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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第三章 ガルディシア回天編】
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70.ゲルトベルグ城の戦い-②

「くそっあの連射銃、これ程厄介だとは…」


「大佐、第一軍の方から爆発音が連続しています。これはもしや…」


「うむ、第一軍が攻撃を受けておる。援軍を寄越す状況じゃなさそうだな。」


「ねえねえ、貴方達帝国軍よね?どうしたの、こんな所で?」


「ん、なんだ貴様!? お、お前はレティシア大尉!?」


敗走一歩手前だったファーヴィグ大佐の14連隊は城から遠ざかるように後退していた。そこに現れたのはレティシア大尉とジーヴェルト軍曹、そしてフリースナー上等兵の3名だった。ファーヴィグ大佐は、現状をレティシア大尉に説明した。


「あなた達、それで後退してたの?情けないわねぇ…」


「貴様、あの連射銃を経験せんからそういう軽口を言ってられるのだ。我々と比較して圧倒的な火力を投射してくる連中にどうやって前進をするというのだ?」


「当たらなければ良いじゃない。それに懐に入ってしまえば撃てないでしょ?撃てない状況に持って行くのが指揮官じゃないの?頭悪いの?」


「ちっ、狂った女は話にならんな。それほど言うなら貴様が啓開しろ。」


「そのつもり。貴方達は陽動になって下さる?その間に切り込むから。」


ファーヴィグ大佐の第14連隊の生き残りは450名程となっていた。そして相手に目立った被害を与えた感触は無い。つまり城に向かっていた敵軍はほぼ連隊規模を維持している筈だ。これを何とかするのか?この大隊に満たない俺達とこの狂った女でか?だが、ここでもし皇帝に何等かの被害があれば、当然我々も責任を追及されるだろう。一体全体どうやってこの状況をひっくり返そうというのだ?


「ね、ファーヴィグ大佐。貴方、右から入ってあちこちに火を付けて。既に親衛隊宿舎が燃えている様だから、親衛隊宿舎と城の正面の間を燃やすような感じでお願いね。私は左側から切り込むわね。それと私達には当たらないから遠慮なく撃ってね。」


「お前達には当たらないだと?何を馬鹿な…」


「そう言っとかないと制圧射撃に迷いが生じるでしょ。」


「ふん、大した度胸だ。火つけは任せて貰おう。」


「ええ、お願いね。どうせあなた達を撃退して油断しているわよ、あそこの連中。」


ファーヴィグの14連隊が進んできた道とC集団が進んできた道は、ゲルトベルグ城手前2km程で合流している。この合流路で先程の交戦が行われた。この合流した街道は、そのままゲルトベルグ城に続いており、1km程直進するとゲルトベルグ城敷地に入る。ゲルトベルグ城前面には大きな広場があり、広場に沿って右側に親衛隊宿舎があった。そして現在、大きな広場の所でベール率いるC集団が防御陣地を構築していた。親衛隊宿舎は既に炎上しており、広場にいるC集団を明々と照らしていた。


広場に展開していたC集団は遮蔽物が無い事と、宿舎が炎上している事により辺りが明るくなっている事が気になっていた。もし銃撃を受けると逃げ場が無い。その為、花壇の造園用の煉瓦やら木材を利用して簡易防御陣地を作っていたが、如何にも心もとない。ここで攻撃受けたらそれほど持たんな、と思っていたベールの元に数発の銃声が響いた。


「敵襲!正面から敵歩兵浸透!」


「そう簡単にイカねえな。応戦しろ!絶対に城に近づけさせるな!!」


浸透してきた歩兵は、こちらが花壇を利用して隠れている所に火炎瓶を投げ込んできた。手持ちの油が少ないのか、一人1、2本しか火炎瓶を持たず、しかも比較的散発的な攻撃であった為、即座に反撃して相当数を減らした。だが中央庭園のあちこちが燃やされ、しかもなかなか消えない。そこに後詰の銃兵が浸透してくる。ベールは何故彼らが力押しをしてくるのか理解出来なかった。あいつら見た所、先程の遭遇戦の兵だ。多分半分以下に戦力は減っている筈だ。半分も減りゃ通常なら全滅判定だ。しかも火力の違いも認識している。なのに、何故だ?


だが、その答えはすぐに判明した。ゲルトベルグ城左手の草木が生い茂る場所を守っていた兵が発砲を開始したのだ。どうせ、浸透を狙って散発的な兵の突進をしてきたのだろう、と思っていたベールは、当初全く気にも留めなかった。だが、徐々に銃撃の音が左側で大きくなってきたのだ。そのうち、そちらの兵が叫び始めた。


「ちくしょう、早いぞ!!当たらない!!」


「ヘルベルトが切られた!!な、なんなんだ、この女!!」


「中に入られた、近接戦闘だ!!剣を使え!!銃は使うな、同士討ちになる!!」


剣と小銃を振り回しながら、C集団の兵の中に入り込み舞い踊る様に切り捲っている女が居る。余りに他の兵と近い場所に居て誰も撃つことが出来ない。しかもこの女の随伴兵と思われる二人が、女が倒した兵の銃を奪っていた。


「ほうほう、これが噂の連射銃。どんなもんかね?…おお、こいつぁ便利なシロモノだ。どうだ、フリースナー!お前もそこらに落ちている奴を使ってみろ!」


「軍曹、流石ですな。どれ、こうですかな?」


「あんた達、私に当てないでよね。ここらは適当に切り上げて、城の中に入るわよ。」


「了解、大尉!」


やべえ、あの女と連れが囲みを突破しやがった。なんで弾が当たらないんだ??いや、こうしちゃいられねえ。城に潜入したエンメルスの部隊が後ろから攻撃されちまう。ベールは正面を守っていた部隊に向かって叫んだ。


「お前等、前方の敵軍を拘束しろ!いや、殲滅しろ!!絶対に中に入れんな!」


そして自分の近隣の兵を集めて、城の方に向け駆けて行く。


「先程の女を仕留めるぞ!城前面の兵とこちらで挟み撃ちだ!」


だが、ベールの願いも虚しく瞬時に城前面の兵は倒された。先ほど奪われた銃で攻撃されたらしい。あいつら触った事も無い拾った銃でなんでそこまで撃って当たるかな。ともあれ、あいつ等の動き止めねえと!当たれ!!


「うっ、また足かよ!ちくしょう!」


「撃たれたか?大丈夫か、フリースナー?!」


「大尉と軍曹は先行って下さい、俺はここを守ります。…軍曹、その銃下さい。」


「おう、了解した。使え、フリースナー上等兵、感謝する!」


「ありがとう、フリースナー。またね。」


「大尉!軍曹!また後で!」


足早に女と随伴兵が城の中に入っていった。しかも入口には、さっきの銃撃が当たった兵がこちらの銃を持って頑張っている。面倒な事になった。あの入口を守る兵は足を撃たれて動けない状況であそこを守る事を選択したという事は、死ぬ覚悟で守る気だろう。これほど厄介な奴は居ない。


「こちらC集団のベールだ。厄介な事になった。剣を振り回す女と随伴兵が城1Fに侵入。動きが滅法早い上に強い。注意しろ。」


「エンメルス了解、こっちで片づけておく。これから2Fに上がる、以上。」


B集団の250名は既に城の1階を制圧し、2階の様子を探っていた。事前の情報で2階には精強な近衛部隊が56式小銃を構えて待ち構えている筈だ。その中で奇襲突入を行おうとした際に、外からの明かりがどんどん強くなっていった。それは第14連隊の放火によって庭園が炎上し、その明かりが侵入予定路に差し込み、身動きが取れなくなってしまった。ここは射線が通る上に、炎の明かりで一瞬身体が暴露される。どうしたものか、と別ルートからの侵入を検討していたら、後ろから剣を持つ女が突入してくるという。


…ちょっと待て。剣を持つ女だと?

以前、どこぞで暴れまわっていたレヴェンデールの狂女って奴か?

それは面白い。


エンメルスは噂の狂女がどれほどの者なのかを確かめたくなった。

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