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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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04.森の中の別動隊

ガルディシア帝国には大型の臼砲や直射砲はあっても個人が持ち運び可能な軽迫撃砲という存在は無い。その為、発射設備も見え無いのに音も煙も無く突然飛んでくる迫撃砲の存在は謎であった。そして解放戦線の迫撃砲陣地は第一軍からは直接目視出来ない。だがこの迫撃砲からの攻撃は無視出来ないどころか、甚大な被害を第二師団に与えて続けていた。既にザムセン街道転回場に至る戦いで第二歩兵師団の持つ16個の大隊のうち一つが35%の損害が出ていた。だが、この攻撃はヒアツィント少将が受け持つ左翼及び中央への攻撃を指向する第二歩兵師団全てが攻撃対象だったのだ。


「一体あの砲撃はどこから来ておるんだ!!」


「発射位置及び発射音不明!正確にこちらに伸びて来ています、閣下、お下がり下さい!!」


「馬鹿者が!ここで下がると奴等が追撃してくるぞ!踏みとどまれ、前進しろ!!」


ヒアツィント少将の叫びも虚しく、遮蔽物も何もない左翼及び中央に居た第二歩兵師団は自然と砲撃に対して後退するように移動したが、あたかもその後退に合わせて追撃するようなタイミングで砲撃の射程も伸びて来た。ヒアツィントはこれ以上の損耗に耐えられないと判断し、即座に全軍後退を指示したが第二歩兵師団は既に恐慌状態に陥っており、程無く潰走した。

だがこれをイエネッケは冷静に観察していた。


「敵の砲は左翼を指向しています。敵が左翼への攻撃を集中している今が敵右翼への攻撃を行うべき瞬間です、ランツベルグ中将。」


「うむ、全軍前進を指令する。ハイドカンプ、貴公の師団は穴を穿って拡大後、後方展開し蹂躙せよ。」


その時、右翼では第三歩兵師団から大隊規模の別動隊が森の中を進んでいた。

この森の中からでも第二軍から上がった前進の信号が見える。別動隊の第35大隊指揮官トローター少佐はこの森の中を進み、敵防衛線右翼の後方に回り込まなければならない為に、相当急いで前進をしていた。別動隊にはザムセンでの防衛線で敵が落とした連射銃を搔き集めた物が支給されていた。そしてトローター少佐にはこの任務成功の暁には多大な栄誉が約束されている。先進装備の銃に、成功の重要な鍵となる攻撃。彼はそれを任されたのだ。トローター少佐はこれから訪れる栄光の日々を想像して軽く笑った。その時、前方を進む兵から軽い爆発音と共に何かが通り過ぎる音が聞こえた。


「なんだ!何が起こった!!敵の攻撃か!?」


「トローター少佐戦死!罠にやられた、トローター少佐戦死!!」


「罠だ!罠があるぞ!!気を付けろ!!」


「キュヒラー大尉!指揮をお願いします。敵の罠が…罠がそこかしこに在ります!!


「指揮権を受領した。おい、貴様!少佐を殺ったのは一体どんな罠だ!?」


「前方の兵が何かに引っかかった様ですが、その兵に対し、正面から何かが爆発した様です。それに少佐は巻き込まれました。」


キュヒラー大尉はトローター少佐の死体を改めた。

何故か軽く笑っていた少佐の死体にはあちこちに銃撃を受けたような穴が空いている。どうも爆発物にベアリングを組み合わせた物のようだ。しかも通過するタイミングで密集した敵を倒すタイプだな。とすると近くに敵が潜んでいて操作している類ではなく、トリガー的な何かを付けた爆発物が設置されていると見た方が良い。ともかく敵はここを侵入してくる事を想定していたと考えた方が良い。ならば、これ一つではなく、相当念入りに罠を仕掛けている筈だ。


「大隊傾注!散開して前進しろ!!罠が仕掛けられている。罠に気を付けて進め。」


その時、前進中の別の兵の足元からピン、と何かを引き抜く音がした。

この疑問に思った兵が足元を見た瞬間にピンを引き抜かれた手榴弾が爆発をした。恐慌を起こした兵が何人か後方に走り出したが、殆どは安全に逃げていったが数人が同じような爆発を起こしていた。そして慎重に進んでいた兵は、突然足元が崩落し、穴の底に落ちた。助けに寄った別の兵は、穴の底で木の杭に突き刺さって死んでいる兵を見て戦慄した。また、死なないにしても、行動の自由を奪うような罠があちこちに仕込まれていた。枯草に偽装された浅い穴で足を貫かれたり、足を踏み入れた場所に、筒が地面に仕込んで偽装してあり散弾銃の弾が仕込まれていて体重がかかった瞬間に発射されるのだ。


「爆発物だけじゃない、あらゆる罠があるぞ!!」


あちこちで死傷者が発生し、尚且つ動けば罠にひっかかるかもしれない。怪我を負った者を後送する事も出来ない。負傷者に近寄って自分が何かの罠に引っ掛かるかもしれない。何故ならば、罠の配置は助けに来た者を更にはめ込む悪魔のような配置となっていたからだ。これを数回経験したキュヒラー大尉と第35大隊は全く身動きが取れなくなってしまった。


ちょうど森の中で第35大隊の身動きが取れなくなっていた頃、防衛線右翼にはルックナー少将率いる第一歩兵師団が300mの壁を突破しつつあった。流石に有効射程に入ると損害が出始める。だがこの損害を無視して第一歩兵師団は前進を続けた。この厚みと衝撃力のある鈎型陣左正面は、敵の防衛線に向けて攻撃を受け持ちつつ反撃をする。もう直ぐ森の中から友軍の大隊が奇襲攻撃を行う筈なのだ。もう少し耐えれば、あともう少し…その時、森の中から緑の信号弾が上がった。


「右翼の森中より信号弾確認!緑です!!」


「なんだと!トローターめ、失敗したのか!?」


「何故…もしや敵は森への侵攻を想定して対策でもしていたというのか!?…とすると、この敵右翼への攻撃は誘い込まれたのではないか!?」


「誘い込まれたかもしれんが、我が軍があの防衛線を突破してしまえば良い。あの砲撃も味方と乱戦状態になれば撃つ事も出来まい。今更引くにも引けんよ。貴公ら、落ち着け。カードを1枚失っただけだ。」


「しかし、そうすると右翼前面への攻撃は完全な強襲となりますね。今の所陣形左翼側の第一歩兵師団が攻撃を受け持っておりますが、後方攪乱の別動隊が無いとなると、無理やりにでも穴をこじ開けなければなりません。砲兵連隊をあそこに投入出来ませんか?」


「遮蔽物も高台も無いこの場所で砲兵なんぞ展開しようものなら、どうぞ殲滅してくださいと言わんばかりだ。奴等のあの防衛陣地が一つでもこちらにあったなら別だがな。」


だが、イエネッケは思いついた。無いなら作れば良いのだ。

今なら第一歩兵師団と第三歩兵師団の肉の壁があるのだ。敵の攻撃もそこに集中している。ここに急ごしらえで良いから砲兵陣地を作り、連中が行った砲撃の様にこちらもあの右翼陣地に向けて直射で攻撃すれば良い!


「ランツベルグ閣下!後方に砲兵陣地を作り、直接右翼防衛線を攻撃しましょう!工兵を読んで急ぎ陣地を構築し、そのまま砲兵連隊を配置し、右翼を直接攻撃するのです!!」


「む?それは…射撃の際はどうする。前方の味方を巻き込むではないか。」


「その為に砲を高台に置きます。高台は土を盛って嵩上げします。速度が勝負です。急いで行わなければなりません!」


「ふむ…やってみろ!」


急ぎイエネッケは工兵部隊を呼び寄せ、土を盛る作業を指示した。それぞれの砲に対して急遽拵えた高台に対し、砲兵連隊が砲を引っ張ってきたのだ。これで、やや高い場所からの砲兵連隊の砲撃準備は整った。

誤字修正のご指摘ありがとうございます。指摘部分を修正する前にスキップしてしまい、情報ロストしました。宜しければもう一度ご指摘頂けると助かります、スミマセヌ…

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