表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第三章 ガルディシア回天編】
200/327

35.クレメンス准将の怒り

「これが噂に聞くグリュンスゾートなの?大した事無いわ。」

「ちくしょう、この魔女め!死にやがれ!」

「あなたこそ、死ねば?」


既にレティシアを囲んだ大多数は死んだ。

まるで疲れる様子も無く、右に左に動き回りすっと左右に剣を振るう度に誰かが死んだ。どうしてこいつはこんなに動き回れるんだ?どうしてこいつはこんなに早いんだ?その疑問に対する回答は自らの死だ。気が付いた瞬間には構えた剣の隙間から自分の身体にさっくり剣が刺さっているのに気が付いて、そこから暗転だ。次第に、囲んでいた兵も余りの被害に戦意を喪失しつつあった。

そして誰かが剣を目の前に捨てた。その様子を見て次々とグリュンスゾートの生き残りは剣を捨てた。


「分かった。降伏する。もう沢山だ。」

「このバケモノめ…少佐を…」

「ペーターもオスカーも死んじまった…」


最初に降伏した兵の元にレティシアはつかつかと歩み寄る。

それを見ていたコルテンは慌ててレティシアの元に駆け寄った。


「大尉!駄目です!止めて下さい!!」

「え、どうして?私言ったよね?もう遅いって?」

「それでも駄目です、大尉!!剣を仕舞って下さい!!」

「まだ全然足りないわ。貴方達もそうじゃないの?」

「もう降伏してます。武器を置いてます!」

「そういう問題じゃないんだけどな。敵でしょ?」

「ともかく大尉、一旦引いて下さい。敵じゃありません!」


コルテンはこの後に訪れるであろう弁明と山の様な書類提出を思って、レティシアを止めた。何しろ降伏している敵を切るのは面倒事が多い。しかも今回は味方なのだ。このまま調子に乗って殲滅などしようモノなら如何なる面倒事が降り掛かるか分かった物ではない。そしてそれはせっかく自分達を拾ってくれたレオポルドの顔に泥を塗りかねない。ましてや第二軍が壊滅している今、このエウグストの地で同士討ちをして兵を減らすなど言語道断だ。何の嫌疑も無い規律が乱れている程度で大隊を壊滅させたとなると誰かが責任を取らなくてはならない可能性が高い。その事を思って、コルテンは必至に止めたのだ。


その甲斐あってかレティシアは武器を収めた。

コルテン達も一応剣を収めたタイミングで通報を受けた警察軍がやってきた。警察軍の連中はグリュンスゾート大隊本部の練兵場に広がる凄惨な風景を見て言葉を失った。たった6人がグリュンスゾート大隊500名余りを相手に、怪我一つ無く140名余りを殺傷していたのだ。警察軍の代表がレティシアの近くまで行って尋ねた。


「こ、これは一体どういう事ですか?あなた方の責任者は誰ですか?」

「私の事かしら?私は、帝都ザムセン情報局レティシア特殊作戦団所属のレティシア大尉です。このグリュンスゾート大隊は軍規の乱れと市中で噂が立ち、その調査に訪れました。当該大隊の責任者ロートベルト少佐への確認作業中にロートベルト少佐が激高し、身の危険を感じた為、攻撃をしました。するとこの隊の連中が私に剣を向けた為、反撃しましたが。」

「そ、そうなのですか?いや、しかし…それにしても…あ!レティシア大尉というと…!?」

「その先は言わなくても良いわ。」

「ああっ、レヴェンデールの狂女だ!」

「ちっ。私は皇帝直属の部隊に所属しており、私の行動は陛下の全権委任を受けております。何か問題がありましたら、帝都情報局のレオポルド局長に確認を行って下さい。それと、その台詞をもう一度言ったら、あなたも殺すわよ。そういえばあなたの名前を聞いていないわ。」

「わっ、分かりました。…私はアルトゥール・ハッセ警察軍中尉です。一応後程確認を行うかもしれませんので、エウグスト市からは出ないようにお願いします。それと、宿泊場所を変えないで下さい。どちらに逗留なさってますか?」

「分かったわ。コルテン、答えておいて。」


この情報は直ぐにエウルレンまで伝わった。

何故なら、クレメンスの使いの者が惨状を確認し、それを直ぐにクレメンスに伝え、そしてそれをル・シュテル伯爵に連絡したからだ。


「伯爵…聞いてくれ。あの後直ぐに使いの者をグリュンスゾート大隊本部まで走らせたのだ。もうその時には遅かった。あの女は俺の大隊をめちゃめちゃにしやがった。1個中隊分殺された。140名もだ!俺は、何も出来なかった…噂だけでどうしてこれだけ殺される?こんな事が許されていいのか?」

「クレメンス准将、こういう事は言いたくは無いが君達ガルディシアは大同小異だよ。皆、同じ事を今迄してきたんだ。やる時には何も感じないのだろうが、やられる時の痛みは実際に体験しないと分からないのかもしれないがね。」

「ああ、君達エウグストから見たらそうなのかもしれないな。実際の話、伯爵の言う通りなんだろう。我々はずっと攻撃する方だったからね。いや、君達にはどう謝って良いのか分からないが、改めて謝罪させてくれ。すまなかった。」

「して准将。君の大隊は機能するのか?残った者達はどうなった?」

「難癖付けられて何人も殺された挙句に、生き残った者達は今警察軍に拘留されている。それをやったあの女はエウグストのどっかの宿でのうのうとしているんだ。機能するか否かというと今は機能しないだろう。350名程拘留されたのだ。」

「ううむ…何れにせよ、そのレティシアの動きが早すぎるが…これを読んでいたのか。一応ニッポンのタカダさんに連絡をしたんだが、彼が言うには今回は静観せよ、と言っていてね。どうしてかと問うと、もう遅い、間に合わないと。」

「そうなのか…一応何か動こうとしてくれたんだろうな。まぁ良い。君が言う通りだ、俺達がやってきた事は大同小異だったかもしれない。だが、こんな非道が続く世の中は駄目だ。正さなければならん。」

「その意気は良いが君は未だ謹慎中ではないかね?」

「そうなのだ。だがレティシアが言うにはそろそろ謹慎も解けるとの話なのだが。一応、この後にゾルダーにも確認してみる。俺の謹慎が解けたなら、君達に全面的に協力するぞ、伯爵。」

「うむ、了解した。そこは頼りにしているよ、クレメンス准将。」


だがクレメンスに伝えてはいない話が高田と伯爵の間ではあったのだ。

伯爵がクレメンスの1本目の無線を受けた後で、高田に連絡を入れ助力を請うた際に、高田はこの部隊を見殺しにする事によって、部隊毎エウグスト側に寝返る筈だと言っていたのだ。


「という事で、何とかならないだろうか、タカダさん?」

「うーん、そうですね…彼女の動きを見るに、恐らく何かの手を打っても間に合わないでしょう。ただですね、これを言ってしまうとどう思われるか分からないんですが…そのクレメンス准将の部隊に相当被害が出るならば、確実に彼はこちら側に部隊を連れて寝返るでしょう。今の所、彼は利権部分のみに食い込もうというスタンスみたいだったので今一つ信用が置けなかったんですがね。これが起きるならば、彼と彼の部隊は確実にこちら側に引き込めます。」

「え、そうなんですか?でも、被害が発生とか?たったの6人ですよ?」

「エンメルス曹長より強いのなら、恐らく状況にも依りますけど確実に相手側に被害が出ます。ただ、彼女以外の5名の実力が不明なので、それ以上は何とも言えないですね。何れにせよ、後でクレメンスさんから連絡が来るでしょうから、その時には"もう遅い、間に合わない"とのみ、お伝え下さい。それは事実ですのでね。」

「分かりましたよ、タカダさん。…本当に部隊毎寝返りますかね?」

「私はそう判断しています。でも彼女、厄介ですねぇ…エウルレンから出ていってくれて良かったですね。」

「ええ、全く。では。」


この会話を振り返り、伯爵はこれも何かの日本の技術によって導き出された回答なのかと考えたが、答えが出ない事を考えるよりは、現実の対処に頭を振った方が有効であると思い、他の作業をし始めた。

遂に200話到達ですー。

予定で行けば、あと120話位かな。第4章が最終章の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ