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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第三章 ガルディシア回天編】
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54.ゲルスフェルト武器試験演習場

帝都ザムセンから少々離れたここ帝国科学技術省の敷地内にあるゲルスフェルト武器試験演習場では開発部が解析し、実現した銃弾の幾つかの試験が行われていた。これは開発部が、押収された56式という銃から発射可能な銃弾を幾種類か作り上げた結果を試す試験である。要求された性能に達しているならば、即時生産を行う為の施設を、この開発者の仕様に従って作る体制は整えてある。要求された仕様とは、旧来の物のよりも正確に飛び、威力に優れ、装弾性に優れている事である。普通に発射される事は当然である為、考慮されてはいなかった。


このゲルスフェルト武器試験演習場には皇帝陛下も列席しており、当然失敗は許されない。しかし開発部は銃弾の構成も何も知らない所から、銃弾を作り上げたのだ。しかも銃自体は1丁しか渡されず、銃弾の実物さえ見た事も触った事も無い。純然と銃を渡され、この銃で発射可能な銃弾を作れ、という無茶振りだったにも拘らず、彼らはそれをやり遂げた。勿論、試作品による発射テスト自体、この試験が最初であろうにも拘らず、陛下が列席しているという事実が彼らの緊張を高めていた。


だが、試験は散々だった。

そもそも彼らは現代的な実包の構造を知らなかった。その為、銃の構造からそれを解析し、装填された弾が実弾の後ろを細い金属の針が押し込み、発射した後に排出ガスによって次の弾を装填するのだろう、という所までは掴んでいた。だが、彼らの理解では紙製薬莢が最先端であり、金属薬莢と雷管を実現出来なかったのである。その為、従来の知識で適用しようとした銃弾は悉くカラニシコフでは発射出来なかった。紙製薬莢の形状や強度を変えた物を何種類か用意してテストを行ったものの、そもそもの金属薬莢と雷管が再現出来なければ、連続発射も出来はしなかった。この当然の結果に皇帝陛下の落胆は激しかったが、同じく落胆していた開発員の"せめて実弾の実物でもあれば、まだ結果を出せますが…"という言葉に、皇帝は直ぐ様居城に戻り、空の薬莢数点を開発者達に手渡した。以前、中国人から渡された時に試し打ちした際の排出された金属薬莢である。これを入手した科学技術省の開発員は突貫で開発を行った。その結果、金属薬莢を完全模倣して同じ構造とし、尚且つ従来の銃で使用していた雷管を改造して取り付けた。そしてほぼ手作りの銃弾を数十発用意し、再試験へと漕ぎ付けた。


そして行った二度目の試験結果は微妙な物だった。

1発の発射には成功した。だが、発射された銃弾は目標を大きく逸脱し、且つ弾道の低伸性に欠けたものだった。それは弾頭部分の形状や発射薬の量等の問題であったが、いわば"しょんべん弾"という飛び方でとても実戦に耐えうる結果では無かった。しかも次弾装填される力も無く、中途半端に排出した薬莢が噛み込んで次の弾が撃てない状況となったのだ。この時の試験結果では、全て同じ状況となった為、途中で試験を停止せざるを得なかった。だが、1発でも発射に成功した事実が皇帝を喜ばせた。我が国の中でもこれを実際に撃てる状況まで持って行く事が可能なのだという希望が科学技術省への予算増大へと繋がった。

その二度目の発射実験が行われた翌日…


「レオポルド!聞いたか?我が国が製造した弾での発射実験の結果を!?」

「陛下、伺っております。初発は成功した、と。」

「うむ、そうだ。1発が成功するならば、何れ全ての発射に成功するだろう。その日は何れやってくるのだ。あの銃があれば、そのうち我が国でも製造する事が可能となるに違いなかろうて。」

「そうなれば、ニッポンの高圧的な態度も改められるかとも愚考致します。」

「であろう。ところで貴公の潜入捜査はどのような具合だ?」

「現在、ある市を拠点に潜入捜査を試みています。凡その製造工場がある場所の特定も済ませております。ただ製造現場を押さえておらず、工場そのものの特定には至っておりません。そして、銃弾関連の情報がまるで掴めません。」

「銃ばかりあっても弾が無ければ何も出来ないという事を狙ってか。」

「恐らくに。一度銃を押収された事により、銃弾を押さえる方向に方針が変更されたのではないかと。陛下が仰られました通り、銃弾が無ければ何も出来ません。その為、銃は見つかっても弾だけは絶対に見つからない様な対策を取り始めたと推測します。」

「我々が製造した銃弾による試射が成功した事は漏らすでないぞ。」

「当然であります。ですが実用レベルには程遠い段階だとも聞いております。我々も速やかに銃弾を押さえるべく粉骨砕身する所存です。」

「うむ…製造が早いか、摘発が早いか、何れにせよ楽しみな事だ。」


こうして皇帝の期待感が増す中、帝国製造の試験銃弾は芳しい結果を残す事は出来なかった。三度目に行われた試験では、炸薬量を増した試験弾での発射時に砲身内で銃弾が爆発し何丁かの銃を損失した。四度目に行われた試験では、色々と雷管の形状を変更した物が使われたが、やはり発射された弾丸は初速が著しく低く連射が出来ない問題を解決出来なかった。実の所これは弾頭の形状と雷管の火薬の問題であったが、帝国の開発部は依然としてこの問題を解決出来なかったのである。


そして製造工場の特定と潜入を試みていたヴァルター曹長を筆頭にオットー、エドアルド、ハンスの3名が、マルソーの工場地帯での秘密捜査を展開していた。マルソー港には工場地域を意味する13の区画があり、書類上の工場群は第12エリアの記号が表記されていた。その為、第12エリアに存在する工場をヴァルター達はしらみつぶしに調査していた。手順としては、秘密警察がその工場に立ち入り調査に入り、そこで押収した書面は全てベラック商会に送られた。ヴァルター達はそれを外から眺めて何等かの人の動きがあるか、その工場の稼働時間や物の出入り等を調べていたのだ。そして全ての工場に対する秘密警察の立ち入り調査と、ヴァルター達が見て回った情報を付き合わせて、そこから浮かび上がる特徴を浮き彫りにした。そして、そこから怪しい3つの工場を特定した。特定された工場の共通の特徴としては、最近急激に生産量が落ちた事、そしてその製造品を輸送するにあたり、輸送経路に不明な点がある事だった。だが潜入工作に関しては、工場の生産量が落ちた事が原因で人手余りの状況となっており、とても潜入可能な状況では無かった事から断念せざるを得なかった。


状況は帝国側にとって余り良い展開とはなっていなかったが、ここで急転直下の事態が発生したのだ。中国人が自爆したエウグレン東の山中で遺留品調査をしていた警察による情報で、実弾数十発が完全な状態で発見されたのである。これは中国人がレティシアの部隊を山中で迎え撃つにあたり、数カ所に反撃用の弾薬を集積していた後があり、山中の木のウロの中に弾薬が完全な状態で残っていたのである。これらは秘密警察を通して直ぐに皇帝陛下まで情報が届き、現物もすぐに開発部に届けられた。現物が届いた開発部は狂喜乱舞し、すぐに火薬と弾薬の形状や材質の解析を開始した。こうして、五度目の発射実験がゲルスフェルト武器試験演習場で行われたのである。


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