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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第三章 ガルディシア回天編】
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57.帝都ザムセン急襲作戦の骨子

「さて、次に問題となるのは1.2万人の移動です。

陸戦部隊は大まかに分けて5つの部隊となります。まず火力発電所制圧と海兵の牽制を行うA集団、ゲルトベルグ城を制圧する先遣隊のB集団、ザムセン城下町を制圧するC集団、その後ガルディシア陸軍第一軍を迎え撃つD集団となります。それぞれの規模はA集団が50名程度、B集団が250名程度、C集団が2,000名程度、残りの1万人がD集団です。流石にD集団は1万人規模なので、白昼堂々と移動すると当然露呈します。その為、深夜に街道でのバスとトラックによるピストン輸送を行います。この街道の防御は輸送と同時に街道確保を行う3,000人のE集団が行います。」


A集団は第三レイヤーのレパード、B集団は第一のエンメルス、C集団は第二のベール、D集団はモーリス、E集団はアレストンがそれぞれ指揮をする。既に輸送手段はル・シュテル伯爵が用意している手筈となっている。エウルレンに存在する全てのトラックとバスを深夜に動員するのだ。だがどれだけ秘匿しても、これ程の人数が移動する状況は完全には秘匿し切れない。何せ、エウルレンとザムセンは今や電話回線で結ばれている為、情報もそれなりに早く伝わってしまう。その為にC集団とE集団には通信網の遮断任務も併せて課せられた。C集団がザムセン側を、E集団がエウルレン側をそれぞれ通信を遮断する手筈となった。


「伯爵、例の反ガルディシア組織はどうなったんだ?今回、これに乗じて協力は出来ないか?」

「ああ、ゾルダーの組織ね。未だゾルダーからは進展が無い状態だと連絡が入っているんだよね。アルスフェルト伯爵への懐柔は成功した様だが、まだ勢力的には微々たる物だ。これは期待しない方が良いよ。」


実の所、ガルディシア側の反乱軍は人数的にそれほど確保された訳では無く、今回は出番が無いかもしれない。だが、チャンスがあるのならこの機に乗じて、帝政をひっくり返す事も可能かもしれない。その為、その辺りの行動は作戦の余地を残していたが、今回は無駄になりそうだ。


「C集団は政府関連施設の破壊工作を行って下さい。目標は元老院、秘密警察本部、可能であれば陸軍省と海軍省、どうせ深夜で人は居ないので徹底的に爆破して構わないです。それと道路を寸断し、バリケードを設置して封鎖後、撤収。交戦はなるべく控えて下さい。」

「皇帝の拉致が成功したらどうする?」

「拉致成功したら交渉開始ですね。皇帝は一旦エウルレンまで移動してもらい、その後にル・シュテル伯爵と交渉という事になります。皇帝は問題が解決するまではエウルレンに幽閉という形となりますね。それと帝都には第一軍の他に親衛軍が居ると思います。第一軍はD集団が牽制するとして、親衛軍はどうしましょうかね。位置的にも対応が一番早いと思いますので、C集団による牽制が必要となってきますね。その為C集団は撤収後に皇帝親衛軍との交戦となります。」

「皇帝が交渉を拒否した場合はどうしたら良いだろうか?」

「交渉を拒否ですか?そうですね…ザムセンのインフラを盾にしましょうか。火力発電所を破壊するとか上水道施設を破壊するとか。」


既にザムセンもエウルレンよりは劣るにしても日本製インフラ施設による恩恵が多大であり、もしこれらの施設が機能停止した場合は、甚大な影響が出る事は明白だった。皇帝がこの条件を呑まずに拒否した場合、その影響を受けるのは帝都の臣民達なのだ。彼らがそれらの被害を被り続ける時間が長ければ長い程、皇帝に対する忠誠は落ちるに違いない。それがどの程度なのかは実際になってみないと分からないが、やる価値はあった。


「何れにせよ、旧エウグスト地域の自治権の確立を呑んで貰わなければな。」

「それならばモーリス大尉。最初から旧エウグスト地域の独立を要求するのは如何でしょうか?」

「独立、となると帝国の抵抗も強くならないか?」

「いえ、あくまでも最初は高く掛け金を掛けて、最終的には自治権確立までを妥協ラインとするような交渉を行った方が良いかと。」

「ううむ、そうだな。交渉はそれで行こう。」


こうして急ごしらえのザムセン急襲作戦が立てられた。

A集団とB集団が前日迄にザムセンに入り、作戦当日深夜に火力発電所の制圧、電力の供給を断つ。そしてC集団とE集団がエウルレン-ザムセン間の通信を遮断、そしてザムセンに至る街道をE集団が押さえ、エウルレン市と街道を確保、順次D集団をザムセンに送り込む。先遣隊のB集団は城の制圧に向かい、C集団は城下を混乱状況に落とし、皇帝親衛隊を拘束する。皇帝を拉致した後には、エウルレンまで引き防衛体制を整える。

それと並行して、ザムセンとヴォルンの港を閉塞する。マルソーから出た旧式巡洋艦をザムセン港とヴォルン港の入口に沈め、且つガルディシアの主要艦艇に爆弾を仕掛け、出港時に爆破する。こうして第一・第三艦隊の動きを封じ込めた上で、陸路を行く海兵をA集団が牽制をし、頃合いを見て脱出する。この作戦計画に沿って、実行は1週間後と決定した。


そしてル・シュテル伯爵はゾルダーに連絡を入れたのだった。


「あ、ゾルダー君、こんな時間に済まない。火急の要件があってね。」

「どうしたんですか?例の銃弾の件ですか?」

「いや、そうなんだけどね。急な話になってしまったのだけれど。解放戦線は1週間後にザムセンを攻撃する事となったよ。その目的は皇帝誘拐だ。」

「はぁ!?え…誘拐??…と、というと??」

「詳細は長くなるが、彼等自身の銃弾製造が以降進むならば我々の勝機が遠のくのでね。今のうちに最初の一手を打つ事になった。」

「それならば…でもザムセン?急な話過ぎますね…我々は未だ準備も組織も何も出来ていないですよ。ようやく旧第七艦隊の連中を勧誘する体制が整った位で…」

「今回は帝政転覆までは狙っていない。そこまでの戦力と組織が無いんだ。だが、この機会を逃すとガルディシア側の戦闘力は跳ね上がると見積もっている。その為、それを潰す事を目的としたエウグスト側の自治権要求程度に押さえる。」

「だが、そんな事をすれば必ず帝国の反撃が来るぞ。エウグルトは上下の軍に…ああ、第二軍は再建途中か!未だ定数を満たしていないだけに、暫く動けないと見込んでか。」

「そうだよ、ゾルダー君。それに第三軍と第四軍は旧ダルヴォート地域に駐屯中だ。帝都に居るのは君もご存知の通り、第一軍と皇帝親衛軍だけだ。」

「いや、それでも相当の戦力だが…君達の装備だと第二軍の二の舞となるだろうな。」

「今回はなるべく戦闘は避けたいんだがね。最小限の戦闘のみで済ませる方向だよ。」

「であっても、戦闘は避けられないだろう。帝都には第一艦隊も居るんだぞ。」

「戦艦のボイラーが温まるまでどの位かかるのか知らないゾルダー君ではあるまい?」

「まさか、それまでに戦艦を潰す気でいるのか?」

「そこまででは無いよ。最小限の戦力で無力化する。」

「…今回、私が何かする事は無さそうだな。」

「ああ、君は帝政転覆に備えていてくれ。今回は静観、というか疑われない程度に動いてくれ。交戦時にはこちらの弾に当たるなよ。」

「ああ、心得ておくさ。こちらも情報は回しておく。」

「そうだね、頼むよゾルダー君。」


こうして銃弾製造成功に浮かれる皇帝の裏では、皇帝誘拐計画が進んでいたのだった。

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