いない、と判断していたのである。この彼等の判断は、日本人をよく知らない状態で今迄来た事に由来するが、彼等は自らの判断には絶大な自信を持っていた為、何時までも是正されなかったのだ。その自らの死の瞬間まで。

評価、ブックマークありがとうございますー。

日曜は基本1回は更新しようと思ってますが、遅くなって申し訳ありません。

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