41.発砲事件の影響
「陛下……今迄通りのやり方ではこの問題は解決致しません。この問題の本質は、逃げ回っている犯人が上げられない事ではありません。エウグスト人と思われる犯人が武器に使用した銃、これは明らかに連射可能な能力を持つ事が判明しております。そしてその銃はどこから来たのか?我らが大陸では目撃情報に該当する銃がありません。その銃の形状はニッポンの銃の様に見えます。そして犯人は何故捕まらないのか?それは二つの可能性があります。この銃は一体どこから来たのか?銃の出所がニッポンであるならば、日本の関与が疑われ、そうでないのならばやはり反ガルディシア武装組織が存在する可能性が浮上いたします。この反ガルディシア組織が帝国内で浸透しているのであれば、我々情報局の能力では手に余ります。」
「それは分かっておる、レオポルド。ではそうすれば良いというのだ?ニッポンに対して文句を言うか?それとも情報局の増員か?」
「陛下、私に考えが御座います。既存の組織では探せぬ事も、可能とする組織を作ります。」
「それは一体どんな組織だ?申せ。」
こうして遂にレオポルドの秘密警察は承認された。
秘密警察は情報局の下に設置され、情報局管理の元に秘密警察を拡大していった。秘密警察は通常の警察軍の上位に属し、捜査情報や証人に関しても警察よりも優先的に取り調べる事を可能とした。更に、情報局局員の指導により潜入や囮捜査的手法も取り入れた。情報局はブルーロ隊を解体し、ブルーロ大尉以下12名は全員1階級上がって新設した秘密警察の指導員として配置した。そしてレティシアの部隊は情報局専門の暗殺チームとして残した。この移行に関わる組織改編は数か月かかったのだが、結局は組織改編は終了する事は無かったのである。
ともあれレオポルドは希望通りの権力を手に入れた結果として、精力的に銃の調査と逃げたエウグスト人の追跡を開始したのだった。
そして軍人を撃った解放戦線の末端エウグスト人ジャンは、エウグスト市のアジトにまだ居たのだった。市内の状況が脱出するには余りにも厳しくなってしまい身動きが取れなくなっていたのだ。そして、ガルディシア警察軍にとって幸いな事に、レティシアの調査がエウルレンで始まった段階で、全ての銃・弾薬の類は回収されエウルレンの倉庫にあった。解禁された段階で順次戻していたが、ちょうど弾薬の類は別便で、銃と1カートジッジ分の弾だけが先に届いた。ガルディシアの軍人を撃った銃は、この先行で届いた銃だったのだ。つまり撃ち尽くしてしまえば、もう弾は無い。撃って出るにも何をするにも弾が無ければただの重りとなる。そして銃撃事件が大々的に報じられた事から、エウルレンからの銃・弾薬輸送は止まった。つまりエウグストの解放戦線は包囲を強行突破する能力も失っていた。
当初稚拙だった警察軍の動きは、途中から現れた秘密警察によって指揮権が奪われた事によって今迄のザルの様な捜査方法から、緻密な捜査に変わり解放組織の周辺情報を固めていった。そしてアジトの特定に至った事によって、遂にジャンは補足された。正確に言うと、秘密警察側は複数の銃が存在する事を前提に殲滅班を使ったのである。但しレティシア大尉をエウグストに送るのは抵抗が高かった為、リュトヴィッツ中尉以下20名による殲滅部隊の投入を行った結果、ジャンとその他の連中が立て籠もるエウグストの解放戦線のアジト一つが壊滅したのだ。解放戦線にとっては痛手であったが、幸いな事に解放戦線を疑わせる証拠は全て処分済みで、ジャンが持っていた銃のみが証拠の押収品だったのである。
直ぐに押収した銃は帝都ザムセンに送られ、皇帝とレオポルドが直接この銃を見た。そして判明した事は、以前中国人が皇帝に献上し、これと同じ物が製造が可能だ、と豪語していた銃と全く同一の物だったのである。
「レオポルド…こ、これは余は見た事があるぞ!これはあの中国人が持ってきた物と全く同じではないか?!!」
「……確かに。しかし中国人はエウグスト市内で火事によって全員死んだ筈では…!!そうか!一人死体の数が合わないと聞いていたが…これかっ!!製造に成功したのか!」
「まさか!彼奴は銃の製造に成功したというのか!?」
「恐らくは…一人生き残った中国人が居た筈です。もしや秘密が漏れるのを恐れて、火事を装って仲間全員を殺して逃げたのかもしれません。そして製造した銃をどこかで販売しているのかも…。」
「レオポルド。これが出回るとどうなる?」
「あまり考えたくはありませんが、我々の銃と比較して圧倒的な火力と連射能力があります。当然、銃だけではなく例の自動小銃も既に作られているものと考えた方が無難でしょう。この銃がある場合、そしてエウグストの連中が入手した場合、エウルレン市攻略戦の二の舞がどこかで起きうる可能性があります。」
「彼奴め、何故我々に売らなかったのだ。」
「それは…」
レオポルドは、皇帝陛下から帝都を叩き出されたが故、叩き出した本人には売り難いのは当然だろうが、と思ってはいたが流石にそれは言えなかった。だが、実際に銃が出てきたからには、レオポルドが思っていたよりも更に危険度は高い。どれだけ製造して、どれだけの人数に、そしてどんな連中に渡っているのかが判明しない限り、判断も出来ない。犯罪組織的な連中に渡っているなら、軍を動かしてしまえば良いが、もし仮に反政府組織的な連中に渡った場合を考えると…
「なんだ。何を考えておる、レオポルド。」
「はっ…恐らくはこれを売るにあたり最も高く売れる場所に売るのが一番だったのでしょう。それが我々では無かったのではないかと。何れにせよ、これは大変に危険な状況です。」
「分かっておる。ともあれ秘密警察は良くやった。これで例の件は帳消しとまではいかんがな。それと、製造元が中国人であるならば、製造可能な場所は限られている筈だ。早急に中国人を確保せよ。生きたままでな。」
「御意。何れそれらは必ずや我らの資産となりますでしょう。」
皇帝は当初それらの銃の出所が日本の物であると考えていた。
この銃を突き付け、何等かの外交的ペナルティを日本に課そうとしていたのだ。これまで付き合った結果、あの国は馬鹿正直に自らルールを守り、相手にもそれを押し付ける国だ。その国自らがルールを破った場合、こちらが何も言わなくてもきっと何等かの譲歩なり何なりを言ってくるに違いない。納得のいかんモノであるならば、この当該案件を盾に…と思っていたのだった。だが、銃の実物の確認をする為に動きを止めていたのが幸いした。まさか、あの中国人が銃を作り上げていたとは…
こうして解放戦線は、帝国の勘違いにより少しの間だが表面化は避けられた。
だが、中国人の捜索と相まって銃器製造工場の捜索も同時に開始され、その煽りを食ってエウルレンの銃器工場は製造停止に追い込まれたのだった。




