64.ザムセン急襲前夜
遂にザムセン急襲前夜を迎えた。
レパード率いるザムセン火力発電所を目標としたA集団と、エンメルス率いるゲルトベルグ城制圧部隊のB集団は既にザムセンに移動していた。べール率いるザムセン城下町を制圧予定のC集団は、出発待ちの状態で待機をしている。その背後にはゲートの演習を日中に行い万全の体制となったアレストン率いるE集団の一部が駐車場に集まって警護をしていた。
当然、このバス駐車場は比較的郊外にあるのだが、これ程の人数が集まれば当然目立つ。早速秘密警察に率いられた警察が動き始めたのだが、集まった人数が多すぎて手が出せず遠巻きに監視をしている。そして警察側の応援人数が徐々に増えた頃に、警察を険しい顔で見つめるアレストンの元に報告が入った。
「2時間後にエウルレン側の通信設備を落とします。準備は完了しています。」
「分かった。ゲートの方は問題無いか?」
「今の所人数が人数なので、多少遅延してますが現状の処理能力だと限界ですね。もう少しゲート増やして貰えば良かったんですが…」
「そうか。だろうな…ん?3番ゲートで何かあったか??」
怪しい気配が微塵もしない普通の男が、3番ゲートを通過しようとした瞬間に警報がけたたましく鳴ったのだ。即座に周辺は緊張状態になった。
「えええ、なにこれ?ちょ、ちょっと待てよ!!」
書類関係は問題が無い。ここまで何も障害が無かったが、いざこのゲートを潜れと言われて潜るとブザーが鳴り響いている。どういうこった!?慌ててもう一度ゲートを通ろうとした男は、再度ブザーを鳴り響かせ、その回りを直ぐに男達が取り囲んだ。即座に男は抜刀し、周囲を睨みながらじりじりと逃走可能な位置取りをしようとしたが、幾重にも回りを取り囲まれ逃げる手段が無い。男は辺りを見渡すと観念したかのように一言漏らした。
「ちっ、ここまでか…」
「おいっ!!口を閉じさせるな!!取り押さえろ!!」
カキン!
アレストンは脱出不可能となった瞬間に何をするのか予想していたので、全速で駆け付けて取り押さえようとしたが、既に遅かった。男は口から泡を噴きつつガクガクと痙攣している。即効性の神経毒のアンプルを歯かどこかに仕込んでいたに違いなかった。
「おい身元調べろ。何者だ、こいつ。」
「ん…これか。ええと、レヴェンデール地方リレト村出身のビュートって奴ですね。剣以外に所持している物は無いみたいです。剣もそこらで手に入る既製品ですね。ああ、なんでゲートが反応したのか分かりましたよ。リストバンドが一度切られて、それを無理やり再利用したみたいですね。一度切ってしまうと二度と使えないのに。」
「こいつどう見てもそこらの出身じゃねえぞ…はっ、今の警察に見られてないよな?おいファーマス、警察の動きはどうだ?」
「ちょうどここが連中の所からは死角になってます、大丈夫です、気が付いていません。」
「そうか…良し。ゲートへの誘導再開しろ。急いで皆を送り込むぞ。」
アレストンは胸をなで下ろすと、この死体の撤去と引き続きゲートへの誘導を再開するよう指示を出した。アレストン達は気が付いていないと判断していたが、遠くから監視していたブルーロ特殊作戦団のギュンター少尉とヴァルター曹長はこの様子を見ていた。
「不味い…潜入失敗だ、ハンスが死んだ…一体どうしてバレたんだ?」
「なんだと?それならプランBだ。警察軍をあの集合場所に投入しか無かろう。」
「ギュンター少尉、まだ警察軍が集まって無いんですよ。あの人数を前に少数の警官入れても逆に危険です。警察軍は今エウルレン三方に散った状態なので、ここに呼び戻すにゃ時間がかかります。」
「だが見た所、連中は武装していないぞ。警察軍は標準装備しているだろ?遠巻きに射撃して…ああ、そうか。包囲しないと相当数逃げられる、って事か。」
「すんません、そういう事で。ただ、特殊作戦団全員投入であいつ等に射撃してやりたいのは山々です。ハンスの仇をとってやりたいんすよ。」
「ううむ…分かった。ヴァルター、一度戻って全員連れて来い。流石にこれだけ集まっているのなら、ここで動いても間違いは無いだろう。それと秘密警察に警察軍投入の合図入れとけ。俺はここで残って監視を続ける。急げ。」
「ありがとございます、少尉!早速行ってきます。」
足早にヴァルター曹長が去っていき、ギュンター少尉が引き続き駐車場広場の監視を続けていた。そことは別の場所に警察軍が集まり続けていた。警察軍の一部には既に銃の手入れを行い始めた者もギュンターの位置から見えている。気が早いが準備は良いなと思いつつ再び駐車場に視線を向けると、そこには見た事も無い拳銃を取り出しつつある一団が居た。この男達は拳銃の先に長い筒のようなモノを装着し、警察が集まっている所に近づいて行った。警察が集まっている所からは彼らが死角で見えない。…もしかして、奴ら警察軍を攻撃するつもりなのか!まさか!?
「よし、そろそろ通信施設制圧の時間だ。こちらも警察軍を排除するぞ。準備はいいな?」
「アレストンさん準備完了です。まずはここに集まりつつある警察軍を排除します。ランバート、警察詰め所を監視している部隊に連絡しろ。作戦開始。」
D集団から抽出されたエウルレンの警察軍を排除する部隊が動き出した。この駐車場に居る抽出部隊は20名、その他警察詰め所に向かった部隊が50名、その他に30名を予備兵力として残していた。駐車場を遠巻きに集まっていた警察軍は、消音装置付きの拳銃を持つ20名の抽出部隊に囲まれた挙句に何が起きたのかも分からず反撃も出来ないままに集まっていた警察軍全員がその場で射殺された。
その様子を見ていたギュンター少尉は驚きの余り思考が止まった。
「何だあの武器は?発射音が全然しなかったぞ!?しかも一人が何発も撃ち込んでたぞ??一体何発撃てるんだ?あんなの…あんなの見た事も聞いた事も無いぞ!!」
暫く放心していたギュンターだったが、我を取り戻した瞬間にその場から見つからないように離れた。不味い不味い不味い!あんな武器を持っている連中に正面から攻撃したら、ただでさえ人数多い上に武器まで性能が上なら、皆虐殺されちまうぞ。一体どこからあんなもん手に入れたんだ。ニッポンか?あいつらニッポンと結託しているのか?隊長に早くこれを知らせないと、皆殺しにあっちまうぞ!
ブルーロの元に急ぐギュンターだったが、向かう先にはエウルレン中央を経由しなければならない。その時既にガルディシア警察軍への掃討作戦が始まったエウルレン市内にはあちこちに警察官の死体が転がっていた。D集団からの抽出部隊本隊は、全員消音装置付きの拳銃で警察詰め所に向かう途中に出会った警ら中の警官達を襲っていた。そして詰め所に突入して次々と警官達を射殺していった。そして今迄に逮捕された皆を解放しつつあった。ちょうどその混乱の最中にギュンターはエウルレン中央を通りかかったのである。既にエウルレンの警察官詰め所は全滅していた。茫然としていたギュンターに背後から声が掛けられた。
「ギュンター少尉ご無事だったのですね、急ぎここから脱出しましょう。もうここは危険です。」
それは以前にギュンターと行動を共にした秘密警察の一人テオドールだった。
「テオドールか!なんだ、一体何が起きた!」
「警察軍が攻撃を受けました。連中の攻撃は音がしません。気が付くと詰め所は全滅していました。こちらは対抗出来る武器が無いので、隠れて逃げるだけです。このエウルレン中央地区に残るのは我々位でしょう。南は連中が集まっているので逃げられません。行くなら北の方です。」
「こちらもハンスが殺られた。奴らの武装も目視確認しているが確かに対抗出来ない。」
「ハンスさんが…さあ、こうしている暇はありません。路地を伝って北に逃げましょう。」
「了解だ。」
こうしてギュンターは秘密警察のテオドールと共に裏路地でエウルレン北方面に脱出した。