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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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18.皇帝の退位

皇帝ガルディシアIII世は現在のガルディシア帝国の現状に思い悩み、そして相当に老け込んでいた。転移してきた国家日本によって齎らせた恩恵、そして失った物。それを天秤にかけた場合、どう考えても帝国への利益は少ない。そして彼等の世界から来た中国人という連中によって入手した情報は、自ら中国人を追放する事によって全てその情報を失っただけでなく、成果さえもがエウグスト人の手に入ってしまった。我等ガルディシアが入手した物は、敵の手から奪った弾丸も実用化出来ていない銃が100丁に満たない。更には、帝国がバラディア大陸支配の根幹である帝国陸軍の軍集団を2つも失ってしまったのだ。2個軍の喪失は領域内の治安悪化を招き、反ガルディシア組織の伸張に繋がったが、結局の所一番彼等の勢力が伸びたのは、これも自らの殲滅指令が元となってしまった。しかもこの殲滅指令によって、日本との関係が決定的に悪化した。


「一体、どこを間違ってしまったのか……」


力なく項垂れながら一人皇帝は呟いた。

今や帝国内でさえ改革派という、現在の体制からの変革を求める連中が出始めた。この連中は、解体した艦隊の連中を中核に広がっており、一見穏健な主張をしているが、日本との融和や支配地域での二等民族待遇改善なんぞを要求している。基本的なガルディシアの経済政策では、彼等二等民族からの搾取構造を維持しないと国として経済が成り立たない。それを彼奴等は理解しておらん。だが解放戦線だの言う連中が現れ、それが異常な力を持ち始めた。あの奴等の資金源はマルソーに於ける港利権だ。日本や他国とガルディシアとの貿易に関する膨大な利益は全てル・シュテルが伯爵領の収益として入手している。それらはエウルレンの発展に費やされ、更にはエウグスト領域からの避難民が押し寄せている現状に、それらの救済資金として活用されつつある。しかも、その避難民救済の為に日本が積極的な援助までする始末だ。そんな事を考えていた皇帝の元に、謹慎中のドラクスルがやって来た。


「失礼します。お呼びですか、陛下。」


「おお、ドラクスル。よく来た。」


「第一軍に妙な病が流行り始めたと聞きました。何でも兵士に有るまじき臆病なそぶりを見せているという事です。」


「余も聞いておる。だがドラクスル、お前を呼んだのは別件だ。」


「そうでしたか。して如何なる用件でありましょうか?」


「うむ、例の件でニッポンが虐殺の責任だの何だのと煩い事を言ってきておる。しかもガルディシアからの輸出分に関して制裁関税を課す可能性まで示唆してきておるのだ。しかも大量のエウグストの避難民が戻らぬ限り農業の生産が再開せぬ。このままで行くと我等がニッポンに輸出する物が無い上に、多少輸出したものに多額の関税が掛けられる。つまり、奴等からの円借款で建てられたインフラへの支払う原資が無くなるのだ。」


「なんと…何様の積もりでありましょうか、連中は。もし仮に支払う原資が無い場合は如何なる事態に?」


「お前も電気がある生活を知ったであろう。あれ以前に戻れるか?」


「いえ……それは……多少の我慢は出来ましょうが、無理ではないでしょうか。」


既にザムセンで暫く謹慎を受けていたドラクスルではあたったが、その扱いは緩かった。そこでドラクスルは敗れた日本の物に興味を持ち、色々と調べ回っていた。ザムセンではエウルレン程では無いにしても、火力発電所が稼働し始めてから城下町の電化は進み、ありとあらゆる日本の家電製品が雪崩こんできた。一番最初にザムセンで流行った物は自転車だったが、電力供給以降に流行った物は冷蔵庫と洗濯機だった。そしてドラクスルはそれらがザムセンに入り、流行し、そして生活がこれらの利器を利用してどんどんと向上している市民の姿を目の当たりにしていたのだ。


「そうであろう。そうなのだ。我々はもう電気による利便性の高い生活を知った。知ったからには既に後戻りは出来んのだ。奴等はそれを知った上で、火力発電所の通電停止を通告してきおった。対象はザムセンの火力発電所なのだ。それと北方の港ヴォルンに建設中の火力発電所の建設中止も通達してきおったわ。」


「それは…何故、ル・シュテルの所は停止にならないのですか?」


「それは知らぬよ。だがル・シュテルの事だからな。都合良く裏切って日本に靡いておるのだろうよ。兎も角も、奴等ニッポンからの制裁を解除するには、まずエウグスト領域における農民達の安全を確保し、元の生活に戻せるように尽力せねばならん。次に連中が生産する農作物を恙なくニッポンに輸出出来るようにしなければならん。最後にこの事態を招いた者の責任の所在を明らかにせねばならん。」


「へ、陛下……責任の所在は……」


「そうだ。余がこの事態の収拾を図るには何が出来るかと考えた。そこでドラクスル。余は退位する。このまま余が執政を行うにはニッポンが余りにも煩い上に得た物全てを失う可能性がある。ドラクスル、お前に次を任すぞ。」


「……畏まりました。謹んでお受け致します。ですが、陛下、退位の後は…?」


「頼むぞ、ドラクスル。…退位の後は考えてはおらぬ。ヴォルン辺りに引っ込もうとは思うがな。それと退位の日付は議会とも協議の上で決定を行うので後程通達されるであろう。…余は疲れた。少し休む、下がって良し。」


しかし実際の所、例の虐殺指令によって大量の避難民が発生した事は日本政府にとっても痛かった。彼等大量の避難民の大部分が生産者だったからだ。つまり避難している間は何も生産活動が行われない。生産される物は全てでは無いにしても、日本への輸出用食料である可能性が非常に高いのだ。そして生産物を加工する拠点も、稼働が停止して久しい。この混乱を早急になんとかしなければならない日本政府としては異例とも言える強硬な圧力をかけてきたのだ。


幾ら日本政府が言っても、帝国政府が言っても避難した農民たちはエウルレンから出てこなかった。そんな口約束だけで帝国の都合であっさりと命を奪われた大量のエウグスト人は、手に農業の道具を取るよりも銃を持つ事を選択したのである。そうこうする内に、どんどんと生産数が落ち、出荷数が落ち、輸出数が落ちてきた帝国は焦り出した。更には日本からの制裁関税発動予告と火力発電所停止を示唆する発言が交渉の中で出て来たのだ。最終的に皇帝は決断した。自らの退位を以て、今回の事態に対する収拾を図ろうとしたのだ。


結果として皇帝ガルディシアIII世は退位を宣言し、バラディア大陸全土に発布したのだった。

月間ジャンル別ランキング3位!!わお。

何時も誤字脱字連絡ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大変面白いです。序盤は文章の粗さが気になるところもありましたが、中盤を超えるとほぼ気にならなくなりました。スパッと帝国瓦解まで行かないのは話のテンポが悪くなる要因ですが、日本ならこうする、…
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