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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第三章 ガルディシア回天編】
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75.皇帝の殲滅指令

ザムセン 数時間前…


皇帝は居城の秘密階段から地下通路を経由して脱出し、城から2km離れた東の森の中に出た。僅かに侍従長のアルトゥールとロタール中尉、そして数人の近衛兵のみが皇帝を護衛していた。


「全員脱出したか?」


「中尉!全員脱出しました、脱落ありません!」


「了解だ。では通路を爆破しろ。」


「え?通路を爆破ですか?」


「そこに火薬があるだろう。それで爆破して通路を埋めろ。もし追跡してきた奴が居たら生き埋めに出来る上に追跡が不可能になる。早く通路を爆破しろ。」


「りょ、了解です!」


皇帝が脱出した東の森は、ザムセンから海軍基地にほど近い。直ぐに一行は海軍基地に向かったが、その行程で港の惨状がありありと見えた。港の出口には見知らぬ巡洋艦が真っ二つになっており、入口を塞いでいた。そして港の中では最新鋭の軍艦であるローブスブルグ級の同型艦が2隻も炎上している。それと一つ下のクラスの戦艦は完全に艦橋のみが海面から出て着底している状態だ。これを見たロタール中尉は思わず独り言を漏らしてしまった。


「せ、戦艦が…炎上している…なんて事だ……」


「これも奴らの仕業か。許さん、許さんぞエウグストめ。眼に物を見せてくれるわ。」


皇帝ガルディシアIII世は辺りの街や港を見渡しただけでも分かる程に甚大な被害を齎したエウグスト解放戦線に対し、徹底した殲滅戦を決意した。安全な場所まで退避した事を確認したロタール中尉は、直ぐに基地内の海軍本部に向かおうとしたが既に海軍本部はC集団の工作により廃墟となっていた。そして本部代わりの建物の中から海軍総司令部所属のグレーナー少将が出てきたのだが、彼は近衛兵に警護されながら歩いている皇帝を発見した。


「こっ、皇帝陛下!!ご無事で在らせられましたか!!」


「む、グレーナーか。貴様一体これはどうなっておるのだ。戦艦はおろか海軍本部まで廃墟ではないか!!貴様等は一体何を守っておるのだ!街も船もどうする積もりなのだ!」


「はっ、大変申し訳ございません。余りにも突然に足元を攻撃された為、反撃が整いませんでした。可及的速やかに稼働可能な船にて敵を殲滅します。」


「ほぅ、その敵がどこの何物かを理解しておるというのか!?」


「いえ、それは……」


「何処の誰かも分からん敵をどうやって殲滅するのだ!そのような体たらくだからこうなるのだ痴れ者め。敵はエウグストだ。エウグスト解放戦線を名乗る賊だ。ル・シュテルの奴も噛んでおるかもしれん。」


「エウグスト解放戦線…? ル・シュテルめが、ですか…?」


「もう良い。貴様はさっさと貴様の仕事を片付けておれ。今の司令部はどこにある?」


「あ…え?…へ、陛下、あちらの建物にございます、ご案内致します。」


「見えておるわ、二度言わぬ。去れ。」


偶々居合わせたグレーナー少将に怒りの捌け口を向けた皇帝であったが、そもそもこの様な事態を招いたのは皇帝の政策である事は言うまでもない。だがそんな事は誰も口に出来ない事だった。グレーナー少将も当然に洩れず、頭を下げ何も言わぬままに皇帝を見送った。そして皇帝は海軍総司令部に入るや居並ぶ将星に向かって叫んだ。


「各艦隊及び全陸軍に告げる。我等が戦力の全てを持ってエウグストを滅ぼすのだ。不埒な下郎共がこのバラディア大陸に生存する事の一切を許さぬ。船の一隻、銃の一丁、老若男女問わずエウグスト人共を悉く殲滅せよ!」


「へ、陛下??!!それは…!?」


「畏れ乍ら陛下、絶滅宣言はニッポンが介入する良い口実になってしまうかと…」


「これほど斯様な被害を受けて、何がニッポンの介入か!貴様、それともニッポンかエウグストの第五列か!」


「いえ、そのような事は…」


「全ての艦を出せ、そしてまずはマルソーの港を焼け!第一軍は北上しエウルレンを焼き払え!第三軍と第四軍も出撃用意をせよ!可及的速やかにエウグスト領域内の毒虫共を滅ぼせ!」


「へ、陛下…火力発電所の停止に伴い、通信設備が使用不能となっておりまして…他都市間の通信が出来ない状況となっております。急ぎ、伝令を出しますが、届くのは数日後になるかと…」


「貴様等は本当に全く何にも使えん奴らよの。何れ他の有能な者達と全て入れ替えたい物よ。」


通信設備の不通と火力発電所での電力供給が出来なくなった事は別要因だが、彼らはそんな事は分かりやしなかった。ただ同じタイミングで起きた障害だった為に原因がそれだと思い込んでいた。この通信設備の不備はC集団の工作であったが、それに関して原因が火力発電所にあるものと思い込んでいた彼等は、復旧するまで暫く電話が通じない状況が続いていたのだ。その結果として、ガルディシア陸軍の第三軍、第四軍、そして海軍の第二艦隊と第四艦隊への情報の伝達が相当に遅れた。その為、ガルディシアの軍としての初動は乱れに乱れた。



そしてD集団の後退は移動手段のバスやトラックが最初に並んでいた物は全て満載にしてエウルレン方面に出発してしまった。そのバスやトラックに乗り切れず、残されたのはD集団殿のモーリスの隊、そしてB集団の全て、そして防御陣地に入っていたE集団の一部で、全部で1,000人程が残されていた。だが、敵第一軍は明るくなっても急な前進はしてこなかった。転回場を包囲するかのようにゆっくりと慎重に進んでいた。上空から情報を得ていたエンメルスが皆を集めて言った。


「ようし皆、聞いてくれ。俺達はここを守り続けていたら包囲されて脱出の機会が無くなる。もうバスもトラックも来ない。来ても転回出来ないからだ。それ故にこれから転回場を放棄して徒歩で脱出する。エウルレンからは既に別の回収車両を送っているが、それはここまで来ない。転回可能な場所は、ここから74km程先の転回場だ。だが、その地点までは自力で行かねばならん。生きてそこまで辿り着こう、お互いが協力して生き残るのだ、いいな!よし、撤収!!」


普通に歩いて行けば時速4kmで18.5時間、つまり1日掛かりの計算だ。だが、後退しながら敵への攻撃を行い、更には各種の罠を仕掛けながらなのだ。だが良い点もある。エンメルスが接近する敵軍の情報を逐一教えてくれた為、最適なタイミングで反撃を行いつつ引く事が出来た。そして第二軍も第三軍も罠の存在を恐れて強襲せずにじりじりと前進し続けた。

そして、遂に74kmの転回場へと残余の解放戦線は辿り着いたのだった。

本当は第三部の最終回の予定でした。が、終わりませんでした…多分次で終わるかな。

そして第四部は最終章の予定です。

皆様、お付き合いありがとうございます。

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