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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第三章 ガルディシア回天編】
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29.レティシアの面接

隠し部屋のモニターには、モーリスが質問をした際の反応が繰り返し再生されていた。


「どうですか、タカダさん?」

「そうですねぇ…ここの反応見て下さい。」

「どの方もこの質問をした時に似たような怒りの反応を出しています。ですがこの怒りの反応はフェイクです。どの方も思ってもいない事をシナリオ通りに演技している感じですねぇ。」

「するとやはり…」

「そうですねぇ、可能性高いですね。あとこの反応もそうですね。瞬きの回数、会話の速度、体温の変化等、どのモニタリング情報もこれが演技である事を示していますねぇ。それと、彼らが面接終了時の反応は落胆を表している感じが濃厚です。」

「それは、この団体が自分達の予想と大きく違うという事からの反応でしょうかね?」

「ええ、でしょうね。まず演技の内容としては、"自分達は武闘派なのでお前たちの役に立つ筈だ"という前提で面接に挑み、その面接内容が平和だの何だのという事で肩透かしを喰らった状況に対して"もしかしてこれは、ワザと平和だ何だと言ってこちらの反応を見ているのでは?"という疑いが生じてますね。そして、こちらが真面目に言っている事を確信して落胆、という流れですね。まぁ、ここまでは概ね我々の意図した方向に誘導出来ていますね。さて、それでは最後にレティさんですか。もう少し観察しましょう。」


・・・


「さて、次はレティさん、でしたね。どうぞお入りください。」

「失礼します、エウグスト出身のレティと申します、21歳です。」

「はい、私は面接担当のモーリスです。宜しくお願いしますね。」

「あの、面接を始める前に質問がありますが宜しいでしょうか?」

「あ、良いですよ、どうぞ。」


既に面接待機の部屋でレティシアは面接の内容を聞いており、この面接の真の目的を探ろうとしていた。情報局長レオポルドからの情報が間違う事は滅多に無い。だが、現実にこのエウグスト解放戦線の流れは、武闘派系組織とは全く異なる様式だ。どこかで情報が間違ったか、それともこちらを欺むこうとしているかのどちらかだ。


「以前ザムセンで女中をしておりました。その頃に聞いた解放戦線の噂は、ガルディシアの圧政からエウグストを解放する、その為の手段は問わない、と伺っております。それ故に私は祖国の為に何か出来る事は無いかと考えた結果、解放戦線への参加を決意致しました。然し乍ら、今迄私と同行して頂いた方々の面接内容を伺いますに、どうも私が以前聞いたものと違います。ここは、以前からそのような活動をしている組織なのですか?それとも、新しく立ち上げた組織か何かなのですか?」

「私共は以前から存在しています。確かにそういった方向を目指した時代もあります。ですが、その方法はどちらにも血が流れる方法でもあります。そこで、我々は融和の方向に舵を切りました。」

「つまり、エウグスト解放戦線は血が流れる事を嫌い、対話による解決に方針変更をした、という事でしょうか?」

「そう考えて頂いて構いません。」

「そうですか…それでは、もう一つ質問があるのですが?」


・・・


「凄いな、彼女…素晴らしいですよ。これは逸材だ。」

「どうしたんですが、タカダさん??」

「彼女から全く嘘も演技の反応も出ていないのです。本人の素の反応か、または究極の役者です。役柄に完全に成り切っていますよ。見て下さい、この反応を!彼女は、本気で語っているんですよ、不自然な反応が全く見られ無い。素性を知らなかったら完全に騙されますよねぇ。」

「はぁ…そ、そうなんですか?」


隠し部屋では興奮してモニターに被り付く高田と、意味がよく分かっていないアレストンが居た。高田は、レティシアの素性を知っているが故に嘘と見破れるが、恐らく普通の人間ではよほど訓練された者でないと見破れないレベルにある事に興奮していた。だが、アレストンには何が凄いのか分からない。無理も無いのだ。この世界は、日本があった世界に比べて単純であり、高田にとっては今迄誰も彼もが赤子の手を捻るような物だった。だが、彼女のレベルは明らかに他を圧倒している。


「彼女が部隊の指揮官である事は疑い無いですね。相当に彼女の潜入に関する素養は高い。ですが部下の方々は今一歩でしたね。それにしても侮りがたい…こういうレベルにある人が居るとは世界は広いですねぇ。」


高田は隠し部屋で引き続きレティシアの面接のモニタリングを続けた。


・・・


「もう一つの質問ですが…例えば解放戦線がガルディシアの官憲による武力制圧の対象となった場合には如何なる対処方法をするのかをお伺いしたく思います。」

「そうですね、我々の指針は非武装、無血、対話による解決ですから、それを以て対抗するとしか現状では申し上げられません。」

「では、組織内に逮捕者や死亡者が出た場合であっても?」

「そういった被害が出た場合であっても。」

「それ故に組織が分裂をしたり、より過激なグループが発生したとしても?」

「我々は活動指針に決めた事を守り続けると思います。」

「ああ、そうですか。お答えありがとうございます。」


レティシアもまた面接官を観察していた。

返事が淀みない。予め決められた質問を回答しているようだ。或いはこの手の類の質問は良く出るからなのだろうか?それにしても、普通に考えて無血を標榜する団体であっても自らの団体が分裂や志望者が出るとか、過激な分離グループの出現はありえる事であり、しかも団体にとってどれも致命傷だ。これほど簡単に淀みなく回答するという事は、幾つかの解がある。一つには"本気でそう思っている"、二つ目に"決めた答えを定めた通りに回答する"、そして三つ目に"本気でそう思っていない"、という事だ。これまでのモーリスという面接官の話す内容は、全て首尾一貫している。一貫し過ぎているのだ。他の連中が行った揺さぶりにも動じずに、同じ方向の回答を繰り返している事は確認している。そして今、自分に対してもそうだ。揺らぎも葛藤も逡巡も無い。こういう反応は狂信的組織には有りがちだが、それと並行して感情の激高が伴う場合が多い。が、それも無い。レティシアは何か釈然としない気持ちであった。何かが微妙に変だ、と。


「はい、それでは面接を続けますね。」

「いえ、結構です。どうも私が目的とした方向では無いようです。」

「あ、そうなんですか…今日はどうされますか?一応、こちらに滞在中の宿泊費は私共が全てお支払い致しますので、今後の宿泊の予定だけでも教えて欲しいのですが。」

「そうですか。一応、私共は明日にでもエウルレンを引き払おうと思っております。宿泊費を出していただいた事は感謝しておりますが、ご希望に添えず申し訳ありません。」

「いえいえ、こうやって相互に確認する事が面接の意味でもありますので。本日はお疲れ様でした。」

「はい、それでは失礼します。」


結局レティシアは、解放戦線に潜入する事を諦めた。

彼女の結論としては、自分の感じた"微妙に変"な違和感を信じる事としたが、この目の前に居る連中からは何も情報が取れないであろうと判断したのだ。その為、一旦引いて別のアプローチで探る事とした。そして一旦引いた彼らはホテルも引き払い、解放戦線の周辺情報を確認する為に、エウルレン周辺やマルソーに情報収集を行い始めたのだった。

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