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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第三章 ガルディシア回天編】
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39.ティアーナの技術者ダブール

昨晩に仕込んだ情報を元にレパードは造船所が集まっている地域に向かった。海岸に程近いティアーナの造船所群で稼働している所は数少ない。辺りは未完成の陸上戦艦がそのままに周辺に放置されている。それらはボイラーが入っておらず、武装は全て撤去されていた。


「へぇ、こいつが噂の陸上戦艦かい。こんなもんニッポンのホバークラフトと比較したら何の役にも立たない様に見えるがねぇ…」


レパードは陸上戦艦の残骸周辺を見て回りながら誰とは無しに呟いた。この陸上戦艦と称する船は、結局エステリア王国への上陸戦専用兵器として製造された為、その必要性が無くなった今は単なる軍の負担としかならず、陸上戦艦の乗員も全て他の艦に転属し、結局は警察軍への転職を選んでいった。残った船は使える部品を撤去し、それ以外の部分はこうして造船所周辺に放置されて、周辺の住んでいる住人の薪となっていた。歩みを進めていたレパードの前に、今も稼働中である事を伺わせる造船所があった。中を覗いてみると人影は無いが、今も使われている形跡がある。ここか?とレパードは奥に声を掛けてみた。


「おーい、誰か居るかい?」

「うーん……なんだ、誰だおまえ?」


瞬間、意外な事にレパードの足元から声がした。


「うぉ、びっくりした!なんでアンタ床に寝てんだよ!?」

「徹夜仕事だったからな。はー…お前タバコあるか?昨晩切らしちまってな。」

「あ?ああ。ちょっと待ってくれ。ほらよ。」

「お、すまねえな。…見ない銘柄だな?輸入品か?」


床で寝ていた男はタバコを2本取り出すと、1本を咥え1本をレパードに帰して箱ごと懐に入れた。レパードは日本のタバコを気に入っており、当初はレイヤーチームから定期的に送って貰っていたが、最近はエウルレンでも入手が可能になり、以前のように箱買いする事も無い。だが、このティアーナに来るにあたり、多少の買い置きを持って来ていた。


「おいおいオッサンお約束通りだな。」

「お前は何時でも買えるんだろ?細かい事ぁ良いじゃねえか。有りがたく貰っとくぜ。ところでお前ナニモンだ?」

「ここでようやくそれが出るとか大概だな。俺はレパードってモンだ、宜しくな。で、ちょいとこの造船所で働いている技術者に用があってエウルレンから来たんだが。」

「あー、なんだ?なんの用だ?」

「ここに何人居る?」

「15人程かね。なんだアンタ官憲か何かかね?なんでそんな事を知りたがる?」

「いやね、官憲とかとは全然関係無いんだがね。あんたエウグスト人だろ?

「そうだ、というかここにはエウグスト人しか居ねえぞ?」

「あんた、解放戦線って知ってるか?」

「あー、オーリト村から来た連中から昔に話をちょいと聞いた事があるな。流行ってんのか?」

「なんだよ興味無かったのか。まぁいいや。ええとな、じゃあんた最新技術に興味あるかい?」

「最新技術だと?それはお前、噂のニッポン絡みの話か?」

「まぁ、そんな所だな。で、俺達はその技術者を必要としているんだが、ここら辺りにゃほら、陸上戦艦作ってた技術者が沢山居ただろ?」

「ガルディシアの連中はここの存在を相当厳しく秘匿しとったらしいが、よく調べたもんだな。まぁ沢山居たのは確かだが、今はもうここの15人しか居らんぞ。」

「そうなのか。他はもうどっか行っちまったって事か…」

「ああ、そうだな。残った儂達は、このティアーナの漁師達の手伝いをしとってな。漁船作ったり修理したりしとる訳よ。」

「なるほどなぁ…で、その15人の中に設計とか金型作る奴とかは居るかい?」

「ここに居るモンは一通り全員出来るぞ。じゃないと、あんなモン出来る訳がないわ。」


この造船所で寝ていた男ダブールは、外に転がっている陸上戦艦を指さした。レパードはちらっと外を見たが、全員が金型も設計も出来るとなると、誰を引っ張っても良い事になる。取り合えず、ここの造船所を仕切っている奴と話しをしなきゃならん、と思いつつダブールに話を続けた。


「所で、この造船所には責任者みたいなモンは居るのかい?」

「責任者なんぞ誰も居らんよ。誰とも無く残った連中がここに集まっただけだわ。」

「そうか。先ほどの話の続きなんだが、俺はここの技術者を何人かエウルレンに連れて行きたい。誰かここからエウルレンに行ける人を紹介して貰えんだろうか?」

「ふーむ…そんなら儂を連れていけ。役に立つぞ。」

「おっ、そうか。じゃ…そういえば名前聞いてなかったよな?」

「ダブールと呼んでくれ。親しい奴からはダブと呼ばれておる。」

「了解ダブ。あんたの仲間を紹介してくれねえかな?」

「いいとも。だが、ここティアーナの連中が困る事はしたくない。儂らが抜けても大丈夫ように、何かの対処もお願いしたんだが。」

「そうだな。何が必要なのかを教えてくれりゃ、なんとかするぜ。何しろ後ろ盾は結構太いからな。」

「そんなもんに興味はありゃせんわい。ここの人達の生活がどうなるかだけよ。だがなんとかしてくれるなら助かる。」

「まぁ悪いようにはしないって。皆の所に案内してくれ。」


そしてレパードは造船所に通う技術者が止まっている宿舎に案内された。

技術者達はダブールからの説明を聞き、興味を持った者とそれ以外に分かれた。レパードへの伯爵からの指示は可能な限り陸上戦艦の技術者をティアーナから引っ張って来い、という命令だったので、興味を持つ者だけを対象に説得をした結果、11名の技術者がエウルレンに来る事となった。だが、彼らも、そのエウルレンで作る物が興味を惹かれない物や詰らない技術の物なら、直ぐに帰るが良いか?と続けた。そして彼らが抜けた後の穴に関して何が必要かを確認した結果、このティアーナで作られた漁船は木製の為に頻繁に木が海水に浸かって修理が必要となる為、それらを補修する道具や職人が必要となる事だった。レパードはその話を聞いて即座に携帯していた無線機で伯爵に相談した所、折り返し無線が入り、この問題に対する解決策が提示された。そして無線機を使用する様を見ていたティアーナの技術者達は、今迄の話がハッタリでは無い事を確信していた。


「ダブ。喜べ。ニッポンが船を供与してくれるってよ。しかも木製じゃない奴だ。グラスファイバー製の漁船だとよ。あと燃料はそうだな。それの手配も必要だな。もう一回連絡するか。」

「おいレパード、待て。グラスファイバーってなんだ?燃料って石炭じゃないのか?」

「ニッポンの新素材よ。3年程度なら船底に付いた貝を削る程度で何も問題無いぞ。あと石炭ではなくてガソリンかな。ヴォートランから産出する重油ってモンを精製したら出来る燃料だ。馬力違う上に立ち上がりが滅法早いぞ。」

「なんだそれは?」

「そういうモンがあるんだよ。まぁエウルレンまで来たら分かるよ。恐らく近いうちに海路で運ばれて来るだろう。ちなみに漁船は何隻必要なんだ?」

「あ?ああ…10隻かな。儂らが面倒見ているのはな。」

「了解、じゃ10隻手配すりゃ良いな。昔通りの船でも少なきゃ4人でも面倒見れるよな?後は…もし、ニッポンの船になんか問題あったら連絡出来る方法の確立だけかな。まぁニッポン製なら壊れる事も無いんだろうけどさ。」

「なんじゃレパード、お主ニッポンの製品に絶大な信頼を置いておるの。」

「ああ、そりゃ一度でも本物を触れば俺の言っている事が分かるさ。」


こうしてティアーナの技術者達11人はエウルレンに向かった。

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