1_01.ヴァール・デア・グラーフェン中佐
異世界転移物です。
数点読んでみて自分でも書いてみたく投稿しました。
帝国歴227年4月15日。
私、グラーフェン中佐はガルディシア帝国海軍第7艦隊旗艦アレンドルフの艦隊参謀として帝国北方にある北ロドニア海への哨戒任務に赴く事となった。表向きは哨戒任務とされているが、その実態は違う。これは海峡を挟んだモートリア大陸にあるエステリア王国攻略の為だ。我が国ガルディシアは、ここ30年の戦いで連戦連勝を収めてきたのだ。
バラディア大陸南部に位置する我がガルディシアと大陸中部に位置する隣国エウグストとは犬猿の仲だった。原因は何十年も前の些細な出来事だったのだが、両国もその原因が何だったのかを思い出す事もせずに現状を受け入れ、常に互いに敵対していた。エウグスト大公国は大陸北部にあるダルヴォート王国と結託し、我がガルディシアに対し過大な関税や寄港税を要求してきた。我が国では食料生産能力に乏しく食料をエステリアやダルヴォートに頼らざるを得なかった我が国は長年の苦渋に耐え忍んだ。
しかしガルディシアI世の時代にこの状況を打開する希望が誕生した。鉱物資源が豊富な我が国で誕生した新型の火薬と火砲が、ガルディシアの戦闘力を一新した。敵よりも遠くから撃ち、敵よりも威力のある弾の存在。ガルディシアI世の時代にバラディア大陸の統一戦争を開始した。
隣国エウグスト大公国に対し大規模な動員により戦力を展開した。我が国の動員を感知したエウグスト軍は、国境周辺に戦力を集中し、国境での会戦に於いて我がガルディシア軍を国境付近に拘束する戦略をとった。食料に不安のある我が軍は長期戦には向かない。そこで、内部からの瓦解を目的として国境付近に位置する辺境伯ル・シュテルの寝返り工作を行い、これに成功した。
辺境伯の領地を無傷で突破した機動兵力は左翼を突進し、エウグスト軍正面をガルディシア中央軍が交戦したのちに緩やかに後退するように誘い込んだ結果、エウグスト軍は見事に引っかかった。誘い込まれて突出したエウグスト軍は、左翼から包囲され後方の退路を遮断されたエウグスト軍は一点に戦力を集中させて包囲網の突破を狙ったが、最終的に中央軍に配置した新型砲による集中砲火により壊滅した。
初戦での新型砲の威力に満足したガルディシアI世は、この新型砲を船舶に搭載するように命じ、なお今後の運用に関して陸軍で速やかに移動が可能となるよう改良を命じた。
そしてガルディシアII世の代に、大陸北方にあったダルヴォート王国に対し侵攻を開始した。
ダルヴォート王国は海峡を挟んだエステリア王国に救援を求めた。しかし直前にエステリア王国の東部国境付近に大規模な反乱と賊の発生が起きた事から、エステリア陸軍を東方に向けて動員移動していた為、ダルヴォート救援の戦力を抽出する事が出来なかった。
そもそもこのエステリアにおける反乱や賊の発生は、我が軍の工作によるものであり、更には海峡周辺にガルディシア帝国海軍第1、第3艦隊総勢220隻が臨戦態勢で哨戒し海峡封鎖をしていた為に、仮に戦力があったとしても兵力を送り込む事も出来なかった。また、既に艦隊には新型砲が配備されており、エステリアの砲よりも1.5倍の射程を誇った為、近づく事も出来なかった。
エウグストを吸収していた我が軍は陸上兵力においてダルヴォート陸軍を圧倒していた上に、ダルヴォート王国の高級官僚や貴族に離反工作を行っており、ダルヴォートに抵抗する力は無かった。ダルヴォート国王は東方のエステリア王国に亡命を図ったが、哨戒していたガルディシア東部方面艦隊に拿捕され帝都に引き戻され、国王一族の処刑をもってダルヴォート王国は滅亡し、バラディア大陸は統一された。
そして現在のガルディシアIII世に引き継がれて5年…
ガルディシア帝国は新たなる進軍を開始した。
ガルディシア軍は帝国東方のデール海峡を越えた先にあるエステリア王国に対し、侵攻作戦を計画した。既にエステリア王国に対する帝国の浸透工作は何年も続けられており、エステリア東部国境付近は常に騒乱状態が続き、治安部隊が釘付けとなっていた。その為、デール海峡周辺の西部海岸線は陸上防衛兵力に余裕がなく、戦力の薄い配置となっている。エステリア海軍が突破されエステリア西部海岸に敵軍の着上陸が行われると、ここを防衛するエステリア陸軍はこれを押しとどめる事は不可能、と見積もっていた
しかし逆にエステリア軍は敵海軍の海峡突破は不可能と見ていた。何故ならば西側海岸線に沿って秘かに要塞陣地を構築しており、少兵力を以て通過する艦艇を要塞砲にて攻撃し、敵の上陸を阻止する事が可能、と見ていたのである。恐らく上陸前に要塞砲によって敵艦隊は散り散りに離散し、上陸部隊も海岸線に近づく事も出来ないだろう、と。ガルディシア自体も要塞の存在は認知しており、敵軍よりも長射程の砲撃であるならば問題は無いものと考えていた。
むしろガルディシア側の不安要素は、エステリア王国と軍事同盟を結んでいるヴォートラン王国海軍の動向であった。その為、これを牽制する為に帝国とヴォートラン王国の間に横たわる北ロドニア海海域を遊弋し、ガルディシア第4艦隊と共同で牽制にあたる、というのが今回の任務だった。
第7艦隊はバラディア大陸南部の首都ザムセンに駐留していた。その為、バラディア大陸西部沿岸を北上し、大陸北部の旧ダルヴォート国の都ヴォルン港まで移動した上で第4艦隊と合流、北ロドリア海で哨戒行動を行う予定だった。
なおガルディシア西方には中央ロドリア海が広がっているが、ここは常に雷雲や嵐が発生し、遭難や沈没が多数発生している危険地帯である為、接近禁止領域に指定されている。
第7艦隊旗艦アレンドルフ艦橋からグラーフェン中佐は左舷を見て身震いをした。今日も中央ロドリア海は、雷雲が立ち込め雷光が引切無しに走っており、一段と暴風が吹き荒れていた。
初めて投稿します。
お手柔らかにお願いします。