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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第三章 ガルディシア回天編】
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71.ゲルトベルグ城の戦い-③

あの女、城まで切り込みやがった!


そう思ったのはC集団のベールだけでは無かった。ゲルトベルグ城中央庭園を挟んでC集団と対峙していたファーヴィグ大佐も同様の気持ちを抱き、しかも高揚していた。言う程の事はある、やりやがったのだ。思わず連隊の皆に向かって叫んだ。


「第14連隊の皆、聞け!レティシア大尉が城まで切り込んだ!!ここで我々が引いたら彼女の戦いが無駄になる!皇帝陛下を生きて救い出すのはレティシア大尉だ!だが、城から無事に陛下を安全な場所にお送りするのは我が連隊だ!!絶対に死ぬな!そして敵を制圧せよ!!」


当初のファーヴィグの第14連隊は2176人を数えた。だが今や第14連隊の生き残りは500に満たない。しかし連隊の士気は否が応にも上昇した。どうせ遮蔽物での撃ち合いともなれば、連射が効こうが効くまいが関係ない。ここで第14連隊に対して最も嫌な攻撃方法は、数の上で勝る相手側が包囲して強襲をかけたなら恐らくここで直ぐに全滅していただろう。しかしC集団のベールは陣地を構築して正面対峙を選んでしまった。その理由は、正面を拘束し続けていたならば、撤収してくるD集団が第14連隊の背後から攻撃する事が可能だからだ。それ故に持久戦を選択した事は後々憂いとなった。何故ならば予定通りにD集団は撤収出来なかったのである。


ランツベルグ中将指揮下の第一軍は最初のD集団からの猛攻から立ち直っていた。直ぐに射線の通らない場所まで後退を指示し、第一軍前面の歩兵師団は多大な被害を出しつつも後退に成功した。主な被害は、先頭を移動していた第一歩兵師団に集中していた。また、後方への迫撃砲での攻撃にあったのは騎兵師団であったが、騎兵師団は攻撃を受けた瞬間に一斉に回頭して後方に移動した為、その後の攻撃は喰らわなかった。つまりD集団攻撃の成果は初撃のみであり、その後には効果的な被害を齎さなかった。その為、第一軍は立ち直る猶予があり、継続して行われた迫撃砲による攻撃で多少の被害を受けた程度だったのである。そして地の利に勝る第一軍は防衛陣地前面を圧迫する攻撃に出てきた。


攻撃の先鋒たる第二歩兵師団と第三歩兵師団が、D集団が構築した防衛陣地に対してほぼ全域に渡って攻勢に出たのだ。第二軍壊滅の場合とは違い、敵第一軍には遮蔽物となる身を隠す所は山ほどあり、武装は連射可能という部分しか利点が無い。実の所D集団のモーリスがその利点を十分に理解していたら、陣地構築も現在の場所では無くもっと前面の開けた広い場所に構築し、敵軍を広い場所に誘い込んで一斉に攻撃可能な地形を選んだだろう。だが、モーリス大尉は銃の性能に頼ってしまったのだ。この銃さえあれば圧倒出来る、と。事実、初撃は圧倒していたのだが、直ぐに初撃から立ち直ったランツベルグは、敵の陣地が銃の特性に対して向きでは無い陣地構築である事を見抜き、直ぐに健全な第二、第三歩兵師団に対し全面的な攻勢を命じた。それは経験の差であった。


D集団が構築した防衛線は、街道まで続く道の側面を守る為の防衛陣地である。その為、街道に対して全面的に攻勢に出られた場合、どこかで防衛線を切られるとその穴から一気に敵の侵入を招き、穴を抜けた敵は即座に後方に展開し、そこかしこで包囲殲滅戦が行われるのだ。その事にようやく気が付いたモーリスは戦線の縮小を狙って、防衛線の先頭部分からゆっくりと後退させていった。だが、D集団が後退する事により彼らが封鎖していた道路が連絡可能状態となり、今度は騎兵部隊が移動可能になったのである。

D集団の左翼を先頭と見た場合、左翼が後退中、中央から右翼に掛けて防衛陣地は健在、しかし左翼突端部分をD集団の後方に目掛けて突進してくる騎兵師団の存在が、D集団を包囲の危機に追い込んだ。幸いな事にD集団には予備兵力があり、この予備兵力を以て左翼から防衛陣地後方に展開しようとしている騎兵師団を広場に誘い込み、そこに迫撃砲の雨を降らせた。怪我の巧妙というか、この迫撃砲での攻撃は周辺の建物を破壊して通行不可能な状況となった為、騎兵師団は以降の動き様が無くなってしまったのだ。だがD集団の代償は大きかった。予備兵力が騎兵師団を広場に誘い込むのに辺り、自らが囮となってしかも砲撃のその瞬間まで騎兵師団を拘束していたのだ。それ故に迫撃砲の殺傷範囲内に居た予備兵力に多大な被害が出た。


D集団のモーリスは、これ以上敵歩兵師団からの圧迫に陣地は耐えられないと判断し、中央部分も含めた後退を決行し、ゆっくり後退しながら前線を整理した。これは敵の前面を正面に捉えながら後退しつつある状況だ。つまり、当初考えていた皇帝誘拐によって敵の行動を抑制する以外に撤退方法が無い事を意味していた。それが故にB集団のエンメルスの手にD集団1万人の生死が掛かっている。


だが、そのエンメルスは…


「ちっくしょう、この女強ぇぇぞ、一瞬で死ねるわ、こりゃ!」


「トア、トーマ、ランバート、囲め。逃がすなよ。だが、近寄るな。あっという間に切られるぞ!」


「あなた方、女一人に何人を費やす御積り?」


「おい、見かけに騙されんな!こいつバケモンだぞ!!」


既にゲルトベルグ城一階はレティシア大尉の乱入によりB集団の半分が拘束されていた。エンメルス率いる第一レイヤー部隊を中心としてレティシア大尉の相手をしており、残りが2Fの近衛師団の相手をしている。そして二階に数発の閃光弾と手榴弾を放り込み、そのまま突入していった。だが、第一レイヤーの面々は苦戦を強いられていた。レティシア大尉の余りの速さと剣の鋭さ、そして何故か射撃が当たらない事。


「おい、一旦距離とれ。こいつ変な歩法使ってるぞ。」


「あら、理解しました? 皆、今迄理解する事も無く斬られて逝くので、びっくりです。あなたお名前は?」


「エウグストのエンメルスと言う。名前を聞いて何をするのか意味が分からんがな。」


「これは御叮嚀に。私は情報局大尉レティシアと申しますの。あなた良い目を持ってるわ。だからとても残念。でもずっと覚えているわね。」


「ああ?何が残念なんだ?覚えているってなんだ?」


「だってこれから斬られて死ぬのですもの。」


エンメルスは殺気の線に沿って一気に下がった。

一瞬でも遅れていたらざっくり斬られている所だが、この女が言っている事は強ち間違いではない。確実にこの女は俺よりも強い。何人か同時に掛かっても無理だろう。どうしたもんか。変な事に興味を持つべきじゃなかった。俺も日本に行って、特殊作戦群を名乗る精強に鍛えられ相当強くなったと自負していたが、こいつはレベルが違う。こいつは疲れさえしなければ、ここに居るB集団を全員切り伏せる事が可能だろう。最悪だ。あの手を使わないとならんか。


「あら、急に静かになったわね。」


「ああ、お前をどうやって黙らせるか考えてたんだ。」


「何か妙案はあったかしら?」


「とっておきが一つな。」


エンメルスは懐からある物を取り出して、ピンを引いた。

ふわー、誤字脱字報告大変感謝ですーー

書いている瞬間になんで気が付かないんでしょうかね。

シクシク

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