66.帝都ザムセン急襲
エウルレンから出発したバスは帝都ザムセン手前4km地点での乗用車待避所地点で転回し、次々と解放戦線の戦士達を吐き出した。先行して到着しているトラックの荷台には武器弾薬が山積みしてあり、バスから降りた者がそのトラックに行って武器弾薬を受領していた。武装が終わった者からザムセンに向けて隊毎に進行を開始してゆく。その光景をD集団のモーリスが眺めていた。そこに進行表を抱えた兵が駆け寄ってくる。
「モーリス大尉、報告します!現在、D集団39台目の降車完了です。」
「おう、ご苦労。集合の状況はどうだ?」
「予定の時間よりも若干遅れています。今の所、ザムセン方向でバスの渋滞が発生しています。降車が予定時間よりも掛かっているのが原因です。」
「そうだな…見た感じ20台位連なっているな。ここの転回場で複数台一気に降ろせないか?」
「そうですね、直ぐやってみます。」
報告に来た兵が足早に転回所の方に去っていった。
このD集団が降り始める事数時間前には、既にC集団が到着して城下町に向かって移動していた。ザムセンは完全な夜の帳が降りて、繁華街以外では既に皆眠り始める時間帯だ。今の所、D集団は1台50人少々が乗り込んでいる為、2000人弱がザムセン手前に集まっている。ここの街道さえ守り切れば撤退も容易だろう。だが、この降車の瞬間を狙われたら一溜りも無い。その為、先行したE集団が街道周辺の降車位置をガードしている。
現時点で、A集団は既に火力発電所に潜入し作戦開始時間を待っていた。そしてゲルトベルグ城手前でB集団が突入の合図を待っていた。C集団は街道を移動中、D集団は降車中、既に降車が終わったのは1個連隊程度の2000人だ。残り8000人は未だ降車待ちと移動中、E集団はここザムセン手前の転回場をガードしている者達と、エウルレン市内及び周辺を守備していた。E集団の一部は既にザムセンに侵入し、通信回線の遮断を行っていた。これによりザムセン内での通信を行えなくなっていたが。未だ誰も気が付く者はいなかった
そして同じ頃に、ガルディシアのザムセン軍港とヴァント軍港を目指して移動していた旧式巡洋艦と日本の海上保安庁から供与された3隻の改造巡視船がそれぞれの港近くまで接近しつつあった。作戦開始時間はもう直ぐだ。改造巡視船のラマルク艦長は通信回線を開いた。
「水中工作員の準備はどうか?」
『出撃準備完了です。いつでも行けます。』
「よし…水中工作員出撃せよ。回収は今から50分後だ。少なくとも3隻は沈めろよ。だが、無理はするな。」
『了解、出撃します。』
タイムテーブルはこれから1時間後に火力発電所が停止し、それを合図に城下をC集団が暴れまわる。そしてゲルトベルグ城にB集団が突入し皇帝を拉致する。このタイミングで旧式巡洋艦を軍港に突入させ港の入口に爆破して沈める。と、同時に港に停泊中の軍艦底部に仕掛けた爆薬を爆破して軍港内を混乱させる。この混乱のタイミングで工作員部隊と旧式巡洋艦乗組員を回収する。その後に、軍港近くの山に行き、海兵を釘付けにする任務を負ったA集団を回収する。やる事は山積みだが、全てタイミングが命だ。ラマルク艦長は巡洋艦に通信回線を開いた。
「巡洋艦ロイエール・ベルト、港に向けて前進し、ザムセン軍港を閉塞せよ。」
「ロイエール・ベルト了解、ザムセン軍港に向かいます。回収宜しくお願いします。」
「承知した、必ず回収する。生きて帰れよ。」
ゆっくりと巡洋艦がザムセン軍港に進んで行く。同じ頃にヴァントもこれをやっている筈だ。向こうは上手くやっているかな?とラマルク艦長は狭いブリッジの中で独り言ちた。
A集団のレパードは火力発電所の近くで作戦開始時間を待っていたが、遂に時が来た。作戦開始時間と同時にレパード達50人は一気に火力発電所内に突入した。内部には武装した者は一人も居らず、火力発電所で働いていた全員を確保した後で一か所に集めて縛り上げた。
火力発電所の停止に関しては、それ程難しい事は無い。破壊するよりも停止させる為の操作を教えられ、その通りに行うだけだった。レパードはマニュアル通りに停止手順を行った。その上で、縛り上げた者達を脅した。
「俺達はこれから数時間ザムセンが停電してりゃそれでいい。明日朝になったら解放してやる。だが、それが待てずに逃げようとしたり英雄になろうとした奴は先に死ぬ。大人しくしていりゃ明日には助かるんだ。頼むからちょっと大人しくしていろよ。」
こうしてザムセンとヴァントへの電力供給は断たれた。
ゲルトベルグ城城下では大抵の一般の臣民達は寝る時間だったが、一部の居酒屋では未だ飲んだくれ達が管を撒いていた。だが、突然の停電に店内は騒然とした。店内は真っ暗になり、何一つ明かりが見えない。
「おい、マスター真っ暗だぞ!一体どうなってんだ!!早く直せ!」
「いや、すんません教えられた通りに復旧手順をしてるんですがね、さっぱり直らないんでさ。」
「ちっ、なんだよ電気ってのも万能じゃねえな。おいローソクねえのか!?」
「マスター、あの…冷蔵庫が止まってしまって、保存食が…」
「そのうち直るだろ。まぁ、待っとけ。それと奥からローソク出してこい。」
「真っ暗過ぎてどこに何があるのやら…」
そんな騒ぎを他所にザムセン城下町には56式銃で武装した集団が浸透していた。その人数は続々と増えており、その存在が露わになるのも時間の問題のようにC集団の指揮者ベールは思えた。だが、意外に未だ露呈していない。この幸運が続いている間に仕事を済ませてしまおう。
「よし、政府関連施設を破壊するぞ。タイマーは1時間でセット。元老院と秘密警察本部、可能であれば陸軍省と海軍省だ。各チーム10名で行え。終わったら可及的速やかに離脱し、帰路に爆弾仕掛けて、帝国陸軍を阻害しろ。集合地点はここだ。行け!」
「了解。」
「残ったお前等にも仕事があるぞ。計画通り、帝国陸軍の予想進入路にバリ築け。なるべく奴らの進軍を停滞させるようにな。訓練通りに作れよ。」
「了解しました!」
ベールが指示を出し終わった頃、港の方から大音響が聞こえた。
累計20万PV達成記念3回目の更新。
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