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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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02.第一軍の防衛線突破作戦

エウルレン南の街道出口に到達した第一軍は、やはり出口に厳重な防衛陣地を構築している解放戦線を確認した。しかも鶴翼の陣形で待ち受けており、街道出口を出た瞬間に包囲攻撃が待っている事も同時に確定しているのだ。第一軍総司令のランツベルグは出口周辺で全軍を停止させ各師団の指揮官を呼び寄せた。臨時の陣地には第一軍総司令のランツベルグ中将、第一騎兵師団のハイドカンプ少将、第一歩兵師団のルックナー少将、第二歩兵師団のヒアツィント少将、第三歩兵師団はアルブレヒト少将戦死の為、次席のイエネッケ准将とそれぞれの作戦参謀が集まっていた。


「敵は街道出口に防衛線を引いておるようだ。斥候からはあの中央に見える土手周辺には重機が障害として設置されておるが、恐らくあれには銃の類は正面からは通じんだろうと聞いておる。あれの排除を行うには砲を使うしかない。だが、そうすると両脇から狙い撃たれる。貴公らにはこの状況に対する打開策を聞きたい。」


「騎兵による中央突破は不可能でしょうか。先日の街道内での攻撃に関しては我々は逃げる場所の無い一本道での状況でしたが、今回の戦場は広く十分に騎兵が展開可能となっております。」


「論外だな、ハイドカンプ。あれは直線にごく少数の射撃陣地で対応された。あれから見るに、恐らく騎兵での突進はその騎兵に対して集中射撃を受けるような状況下での運用は二度と出来まい。あたら兵力を減らすような用兵は許可出来ん。ましてや貴公の騎兵師団は既に相当の被害が出ておるではないか。」


「そもそも中央突破というが、状況を見る限り中央突破が一番至難の技だぞハイドカンプ。この陣形とあの連射銃が組み合わさっていると言う事は、中央正面が一番弾幕が厚い。それに突っ込むなど自殺行為だ。」


「ヒアツィント、では貴様には何か対策があるというのか?」


正直ヒアツィントにも大したアイデアなど無い訳で、ここで無理やりに何かを言っても大した良い話にはならない事を理解しているヒアツィントはそのまま黙り込んだ。この沈黙によって申し合わせたかのように皆が黙り込んでしまった中、イエネッケ准将がこの沈黙を打ち破った。


「発言宜しいでしょうか? 鶴翼陣形は広く薄く包囲をする形であります。左右どちらかに戦力を集中させ鈎型陣形による包囲突破をどちらかの両端で行い、突破口から敵後背を逆包囲しては如何でありましょうか? 何れ奴等は我々と比べて戦力的には相当に少ない。そして中央と同じ厚さを両翼にまで配置する程に戦力的余裕が無い筈です。とするならば、あの防衛線の両翼こそが突破すべき薄い壁であると思います。」


「ほう、それは中々に面白いな、イエネッケ。貴公なら左右どちらかを攻める?」


「それは今判断する材料が足りません。彼らが構築した防衛線のうちどちらかが弱いのか、そして突破した先には機動力を持つ騎兵の投入となるでしょうが、その騎兵が展開し易い地形なのかを調べる事が必要です。まずは斥候と、左右に威力偵察、そしてこちらの攻撃意図を悟られぬように中央を攻撃するような陽動が必要かと。ただ、それを行うと相当な被害を覚悟せねばなりませんが。」


「ふむ、そうだな。ルックナー、ヒアツィント、ハイドカンプ。これはどう思う?」


「異議ありませんな。それに付け加えるなら奴等の連射銃は集弾性が良くない様だ。命中率はこちらの方が高い。奴等が連射を行う際に、陽動と狙撃を分けて圧力を掛けてみるのも良いかもしれん。陣地に籠られるとどうしても攻撃側は被害が大きいが、どうせ被害を受けるなら闇雲に突っ込むよりは生存率が上がるだろう。」


「よし。それではイエネッケ、1時間以内に指示書を作成しろ。それを元に行動を開始する。」


解放戦線と第一軍の間には1kmの空間があり、そして第一軍陣地までは射撃が届かない。カラニシコフの有効射程は一説には600m程と言われてはいるが、ここエウルレンで作られた物の有効射程はそれよりも短い。それ故に出口から300m程は安全圏と見られており、そこに第一軍は野戦陣地を構築している。だがこれは解放戦線側の罠であり、出口から誘い出して殲滅する為の鶴翼陣形なのだ。そして中央に置かれた重機の障害物は、そこを敵が突破するに障害となる為と攻撃の為の遮蔽物、そして中央の戦力が薄い事を誤魔化す為だったのだ。恐らく左右どちらかに戦力を集中して突破を図る事は織り込み済みで、その左右にこそ解放戦線は戦力を集中していた。


そしてイエネッケの斥候と強硬偵察は、この解放戦線によって構築された防衛線の左右が意外に厚い事をあからさまにした。左右に構築された防御陣地は塹壕を主体としており、その塹壕には土嚢が積まれて完全に敵兵の姿を見えなくしている。更には土嚢と土嚢の隙間から接近した敵兵に向かって複数の場所から銃撃を行って来る。しかしこの強硬偵察によって得られる物もまた大きかった。敵陣地からの攻撃が有効な距離が凡そ300m前後と判明した。また、中央への陽動攻撃もまた同様だったが、その弾幕は両翼の弾幕よりも薄かった事から、全防衛ラインのうち戦力集中しているのが両翼であり、中央は寧ろ戦力が薄いという事が第一軍に暴露してしまった。そして更に斥候は両翼のうち右側の防御ラインが左側に比べて弱い事も判明した。右側の解放戦線の防御陣地は、左に比べて塹壕が一本少なくその為に連射銃を撃つ場所が少ないのだ。これらの情報を元に、再びランツベルグ中将は司令官を招集した。


「さて、情報も揃った事だ。どちらから攻める?中央が薄いとの情報もあるが。」


「恐らく中央が薄いのは罠かと思います。我々の偵察で敵の中央にあてた戦力が暴露する事を目的として中央に誘い出し、そこに左右からの集中攻撃を浴びせるのが目的かと。」


「であろうな。儂もそう思う。中央突破は第二軍の二の舞だ。とするならばどうする、イエネッケ?」


「斥候の情報からは右翼の防御が若干薄いとの報告があります。ここは右翼に戦力を集中して突破を図るのが良いかと。その際は、防衛線の切れる森の中に兵を入れ、防衛線の側面及び後方からの攻撃で敵右翼防衛陣地を突破します。」


「うむ、よし。鈎型陣形にて突破を図る。先頭と左側面は第一歩兵師団、右側面と森の中を第三歩兵師団、鈎型陣形中央に第一騎兵師団だ。右翼の防衛線を喰いちぎれ。穴が開いたら第一騎兵師団を突入させ、後方から蹂躙せよ。第二歩兵師団は、先行して中央と左翼に対し牽制攻撃を行い我々の主目標を悟らせるな。」


「了解だ。出撃するぞ!」


こうして第一軍は解放戦線防衛ラインの右翼突破を企画して鈎型陣形を形成しつつあった。

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