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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第三章 ガルディシア回天編】
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50.アルスフェルト伯爵への説得

「アルスフェルト伯爵、ご無沙汰しております。」

「これはグラーフェン中佐にゾルダー副局長。久方振りだね。特にゾルダー副局長は何時ぞやの嵐の海以来ではないかね?」

「その位ですかね。ご挨拶にお伺いせず申し訳ありません。」

「いいよいいよ、君も忙しかったのだろうし。ところで私の所でお揃いで来るとは、どういうご用件かな?」

「実は少々込み入った相談がありまして伯爵のご意見をお伺いしたいと。」

「込み入った相談ね。伺おう。」


ゾルダーは以前にグラーフェン中佐に行った説得をアルスフェルト伯爵に対して行った。アルスフェルト伯爵自体も日本の科学技術と戦闘能力を海戦時に触れていた事、更にはドラクスルの第二軍壊滅の状況も知っていた事から、その辺りの説明は問題無かった。だが、その後の展開で、意外にもアルスフェルト伯爵が思いの外に帝国に忠誠を誓っているのが判明し、政府転覆に関する話題を出す事が出来なかった。その為、ゾルダーは別の方向からアプローチを掛けた。


「では伯爵、もし仮にこのバラディア大陸の中で何等かの反帝国活動が行われ、尚且つニッポンの先進的な武器で武装した反帝国活動家達がガルディシアに攻撃を仕掛けた場合、どのような対応をとるべきだと思いますか?」

「仮にだが、ニッポンの装備を持った連中を相手に我々が抵抗しても、無意味に近い結果となるだろうね。それは第二軍の壊滅が証明している。当然の如く反帝国分子に対しては、我々帝国軍は徹底的な反抗を行うだろうしね。それにどんな武器にも得手不得手があり、環境によって対等に対抗し得る状況を作る事も可能だ。我々が行うべきはその環境構築では無いかな?」

「もし仮に相手がニッポンだった場合は如何ですか?」

「うーん、その場合は環境云々以前の問題だろう。相手にならないね、我々が。彼らが持ち得る力全てを我々に対して行使した場合、我々は何の抵抗も出来ずに気が付いたらあらゆる兵力が壊滅しているだろうね。」

「でしょうね。ですがニッポンはそれをしませんね。何故でしょうかね?」

「それは彼らの政治信条やら国民の気質がそうさせるんだろう。」

「確かに。そして彼らはあれだけの繁栄した国家を持っている。我々は彼らに成れないまでも、近い存在として彼らと友好関係を築く事は可能だと思いますか?」

「……以前、帝国議会の連中から聞いた事があるが、皇帝陛下がニッポンの使節団を監禁しようとした結果、彼らの態度が冷淡に変わったと聞いた事がある。ここザムセンとエウルレンの発展の差を考えると、それは実際に有った事なのだろう。我々の体制がこうである限りは無理だろうね。」

「そうなのですよ、伯爵。彼らは信義と条約や約束を重んじる。今、ザムセンでニッポンの投資が行われているのも当初の条約以前の話し合いによる合意が在ったからこそなのです。そこで彼らは監禁をしようとした事実を元にそれを白紙にせず、交わした約束を実行している。翻って我々帝国の条約や約束という物に対する態度は、紳士協定程度や守れたら守るが、自らの不利益となるならば破棄する事も躊躇しない、という物だ。」

「それは確かに頷けるね。かく言う私も他国との条約に重きを置いた記憶は無い。」

「私は暫くニッポンに滞在し、彼の国を見て思いました。我々帝国は蛮族が住まう国であると。決して科学技術のみを誇るのではなく、文化的に他の世界と接し、他国を尊重し、そして一度交わした約束を守る国。文明国とはかくあるべきで、文明国と称する何かが我々を指す言葉では無いのは明らかです。それは蛮国と言えるのでしょう。」

「それは我々が頂く帝国の皇帝陛下への非難かい?」


ゾルダーは賭けに出た。


「その意はありませんが、そう捉えて頂いても構いません。正直に申し上げましょう。ニッポンはガルディシア帝国との国交は距離を置こうとしています。何故ならば蛮国である自覚が無いだけに留まらず、常に自らの要望欲求を他国にぶつけ、入手した技術を元に出し抜こうとしているからです。それは今の所は武器の類に対して顕著に見られますが、何れ将来的には他の分野にも拡大してゆくでしょう。何故ならば、帝国がそういう国だからです。ニッポンはこれを膨張主義或いは広域支配主義、植民地主義等と呼び忌み嫌っております。簡単に帝国主義とも言います。」

「……だが、彼らがそう言ったとしても我々に出来る事は無い。」

「彼らは航空技術を持ち、広域に艦船を出し、そして強力な武装を持っています。だが、他国と協調的関係を築こうとしている。今の段階ではバラディア大陸の我々と、ヴォートラン及びエステリアだけの問題です。ですが、近い将来において彼らの国々は航空機や艦船で人と物の交流が発展し、あらゆる技術が流通し始める頃、我々は……ニッポンに疎外された我々の行く末はどうなるのでしょうか?」

「世界から我々は取り残されるだろうね……ふーむ、君の言わんとした事は分かった。だが、私も帝国から爵位を頂いている身だ。おいそれと帝国に弓引く事は出来んよ。だが、それをして臣民が苦労するのも何か間違っているのだろう。ゾルダー君、君はどうしたいのかね?」

「何も簒奪するだの皇帝陛下を暗殺するだのという物騒な話は考えておりません。ただ、この帝国の体制のままだと何れ行き詰まる事が明白なのではないか、と思うのです。」

「帝国の体制か。だが、我々はそれ以外は王制しか知らないよ。我々にとって一番文明的に進んだ方式こそが帝政だと今の今迄思っていたからね。つまり、国家の体制をどうするのが一番良い方法なのか、って事を私は真剣に今迄考えた事も無い。それが故に、何も思い浮かばんよ。」

「私も、ニッポンのように選挙による政治的代表の選出方法が良いとも思えません。これには国民の教育も必要ですし、そもそもエウグスト地域やダルヴォート地域では我々の候補は選出されないでしょう。ですが帝政という体制自体が将来的に我々の足枷となるのであれば、一度王制に戻った後に、より良い体制へとゆっくりと変更してゆけば良いのです。」

「より良い体制ね。それは何になるのだろうね。」


アルスフェルト伯爵から受ける印象は、今一つ分からない。賛成なのか反対なのか。それが判明しない内は反乱関係の話題に入れない。あまりに突っ込んだ話をした挙句に、逆に我々が捕縛される様な状況となってしまえば、芋づる式に自分がル・シュテルから解放戦線まで繋がっている事が分かってしまう。今日の所は、この辺りで引いた方が良いとグラーフェン中佐は判断し、会話に割って入った。


「伯爵、今日は長い間お時間を頂きありがとうございました。大変参考になりました、何れまたお伺いする事もあると思いますので、その時はまたお相手して頂きたく思います。今日の所はそろそろ失礼して…」

「あれ?話は終わりかい?具体的に反ガルディシア組織との連携の話はしないのかい?

「えっ!」


ゾルダーは一瞬、息が止まったかのように感じた。

誤字脱字報告ありがとうございます!

気を付けても結構ありますね、申し訳ありません……


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― 新着の感想 ―
[一言] 帝政も王政も専制君主制で実態に変わりはないのだが… 違いをどう認識してるのかな? それとも王政はローマ式だった? そして、どちらも腹の探り合い、本音を出して大丈夫なのかね…
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