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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第三章 ガルディシア回天編】
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36.クレメンス准将の謹慎解除

今回のレティシアの視察によるグリュンスゾート大隊への被害は死者146人だった。全大隊定数544人の26%にも及んだのだ。その後の警察軍の調査では、レティシアが大隊に対する調査活動を行った際に、ロートベルト少佐の非協力的態度と調査への妨害行為が複数証言で確認出来た事からレティシア大尉はお咎め無しとなった。逆にグリュンスゾート大隊は調査の妨害行為により、全員が最低2週間の営倉入りとなったのだ。そして死んだ者達は、公式には訓練中の事故という扱いとなった。


そしてそれは高田が想定した通りの結果を生んだ。

グリュンスゾート大隊の全てがエウルレンや日本に憧憬を持っていた訳では無かった。が、帝国と或る意味象徴とも言えるレティシアの行動は、今迄の帝国として全く異なる行動では無い。対外的な意味では。しかしそれが自国民に対した時も同様に情け容赦がない物と大隊では認識された。しかも片方はお咎めなし、片方は営倉送りなのだ。大隊の内部が不満でぐつぐつに煮えたぎった状況の中で、クレメンス准将の謹慎が解けた。彼は大隊に直ぐに駆け付け、死んだ兵の残された遺族に対する国からの遺族年金の手配や様々な救援行った上で日本にも協力を求めた。そして生きている兵達に自らの思いを語った。


「皆すまん。俺の力が足りぬばかりに……死んでいった兵に顔向けが出来ん。だが、これでガルディシア帝国という国家が何を求めているか、何を大切にしているかは理解出来たと思う。俺も遅まきながら理解した。我々は単なる生きた駒だ。そして国家にとっては強い駒が重要であり、それ以外は道端の石ころと変わりはない。死んだ者達は使えなくなった弱い駒扱いだ。生き残った所で、明確に強い駒がそこにあるのなら、幾らその駒が悪逆非道であってもこの国家にとって大切なのだ。

我々は今迄強い駒扱いだった。それ故に見えてなかった、或いは知っていても自らと違う、と一線を引いていた。だが、所詮はあの女の前では弱い駒に過ぎなかった。それが故に斯様な扱いとなった訳だ。こんな国のこんなシステムに従い続ける事に俺は馬鹿らしくなった。」

「准将…もしかして軍を辞めるのですか?辞めるのなら自分も辞めますよ。」

「軍か…俺は未だ軍は辞めん。だが考えがある。お前等聞いてくれるか?」


一通りの説明をしたクレメンスは皆の反応を待った。

グリュンスゾート大隊の皆は突然の話に決断しかねた状態で迷い、そして自分の周りの反応を見ていた。だが、一人意を決したように一歩前に進み出た。


「クレメンス准将、自分は志願します。参加させて下さい。」

「ありがとうイェネッケ中尉。恐らく道は険しい。だが共に進もう。」


イェネッケ中尉が参加した後に、結局全員が雪崩を打って参加と相成った。そして部隊の今後に関する打ち合わせのため、ル・シュテル伯爵に連絡した。


・・・


「タカダさん、言ってた通りになりましたよ。クレメンス准将以下グリュンスゾート大隊総勢399名が参加、との事です。」

「お、それは重畳ですね。予想通りな事は大変結構なんですが、思ったより少ないですよね。死者146名ですか。強いですね、レティシア部隊。」

「どうやら彼女が武装した段階で、素手で立ち向かったグリュンスゾートの兵が多かった事から被害が拡大したようですね。」

「それにしても素手の人間に切りかかるのはメンタル面でも強いですね。厄介だなぁ…」

「それはともかくタカダさん。ガルディシア側の駒も揃ってきたのではないですか?」

「そうですねぇ…まだまだ足りないですね。少なくとも、今の5倍の規模は欲しいですね。」

「5倍…というとやはり3000人は必要という事ですかね?」

「ですね。曲がりなりにも帝都には第一軍が健在ですので、例えば皇帝の居城を占拠したとしても、直ぐに帝都防衛の第一軍が来ます。この軍をある程度牽制可能な戦力が必要かと思います。それと厄介なのが、帝都駐留の第一艦隊と、東方都市ヴァントの第三艦隊。艦隊は再編で4つに減らされたとしても、この艦隊は数も規模もそのままですからね。」

「ニッポンは人的以外で協力可能な物は他にないのでしょうか?」

「流石に軽火器ばかりだと対抗出来ませんよね。うーん…どうしたものか。あ、そうだ。エウルレンかマルソー在州で銃職人は居ませんよね?」

「ああ、居ないと思いますよ、タカダさん。だが東海岸の港ティアーナには居ると思いますよ。あの港でそういった職人が以前に集められていた筈です。」

「その方々を何人かスカウト出来ませんかね?」

「確か、デール海峡を渡る陸上戦艦とやらを作るにあたり搔き集められたけれど、結局作戦は中止になったので、今は監視も相当緩い筈ですよ。もしかしたら何人か連れてこれるかもしれません。それこそ、エンメルス曹長の部隊を動かしてみては?」

「そうですね…予めどんな人か分かっていればそれも可能なんですけれどね。ティアーナ港ですね?ちょっとこちらでも調べてみますね。」

「分かりました、こちらで何か用意する物はありますか?」

「そうですね…以前使っていた銃の工場、あれの二倍の規模の場所を用意出来ますか?」

「それは問題なく直ぐに用意出来ますよ。何作るんですか?」

「そうですね。擲弾筒とパンツァーシュレック辺り作れるかな、と。」

「なるほど!歩兵戦力の火力増強ですね?しかも現地生産型として!」


高田はル・シュテルと話していると、とても話が通じやすくて良いなぁと思う。以前には変な映画を見せ過ぎたかもしれないと思っていた。だが、概念が無い筈のガルディシアで説明無しに擲弾筒やらパンツァーシュレックがそのまま通じるのだ。伯爵の見る映画によって、彼は言葉と性能をある程度理解しており、どのような時にどんな武器を使うべきかを相当正確に把握していたのである。


「伯爵は話が早くてとても素晴らしいです。何か面白い映画があったらまた持ってきますね。」

「いやタカダさん。これが落ち着いたら私は一度ニッポンに行ってみたいのだ。このような物が溢れるニッポンに。どうにかならないかな?」

「ええとですね、恐らく帝国制の変更とエウグスト領独立の暁には可能です。それは私が約束します。むしろ私が伯爵を日本に招待したい所なんですけどね。」

「そうなのか。期待しているよ、タカダさん。あと水兵の件なんだが。以前話していたトゥーラン港で留め置かれていた者達は全員マルソーへの移行が可能だ。ゾルダーが手配してくれた。こちらも宿泊場所は確保しているが、一旦ニッポンに移動するんですよね?」

「ええ、幹部候補は航空機にて。他は輸送船で送ろうと思っています。」

「私は彼らが羨ましいよ。代わりたい位だ。」

「何れ機会は必ず作りますよ、伯爵。」


こうしてマルソーでは新しい武器工場が作られる事になり、その職人としてティアーナ港から何人かをレイヤー部隊が連れて来る事なった。また、譲渡する海上保安庁の巡視船は現在日本で改装工事が行われているが、これが終わり次第、元第五艦隊の乗組員達は日本で譲渡する巡視船によって訓練が行われる事となった。


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