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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第三章 ガルディシア回天編】
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43.李の行方

「ああ、それウチが運んだよ。こっちも頼まれたクチでね。普通のプレス機械だったんだけれど、何か問題あったのかい?」

「頼まれた?というとどこから頼まれたのかは分かるか?」

「どこだって?廃品回収業者のルーテール商会だよ。あの工場の機械が債権だとか取り押さえとか言ってたから、大方機械の代金払えなかったんじゃないかい?」

「なるほど、ルーテール商会だな。それもエウルレン市内の業者なのか?」

「あんた達調べるのが仕事だろ?楽してんなぁ。マルソーの業者だよ。高速道路沿いに大きな看板出してっからすぐ分かる。重機が沢山並んでいる所だよ。」

「ふむ高速道路沿いだな…いや、協力ありがとう。」

「じゃ俺はもう帰っていいのかい?」

「ああ、一応エウルレンから暫く出るなよ。また聞く事があるかもしれん。」

「あいよ、大変だね警察官も。」


レオポルドが動員した警察軍の聞き込みによって、中国人の工場から機械を搬出した業者は特定出来た。そしてそのトラックに依頼した業者もどうやら特定出来そうだった。しかし、この話の流れは恐らく入手した機械の支払いが、工場が停止した事により儘ならない状況に陥り、結局夜逃げした事を物語っている。結果として支払い期限を過ぎた所で機械の差し押さえに業者が動いたのだろう。その商会を確認した所で、どこかに回っている消えた銃器の行方は分からない。機械の追跡は警察軍に任せるとして、銃の行方がどこなのかどうやって探ったら良いものか…

行き詰ったレオポルドはこの時点で一旦皇帝に報告した。


「陛下、例の件ですが報告に上がりました。」

「うむ、どうだ。中国人は捕まったか?銃は回収出来たのか?」

「申し訳ありません、未だ中国人の痕跡が全く無い状態です。そして銃ですが製造工場の特定は出来ました。ですが完成品は残っておらず、工場自体も一部の機械が差し押さえられた事から、再稼働までには非常に時間がかかるものと思われます。」

「ふむ、製造工場を押さえたか。それではその工場を早急に再現せよ。差し押さえられた機械とやらの回収は済んでおろうな?」

「そちらは警察軍が現在追跡中です。また工場内に残った機械の役割や工程を、只今帝都の技術者を派遣して解析を行っております。」

「ところで、中国人の追跡はどこがやっているか?まさかレティシアは動かしてはおらぬだろうな?」

「リュトヴィッツ中尉以下20名がエウグスト市のアジト急襲作戦終了後、引き続き中国人の捜索を行っております。」

「そうか、それなら良い。レティシアは暫く謹慎させよ。暫くは外に出すなよ。」


ここでリュトヴィッツ中尉の隊に、レティシアが同行していたらこの後の展開は変わったのかもしれない。だがグリュンスゾートの虐殺の件からレティシアの評判はがた落ちで各方面に大変に風当たりが強い状況の中で、外に出す判断は皇帝にも出来なかった。そしてリュトヴィッツ中尉の隊は中国人との接触に成功していた。正確にいうと、怪しい風体の男が居るという噂から網を張っていた所、その中国人が引っ掛かり、追跡を行っていたのである。


「なんともしつこいね。すぐ撒けるかと思ったら、思ったより人数居るね。でも、エウルレンで追っかけてきた連中とは別口ね、こいつら。厄介な事に専門職ね、どうするか。」


暗剣1号こと李の懐には120発程度の弾がある。

だが、この先何があるか分からない事に慎重に動く必要がある。だが、今彼を追跡しているのは確実に李を捕縛しようと包囲の範囲を狭めて来ている。そしてそれなりに追跡の技量がある。個別に対抗するなら簡単だが、撃ち合いともなるとラッキーショットが無いとも限らない。可能な限り、そういう方向にならないように動いてはいたが、どうやらそれも限界である。李は決意した。


「仕方ないね。接近戦仕掛けたらこっちが死ぬね。ならば状況を整えるべきね。」


李はエウグスト郊外まで出るとエウグスト市とヴォルンの間の街道から外れ、東の山に向かった。東の山に行くような者は木こりか猟師位しか居ない。そして山に入ると様々な仕掛けを途中に施した。


「中尉、奴は山の方に行きました。現在ディートリヒ伍長のチームが追跡中。」

「よし、俺達も行くぞ。チームを三つに分ける。ディートリヒと合流次第、三方向から山狩りだ。」


ディートリヒと合流したリュトヴィッツ中尉は、アントン、ベルタ、ツェーザルの三つに部隊を分け、中央をアントン、左翼をベルタ、右翼をツェーザルとした。アントンチームにはリュトヴィッツ中尉以下7名、ベルタチームにはエーリヒ少尉以下6名、ツェーザルチームにはアイスラー准尉以下7名を配置し、山狩り開始の時間を決め、それぞれ指定の位置に移動を始めた。そして山の中腹辺りに潜伏した李は、追跡してきたリュトヴィッツ中尉の部隊全貌を双眼鏡で確認していた。


「あらら、思ったより人数居たね。こいつらをここで撒いておかないと、以後大変ね。でも、私こんな環境で戦うの大変得意ね。近くに山あったの私にとって幸運ね。あなた達には不運だけど。」


そう、李にとっては追跡してきた者は遠慮なく殺す事が出来る。

だが追跡チームは"生きたまま捕らえよ"という命令なのだ。ここが生死を問わない命令であれば、リュトヴィッツ中尉の命運も変わったのかもしれない。だが、生きたまま捕らえよという足枷によってレティシアの欠けた特殊作戦団は、これから地獄を体験するのだ。そして、その地獄は右翼に居たアイスラー准尉率いるツェーザルチームが皮切りだった。


山の中を所定の位置まで移動し、時間が来た為にアイスラー准尉は前進を開始した。

アイスラー准尉の部隊には、フランク曹長、ベロウ伍長、マインドル上等兵、シェルナー二等兵、ハッセル二等兵、フォルベック二等兵の総員7名だ。彼らは散会しつつ前進していると、まずシェルナーが罠に引っ掛かった。非常に浅く掘った穴に削って尖った木が上を向いていた。その上に枯草が被せられていて、そこを踏みぬいたのだ。シェルナーの叫び声に左右に居たマインドルとハッセルが駆け寄った所で、二人は音も無く銃撃を受け即死した。シェルナーは自分の回りで二人が死ぬのを目撃し、そして叫んだ。


「准尉!罠です、敵は傍に居ます!!マインドルとハッセルが撃たれましたっ!」


傍に居るだと!?そんな気配は感じなかったぞ?

アイスラー准尉は仮にもレティシア特殊作戦団に所属する将校だ。それなりに戦闘能力は高い。即座に"撃たれた"の言葉に反応して地面に伏せていた。だが、どこから撃たれたのか分からない。銃声も聞こえて来なかったのに、どうやって撃たれたのだ?


「シェルナー、どこから撃たれた?状況を教えろ!!」

「罠が仕掛けられていてます。自分は足を負傷して歩けません。マインドルとハッセルは、俺の悲鳴を聞いて近寄ってきた所を撃たれました。恐らくですが10時の方向から撃たれた模様。」

「罠だと?…各員!周辺に罠があるぞ!それと10時の方向から銃撃。気を付けろ!反撃を許可する、各員装填!」


これで、右のあいつらは暫くの間、身動きが取れなくなるね。暫く放置して次は中央にちょっかいかけるよ。夜になるまでには未だ時間があるので、足止めするだけで十分ね。夜になったら全員殺すよ。こいつら全員殺せば、今度こそ海沿いに移動して他の国に移るね。もうガルディシアは沢山よ。


李は、リュトヴィッツ中尉指揮下のアントンチームに向かった。

誤字脱字報告本当に有難う御座いました、助かります!!

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