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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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03.帝国第一軍の巨大な銛

ル・シュテルの城の中では高田とル・シュテル伯爵、そしてモーリス大尉とエンメルスが集まってスクリーンを眺めていた。簡易指揮統制システムを伯爵の城にあるシアタールームのプロジェクタに繋いで、臨時の司令部を構築していたのだ。


「ほう…第一軍から見て右翼を突破対象にした様ですよ。各軍集団がここで鈎型陣形を取ろうとしてますね。反対にこの軍だけが左翼から中央にちょっかい出そうとしてますが、これは主攻方向を秘匿する為の欺瞞攻撃でしょうかねぇ。では、この鈎型陣形を取ろうとしているのがA集団、左翼及び中央に来るのをB集団と命名しておきましょう。」


「流石に直上から自分達の軍が見下ろされているとは、彼等も思うまい。だが、我々からすると左翼側の準備はどのくらい整っているのか、伯爵?」


「そうですね、人員的には最低限、弾薬的には十分、トラップとしては完璧という所でしょう。」


流石に敵軍の規模は4個師団である。数だけでも約7万近い軍勢なのだ。その為、エウルレンの防衛線は敵戦力が集中した場合には、直ぐに攻撃が薄い場所から応援に駆け付け、敵正面に対する攻撃密度を上げるようにしていた。尚且つ、上空からの敵集中具合を見て迫撃砲を狙った座標に集中して撃ち込む様に、迫撃砲は集中して配備している。そして防衛ラインから離れる所200m地点には様々なトラップを構築していた。


「ん?…一部が森に入って行きましたか。想定通り右翼突破を行うにあたり、森の中から背後に回って攻撃を行う助攻作戦ですね。エンメルスさん、森の中は仕上がってます?」


「たっぷりサービスしておきました。でもトラップにニッポン製を使っちゃって良いんですか?」


高田は日本からFordonsmina13指向性散弾と手榴弾、そしてピアノ線やら何やらを多数持参していた。

ザムセンから戻ったエンメルスは休息後直ぐに高田の元に駆け付け、それらを受領した後で高田の指示に従って、彼ら第一軍が言う森の中に念入りにトラップを仕掛けてきていた。


「ええ、爆発四散してしまえばね。でも良かったですよ、あの道選んでくれて。もしあちら側を選択しなければ設置した時間は無駄になるわ、誰も罠にかからず空振りだわ、トラップ除去に手間暇かかるわ、エンメルスさんが地獄を見る所ですよ。」


「え、やっぱり…そこは俺なんですね、タカダさん…」


「それよりもエンメルスさん、随分面白い捕虜を取ったとか。なんでもどこそこの狂女とかいう徒名を持つそうで。その方は今どちらにいらっしゃるんですか?」


「ああ、転回場でE集団の連中に引き渡して直ぐにバス乗せてこっちに来ているから、もうエウルレンには来ていると思いますよ。後でアレストンに確認してみますよ。あいつ、何故今ここに居ないのかな?」


「…まさか?」


結束バンドで後ろ手に縛られてエウルレン行きのバスで護送されてきたレティシア大尉とジーヴェルト軍曹は、捕虜の取り扱いについて決めていなかった事でエウルレンに到着した際に、処遇をどうするかでアレストンは問い合わせをしようとゴタゴタしていたのだ。まずはバスを降りてアレストンが問い合わせの為にその場を離れた際に、レティシア大尉は近くの柵で縛っていた結束バンドを切った。そしてジーヴェルトにも同様に切る様を教え、縛られた振りをしたまま脱出の機会を狙った。そしてアレストンが戻った時には、両手が使えるようになった二人は到着したバスから降りた兵で混乱する中を連行され、アレストンの一瞬の隙を突いて脱走した。街中で銃を撃つ訳にも行かないアレストン達は、直ぐに追跡したが人混みの中に消えたレティシアを見つける事は出来なかった。今、正にエンメルスが疑問を声に出した瞬間にアレストンから連絡が入ったのだ。レティシアが逃げた、と。


「え、逃がした?あいつエンメルスと遣り合った上で勝ってた女だぞ。」


「なんと。エンメルスさん、それ本当ですか?」


「言わないで下さいよ、タカダさん。ありゃ相当バケモノですよ。もう一回やっても勝てる気がしない。もしかしたらタカダさんよりも強いかもしれないですよ。例えて言うなら目が4つ位付いて、かつ動きが1.5倍位早いんすよ、あいつ。」


「なんとも面白そうな方ですが、そんな人物が逃げてエウルレンに潜伏しているんですか。厄介ですね。」


「一人二人なら今すぐ何かがどうなる、という話でもあるまい。まずは前面の第一軍をどうにかしてから、改めてその女の対処をしよう。この状況なら南側に来る事もあるまい。北側で監視をしている部隊に人相やら教えておいてくれ、エンメルス。可能であれば、北側で始末しておいてくれると有難いが。」


「そうだな。アルファかブラボーへは通信機がある筈だ。それで連絡してみるよ。」


「よし、それで第一軍の対処に戻ろう。」


解放戦線がル・シュテルの城で対策を協議している頃、第一軍はじりじりと移動して鈎型陣形を完成させつつあった。それに先行して中央と左翼に対して牽制攻撃を行う為に前進していたヒアツィント少将の第二歩兵師団が交戦を開始した。だが、解放軍側からの弾幕は薄い。司令部から今前面に来ている軍は陽動である為、積極的に交戦せずに適当に相手せよ、との指示が来ていたからだ。だが、防衛線に居る解放軍戦力は片翼が6,000、中央が2,000。後方予備と迫撃部隊に2,000だ。対する第一軍の一個師団は定数で各18,000を数える。解放戦線の右翼、帝国軍から見て左翼と中央に圧力をかけている第二歩兵師団だけで3倍の戦力があるのだ。陽動作戦と見たとしてもその圧力は相当に強かった。


「不味いぞ伯爵、陽動部隊だけで右翼防衛線が突破されそうだ。奴等中央部分からの攻撃が薄い事を知って、有効射程ぎりぎりの線に集まって来ている。あの集団が一気に左翼と中央の継ぎ目に攻撃の楔を撃ち込むと、もしかするぞ。」


「うーん、そうですね。どうも防衛線の継ぎ目を探っているんでしょうかね。先の威力偵察の際に射程を掴まれたのは痛かったですね。彼らはそれを有効に活用している。でもまぁ、戦場の全てが迫撃砲の射程ですから。そろそろ元の陣地にお戻り頂きましょう。」


そして解放戦線側から見て左翼の迫撃砲陣地から、第二歩兵師団の中核部分に迫撃砲が一斉に撃ち込まれた。計百門の迫撃砲弾を撃ち込まれた第二歩兵師団は大混乱に陥った。しかも砲撃はご丁寧に、前衛から後衛を舐める様に砲弾が降ってくるのだ。前線から慌てて後退しようとすると後退した場所に雨が降るように砲弾が降ってくる。慌ててヒアツィント少将は全軍後退を指示した時には、第二歩兵師団は完全に統制を失って潰走状態に入りつつあったのだ。


だが、第二歩兵師団の犠牲によって第一・第三歩兵師団と第一騎兵師団の混成軍は完全に鈎型陣形となり、今にも解放戦線左翼、第一軍から見て右翼を突破する為の体制を整えたのだ。この鈎型陣の形をした巨大な銛が解放戦線の防衛線に突き刺さろうとしていた。

ジャンル別ににににに日間2位いいいいいーーー記念

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