59.混乱に乗じて
作戦決行まであと数日しか無いのに運搬手段が予定数に達していない事にル・シュテル伯爵は持てる手段の全てを投入しても決行日迄に間に合わそうと躍起になっていた。
「伯爵、トラックと運転手の調達が完了しました。バスの方は交渉中ですが運転手の手配が出来ていないようで、こちらで運転手を用意するならバスを貸し出せるとの事です。」
「ああ、流石に24時間勤務になるからねぇ。分かりました、報酬を引き上げましょう。上限25%迄で小出しに交渉して下さいね。あと、別途運転手の手配もお願いします。人使いが荒くてすいませんね。」
「いや、伯爵、本当に…そうですね、頑張りますよ。」
「お願いしますね。」
そして現時点でもバスの手配は終わってはいない。
だが、このバラディア大陸の中でバスの手配など可能な場所はエウルレンかマルソーだけだ。既に自分が手配可能な場所は全て手配を終え、後は個人や独立系で運営している場所しかない。だが、情報秘匿の事を考えるとむやみやたらと手配を広げるには危険過ぎるのだ。その為、何か別の手段を取らざるを得ない状況となっていた。
「そうだ、ボーパール君!トラックの方はまだ余裕あるのかな?もし調達可能なら、トラックでも良いから搔き集めてくれないかな?」
「了解です、伯爵。トラックの方は報酬引き上げで交渉しますか?」
「うーん…もし、渋るようなら先程と同じ条件で交渉してくださいね。」
「了解しました。早速手配してみます。」
「伯爵、忙しい所をすまん。ちょっといいかな?」
「あれ、アレストンさん、珍しいですね。どうぞ?」
「すまない。例の集会のチラシ配布所で怪しい奴を何人か見かけた。例のスクリーニングで一般の方に振り分けられていたので、暗号を知らなかった様だ。もしや例の潜入部隊かと尾行したが巻かれてしまった。恐らくこれ程の規模で人の移動が発生している事と、エウルレン市内の公共交通機関であるバスが数日運行停止の告知が出ている事で、何かが動いている気配を察知されていると思う。」
「とは言ってもこちらの準備はこれ以上無いってくらい逼迫しているんだよなぁ。或る程度秘する事には留意しているが、これ程大規模に準備を行っているから限界があるよ。」
「一応今の段階ではスクリーニングで弾けてはいるが、いざ当日に紛れ込まれて銃でも持たれた日にゃ面倒な事になるぞ、伯爵。」
「もう一段階どこかで確認を行った方が良いという事かな、アレストンさん?」
「そうだな…出来れば武装する前の段階で何とかする方法があれば。」
「とするならば、C集団のベールを呼んだ方が良いだろうね。まず、エウルレンからザムセンまでの防備担当の彼らが動きやすい様に話し合った方が良いだろうね。まずベールを呼ぼうか。」
「ああ、そうだな、伯爵。頼む。それにしても潜入部隊の顔が割れていないのは厳しいな。」
「一人でも特定出来れば、それなりに辿る方法はあるんだけれどねぇ。」
アレストンの疑念は果たして正解だった。
ブルーロはエウルレンの解放戦線集会に何とか潜り込もうとしていたが、チラシの仕組みが分からない。その為、ブルーロ特殊作戦団の何人かを送り込んだが全て同一の結果という体たらくだったのだ。その為、彼らはこのチラシを恐らく正規で受け取ったと思われる人を尾行し、そこから秘密を探ろうとしていた。何人か選んだ正規と思われる人物のうち、夜に酒場に出かけた者はたった一人だったが、その一人を尾行していたエドアルドは同じ酒場に躊躇無く入った。暫く、その人物が食事をしながら酒を呑む所を自分も飯と酒を注文しつい監視した。適度に酔っぱらってきた所で話しかけようとしていたが、どうやら連れが来た様で会話には入っていけない。だが、この連れがどこかで見た事があるような気がしてならなかった。エドアルドは記憶の引き出しを片っ端から開けて思い出そうと躍起になっていたが、その人物が連れを呼ぶ際に大声を出し、それで記憶は繋がった。
「おいおい相変わらずだな、ストルツ!」
「うっるせえな、ケレルマン。ほっとけや。」
ストルツ…ストルツ…聞き覚えがあるぞ。顔も昔の手配書に乗ってた奴とそっくりだ。どこだ…
そうだ!アラン・ストルツ!ティアーナ港に至る山岳輸送路で暴れまわっていた反ガルディシア分子だ!確かレオポルド指揮の掃討作戦で、あの山岳路の賊は一掃された筈だが…生きていたのか!すると、解放戦線が武力蜂起路線を放棄したというのは本当か?こんな武闘派の奴がいるのにか?これはかなり怪しいぞ…どうする?この件を報告するか、それともこいつらから情報を聞き出すか?だが確かストルツは、手配書によると無手の近接戦闘の専門家だとか書いてあったな。手を出すには相手が悪すぎる…
エドアルドは逡巡しつつ監視を継続していたが、逆にストルツも先程から視線を寄越す不信な男が気になっていた。既にベールを経由してアレストンから潜入部隊が動いている事を知っていたストルツは、自然にトイレに行く風を装って第二レイヤー部隊に、この建物をそれとなく包囲するように連絡を入れた。
戻って来たストルツと入れ替わるように尾行した人物のケレルマンという男がトイレに立った。戻ってきたストルツの様子を何の気無しに視界に入れていたエドアルドだが、先程よりもストルツは落ち着いた余裕のある表情をしている。……何故だ。何かをし終えたか?今この場で何かをし終えるとしたら、俺に関する事だろうか?不味い気がしてきたぞ。しかもあれから一度もこっちを視界に入れない。不自然に視界に入らないようにしている。エドアルドは確信を持って結論した。
こりゃバレた。逃げなきゃ!
慌てて店の親父に勘定はいくらだと立ち上がって話しかけた際に、初めてストルツはこちらに視線を向けた。あの視線の意味は何だ?左手で耳を押さえて一体何をしているんだ?なんで独り言を言うように口をモゴモゴ動かしているんだ?何をしているかさっぱり分からないがこの場に居続けるのは、危険がどんどんと高まっている気がしてならない。
エドアルドは勘定を済ませると、直ぐに店の外に出た。
ちっ、全くついてねえ。
漆黒の森からこっち、生きている事で運を使い果たしたみたいだぜ。
3、4、…5人も居やがる。
店の外には既に数人のレイヤー部隊が囲っていた。
そして店からストルツも出てきたのだ。
総合評価が500を越えました!ワーオ。
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