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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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07.再度の砲撃

残された第一軍の将軍達は自害したランツベルグ中将の遺言を守ろうとしていた。ただ一つ、"停戦なり休戦なりを申し込め"という事だけを除いて。それは、自ら停戦なり休戦の意思を相手側に表明する事は、帝国軍では勝っている場合でのみ例があり、その他の場合では過去一度も行った事が無い。つまりは負けそうなので、一旦停戦させてくれ、という事を相手に要求しても無駄であろう、との判断だった。指揮権を引き継いだルックナー少将をはじめ他の将星達も同様に考えていた。その中で、イエネッケだけが異議を唱えた。


「ルックナー少将、ここで軍使を送らなくて宜しかったのですか?」


「何故だ。奴等も負けているなら兎も角として勝っているのだ。我々が軍使を送った所で要求してくるのは降伏勧告しかあるまいて。休戦や停戦ならまだしも、降伏は絶対に出来ん。」


「しかし少将、ランツベルグ中将は軍使を送れと。試してみる価値はありませんか? 多少でも我々が撤退可能な時間がそれで少しでも稼ぐ事が可能であれば、その価値はあると思いますが!」


「諄いぞ准将。ここにアルブレヒトが居ったなら我等と同じ判断をしよう。次席の貴公には分からんかもしれんがな。」


こう言われてしまってはイエネッケの立場では何も言う事が出来ない。こうして黙ったイエネッケを了承したと判断し、ルックナーは再び撤収指示を細かく出し始め、軍使の話は立ち消えになった。そしてそれは致命的な判断の誤りだったのである。

第二歩兵師団の撤退は完了し、次に同着した第一歩兵師団と第三歩兵師団が撤退路であるエウルレン街道入口に集結しつつあった。高田の思惑では今こそ迫撃砲の集中連射により、この密集した敵集団を殲滅する機会が訪れたのだが、生憎未だ補充の弾薬は到着していない。


「B集団は再編後に街道に撤退していきました。A集団がエウルレン街道入口に集結中、その後ろには騎兵集団が待機しています。」


「うーん、弾薬は未だですよね?これは逃がしたかなぁ…」


「来ましたっ!タカダさん!第一陣の弾薬到着しました!!タクシー4台分です!!」


「おおっ!して、1台何発積んでいるんですかね?」


「1台につき6ケース運んでいます!!」


「6ケースか…1ケース8発として192発ですか。いいですね、各迫撃砲部隊に分配し、直ぐにこれから指示する座標に向けて砲撃を開始してください。座標はGの4から5です。」


「了解、直ぐに!!」


こうして到着した分から即座に撤退路に集まった集団に対して、再び砲撃を開始した。撤退に向けて隘路に集中した第一歩兵師団と第三歩兵師団は全く逃げ場が無かった。我先にと安全な街道へ秩序も何も無い状態で彼等は生存を求めて走り出した。街道の出口側で逃げ込む事も出来ずに溢れかえった兵達は口々に呪いの言葉を吐きながら僅かな隙間を求めて逃げ惑う。


「再び砲撃が始まったぞ!!奴等、俺達が集まるのを待っていやがったんだ!!」


「ちくしょう、前の連中何やってんだ、さっさと行きやがれ!!」


「もう駄目だ、もう駄目だ、どこにも逃げられない、どこも行けない!!!」


「無理だ、押すな!!動けないんだ、やめろ!!」


彼等にとって不幸な事に、解放戦線の弾薬不足が地獄の完成を早めた。

あっという間に192発の迫撃砲を撃ちきった解放戦線は次の補給を待っていたが、この間が更なる混乱を第一軍に齎された。この砲撃を受けて尚も生き残った兵達は恐慌状態に陥り、また集まった瞬間を狙って攻撃してくるに違いない、と思い込んだ。であるならば、少しでもこの場所にいる事は危険だ。一刻も早くこの場所を脱出しなければ!


こうして後続の兵は、前を行く仲間を押し倒してでも道を開けようとした。既に上官の命令をも聞かなくなり暴徒の様な状態で街道に殺到した兵達を留めるものは何も存在しなかった。次の砲撃の準備が整った時には、街道出口周辺は大混乱の最中であった。


「どうしましょうか。撃ちますか、これ?」


「ん-…これは生かして帰した方が向こうで混乱が拡大しますね。砲撃は中止してください。」


「了解です、陣地の方は警戒維持で良いですか?」


「そうですね、降伏する兵が居たら受け入れて下さい。あと、エンメルスさん。森の中の方々に対して降伏勧告をしてきてくださいね。彼等は身動きが出来なくなって後退も出来ないようですから。」


「ああ、そういえば。忘れてましたよ。なんだあいつら未だ森の中に居るのか…」


「そうですよ。誰かさんが性格悪いトラップの仕掛け方するもんですから、彼等も森の中で途方に暮れているでしょうね。」

「タカダさん、ニッポンで俺をみっちり仕込んだ挙句に、この仕打ちですか…」


「はははっ冗談ですよ。さて伯爵、追加の砲弾はもう大丈夫です。それでは後始末がまだもう一つありましたよね?」


「え、何かありましたっけ?」


「ほら、どこそこだかの狂女。あれまだ逃亡中でしたよね?」


「ああ……居ましたね……」


「急ぎ、エウルレンを封鎖している今こそ狩り出すチャンスですよ。」


「そうだな、タナカさん。だがまずはこの戦いを終わらせんとならんな。」


既に戦闘終了の空気が漂う簡易司令部内だったが、別の場所でこの戦闘の行方を観察していた二人の人物が居た。エウルレンでアレストンが逃した二人組、レティシア大尉とジーヴェルト軍曹だ。彼等はエウルレン南に立つ4階建てのビルに潜伏し、この戦闘の状況を見ていた。どうせ第一軍が勝つに決まっている。第一軍が敵の防衛ラインに直接攻撃をかけるような状況に陥れば、このビルから出て敵の背後を混乱させる、そう考えていたのだ。だが、戦闘の天秤は解放戦線に傾いた。


「大尉……第一軍が引いていきますよ……」


「一体これは何が起きているの? 帝国第一軍と言えば常勝無敗では無かったかしら?」


「その筈です。なんかの悪夢ですよ、これは。解放戦線はほとんど被害を受けていない。あの解放戦線の防衛ラインに辿り着けても居ない。あの小さな砲からあれだけの砲撃が可能だなんて…」


「そうよね。でも私達が見た物は大変に価値があるわ。どうやって第一軍が負けたかの理由はあの砲撃よね。」


「そうですね。しかもあの砲は一人で運べますよ。一体全体あんな兵器をどっから手に入れたんだ。」


「それも含めて出所を突き止めるわよ。情報を掴み次第帝都に戻りましょう。」


「了解です、大尉。」


既にエウルレン北側に逃げたと思っていたレティシア達は、南側に居たのだ。その為、重点的に北側を捜索し始めたアレストン達は見事に裏をかかれていた。


度重なる誤字脱字報告、有難い気持ちと共に申し訳無い気持ちです。

ありがとうございます、大変助かってます、お手を煩わせて申し訳ありません。

それと1日で1万PV行きましたよ記念二度目の更新。


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