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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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12.エウグストの避難民

アルスフェルト伯爵はゾルダーを彼の家に招き入れた。

ゾルダーは現在の帝国第一軍の状況、そして皇帝の殲滅指令発令、そしてその殲滅指令に対する日本の動きをアルスフェルト伯爵に説明した。


「なるほど、解放戦線は反転攻勢に出た第一軍の追跡をエウルレン入口で止め、そして撃退したという事か。」


「そのようです。ニッポンのタカダからの連絡内容と皇帝の所に来た連絡将校の情報は合致します。しかもタカダの話によると、第一軍の兵士は猛烈な砲撃により精神に障害を負ったとか。これの症状が出ている兵士は戦闘任務を負えない程に病んでいる様です。恐らく、それは第一軍が戻った際に確認出来るでしょう。」


「ふむ…で、ニッポンからの外交使節はどういう反応なんだい?」


「エウグストの殲滅指令撤回を要求しています。そしてエウグストに対して軍事的な介入を含む全面支援を宣言しました。」

「それは不味いな。ここでニッポンが介入してくるとガルディシアそのものが消滅しかねん。ダルヴォート地域の第三軍や第四軍にも既に殲滅指令が届いているのだろうか?」


「あのザムセン奇襲の翌日には早馬を送っているので、恐らく既に命令自体は届いている筈ですね。皇帝からは急ぎニッポンとの仲介、そして第三、第四軍の命令撤回を要請されました。」


「そうか…それで私の所に来た理由は、旧第七艦隊で使用可能な足の速い船だろう? 第七艦隊は解体された上で、既に他の艦隊に吸収されている。そしてザムセンもヴァントも閉塞されていて大型艦は出航出来ない。だが、小型の船なら出航可能だ。問題は、その船の所属が第一艦隊か第三艦隊となるので、どちらかの艦隊司令に協力を願う事となる。」


「それに関しては皇帝の勅命書がありますので、最優先で使用する事が可能です。が、私はザームセン公爵もハイントホフ侯爵も少々相性が合わなくてですね……」


「ははっ、君にも相性の合わない人が居るんだね、ゾルダー君。わかった、ハイントホフ侯爵なら付き合いがそれなりにある。出航はヴァントとなるが、それは大丈夫かい?」


「まずは第四艦隊の居るヴォルンに向かいたいので、ヴァントから東回りで向かうには都合が良いですね。その後、陸軍の第四軍と第三軍に行こうと思っています。」


「ニッポンへの対応は?」


「この後直ぐに、タカダに連絡を取りますよ。」


「分かった、直ぐにハイントホフ侯爵に伝令を送ろう。ゾルダー君、返事が来るまでは少し待っていたまえ。」


「助かります、アルスフェルト伯爵。」


こうして第三艦隊ハイントホフ侯爵から比較的高速の船を借りたゾルダーは、バラディア大陸東回りでデール海峡を北上し、ヴォルンの港に向かった。その前に高田に連絡をした際には、日本政府の思惑としては軍事介入をする意図も意思も持ち合わせていなかったが、政府と外務省と高田の話し合いで状況から軍事介入というブラフを噛ませば、ガルディシア陸軍の介入を阻止する可能性が高いだろうという判断があった事を知らされた。案の定、皇帝は日本の介入を恐れて軍を引く事となったが、ゾルダー自身はこの状況を知った上でどうにも掌の上で転がされている気がして、良い気はしなかった。


そしてル・シュテル伯爵の城の中ではレティシア捕獲作戦が協議されていた。

この時高田の元にゾルダーから連絡が入り、帝国第三軍と第四軍の殲滅指令の撤回が皇帝から出された事が分かり、エウグスト人一同は安堵に胸を撫で下ろす事なったが、問題はザムセンと旧ダルヴォート地域の情報が遮断されている事だった。ゾルダーは船でヴォルンを目指していると言う事で一両日中には到着する見込みだが、恐らく既に殲滅指令は第三、第四軍に伝わっている事から、撤回命令が届くまでの間はエウグスト人は危険な状態だ。


更にはレイヤー部隊が触れ回った事から、多くのエウグスト人はエウルレンを目指して街道を移動中なのだ。この移動中の群れを狙われた場合、何の防御手段も持たない言わば難民の群れが大変な目に会うのは想像に難くない。その為に急遽、捕獲作戦を難民対策会議に議題を変更した。そもそも旧エウグスト領域最北端からエウルレンまでは1,800km近い距離があるのだ。エウグスト市からでも1,500kmの距離がある。この距離がエウルレン側の対応を難しくしていた。


エウルレンでの避難民対策は、郊外の空間を利用してキャンプ場を設置する予定だった。

これは日本から急遽避難民用のテントと付随する諸々の機材を借りて対策するつもりで交渉をしていたのだ。だが、その避難民の群れを狙われる事に関しては、全く対策が無い。それに殲滅指令が撤回されている今、それらが通達されていれば避難民対策そのものが不要となる。第三軍と第四軍が動くとなっても、出撃までの時間差は相当にある。それまでにゾルダーが情報を伝達する事が出来れば全軍は止まる。だが、間に合わなかったら?


「何れにせよ、エウルレンから近い場所なら保護でも何でも出来る。だが、エウグスト市に近い場所で虐殺が行われたら、俺達は何も出来ない。街道でそちらに向かうにも避難民の群れが道路を埋めている。何か手は無いか?」


「しかもだ。東側のヴォルンに通ずるエウグスト市経由の街道は相当に整備されているので、軍の足も早い。逆に西側の街道は未だ旧道状態なので軍の移動に時間がかかるが、避難民も同様だ。ゾルダーが向かったのはヴォルンだから、ヴォルンにある第四軍司令部へは情報の伝達は早いだろう。だが、ヴォルンから第三軍司令部のあるロアイアンまでは相当な距離がある。どれだけ急いでも二日は最低かかる。この二日の内に軍が動き出したら俺達には止められないぞ。」


「タカダさん、第三軍に直接ニッポンが介入する事は可能ですか?」


「それは軍事的に、という意味ですか? 我が国の対応として事前に対応するのはまず警告レベルですね。実際に避難民の方々に被害が出ていた場合はまた別ですが。」


「ちなみに恐らく第三軍と第四軍周辺のエウグスト人は既に退去している筈だ。その先鋒は軍から離れる事100km程度は移動済みだと思う。タカダさん、これは上空から確認出来るのかな?」


「いや、残念ながら今は無理ですね。無人機のオーバーホール中なんですよ。代替の無人機を出す予定ではあるんですが、まだこちらまで届いていないんですよ。」


実の所、無人機のオペレーターの24時間体制が構築されていないのだ。これは自衛隊側が無人機の運用に関して、米軍のような敵地に対する攻撃を行う為の索敵任務という物が存在していなかった為、そこまで無人機での運用方法が確立していなかった事が原因である。米軍では作戦行動中は数時間毎にオペレーターが交代勤務で24時間隙間なく活動が可能だが、日本ではそこまでの監視体制が引かれていない。その為、エウルレン南の防衛戦で勤務したオペレーターは超過勤務で監視を行い、終わり次第に任務から解放され、そして代わりのオペレーターを用意出来なかったのが現状だった。


「何時ぐらいに監視可能となりますかね?」


「うーん…あとで確認してみますね。それ程遅くはならないとは思うんですが。」


この監視網の穴が、西側の街道での惨劇に繋がるとは未だ彼等は欠片も思っていなかったのだった。

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