28.解放戦線の面接
午前9時集合予定だったが、エウグスト解放戦線本部事務所に午前6時半には既に高田が入っていた。高田は色々と機械の調整を行ったり、動作テストを繰り返していたが、8時半にモーリスがこの建物に来た時に、既にドアが開いている事に驚いて中に飛び込んできた。
「ああ、タカダさんだったのか!ドア開いていてびっくりしましたよ。」
「おはようございます、モーリスさん。機械の調整と動作テストにどうしても早めに入りたかったのですよ。いやぁ驚かせてしまった様で申し訳無い。」
「いや、それは良いんですが…鍵掛かってましたよね?」
「ええ、鍵掛かっていましたよ。」
「どうやって?」
「あはは、私にとっては大抵の鍵は無意味なんですよね。」
「ああ、そういう事ですか…」
そして午前9時を迎え、モーリスは全員が集合した段階で朝礼を行った。
「それでは本日13時に来る6名が本命です。然し乍ら判明しているのがそれでありますが、それ以外に潜入を目論む可能性もある事から、以降も引き続き注意して対応してください。本日の予定は、13時からコルテン、ジーヴェルト、トレスコウ、ザウケン、フリースナー、そして女性のレティの6名です。皆さん、練習通りにお願い致します。」
「了解です!」
午前9時の時点で、この解放戦線本部事務所にはモーリス、アレストン、エンメルス、伯爵のメイド3名、そして隠し部屋に高田と機械の操作員として2名が待機した。ル・シュテルと第3レイヤー部隊は城で武装しつつ待機、第1レイヤー部隊の一部と第2レイヤーは事務所傍にある別のアジトで待機、第1レイヤー数名がホテル近くで待機していた。そして高田がエンメルスに命令を出した。
「それではエンメルスさん、彼らのホテルの部屋は何号室でしょうか?」
「504から連番で509迄ですね。」
「分かりました、ありがとう。彼らが面接の間に盗聴器の方を宜しくお願いします。何か問題が発生したら私と伯爵に連絡を入れて下さい。」
「了解です。1部屋に2個づつ位で良いですかね?」
「ええ、その位で。さて、準備は整いました。後は来るのを待つだけですね。」
「奴らがホテルを出る直前に、ホテルの担当から連絡が入る様になっています。」
「了解です、それでは彼らの到着を待ちましょうか。」
解放戦線側が準備を整え終わった頃、ホテルではレティシア一行が今日の行動予定を話し合っていた。
「13時から解放戦線連絡本部とやらだが、これは全員で行くのは良いとして武装はどうする?」
「武装ね。当然武装していきましょう。何が起きるか分からないもの。ただ、それを分かる物は置いてってね。一見して武器と見えないモノを用意しましょう。」
「了解です。それと建物は一応さらりと昨晩に確認したのですが、大通りに面していて建物の東側がメインの出入り口、裏口も1つあり、1階は一面大きなガラスが入っていますが、中身は見えませんでした。」
「1面大きなガラス?随分と解放戦線は金回りが良いのね。」
「それが…あの辺りの建物は皆、商売をしている様なんですが全て1面大きなガラスを使用した建物ばかりでした。」
「ふーん…そうなの…でも変ね。襲撃や攻撃を受けたら、ガラスなんて1発じゃない?そこ本当に、解放戦線の本部なの?」
「確かに番地も確認しました。看板も出てます。」
「看板出すような反乱組織ってのも聞いた事ねえですがね、大尉。」
「そうね、竜だと思って捕まえたら蛇だった、みたい。気に入らないわ。」
「実際、レオポルド様からは反乱の疑いある組織という話だったんですよね?」
「レオポルドの情報が間違いだったのかもしれないわね。それも後でハッキリするでしょう。兎も角、各自武装は任せます。状況判断の上で使用。ただ、潜入メインである事を考慮し、なるべく交戦は控える事。では行きましょうか。ニヴェルを呼んでちょうだい。」
「了解です。」
そしてニヴェルの案内で解放戦線本部事務所へと一行は向かった。
事務所に着くとニヴェルが6人を待たせると正面から建物の中に入っていき、中の事務の女性に声を掛けた。事務の女性は何処かに連絡した後に、2階からアレストンが降りてきて一行を出迎えた。
「やぁ、皆さん。遠い所からようこそ。話はニヴェルから聞いております。私は、このエウグスト解放戦線の事務局長をやっておりますアレストンと申します。皆さんを歓迎します。ささ、どうぞお上がり下さい。あ、靴は脱いでそこの棚に置いて下さい。棚には代りのスリッパというモノがありますので、それに履き替えて下さい。」
ここエウルレンは日本の文化が色濃く反映しているが、やり過ぎている部分もある。解釈の違いなのだろうが、室内では靴を脱ぐ、という行為を厳密に解釈したのか、商業施設でも靴を脱ぐように文化が浸透してしまった。靴のままで良い場所はホテルや対面の販売業位で、会社組織的な物は家庭と同じように室内では靴を脱ぐという慣習が根付いた。その為、この解放戦線事務所も同様に靴を脱ぐ仕様となっている。
だが、レティシアは別の解釈をした。
なるほど室内で暴れるにしても、靴を脱いだ状態では攻撃力も半減だ。何より踏ん張りが効かなさそうなこのスリッパとやら、これに履き替える事によって相手の攻撃力を予め削ぐという事か。考えているな、強ち馬鹿では無いらしい…
「我々には皆さんの名簿がありますが、合っているかどうか一応確認させて下さい。まず、名前なのですがコルテンさん、ジーヴェルトさん、トレスコウさん、ザウケンさん、フリースナーさん、レティさんで合っていますか?はい、合っているのですね。それでは、名前が呼ばれた方から2階の面接室にお入り下さい。それ以外の方は、同じく2階の待合室に移動します。こちらにどうぞ。」
そして一行は案内された2階の待合室に入り、一番最初にはコルテンが呼ばれた。
「コルテンだ。この部屋で良いのか?」
「はい、合ってますよ。私は面接担当のモーリスと申します。宜しくお願いします。」
「うむ、宜しく頼む。」
「さて、一番最初の質問なのですが、解放戦線への志望動機からお伺いしたのですが。」
「愚問だ。我々エウグストはガルディシアに搾取されている。我々は我々が依って立つ我々の為の武装組織によって、エウグストの自立が為されるのだ。」
「ほう、武装組織ですか。なるほど…私共のチラシをご覧になっているかとは思いますが、一瞥してどう思いましたか?」
「無血とか平和とか、本気で書いているのか?」
「ええ、私共は以前そういった方向を目指していた事もあったのですよ。ですが、今や我々は融和の方向を目指しています。非暴力による自治権の拡大、そして平和的に話し合いによる権利の獲得、それこそが我々が目指す道だと思っております。」
「一体それをどうやって成し遂げようとする。その方法は?」
「我々がビラを配り、街頭演説を行い、デモ行進をする事により、広くこの活動を知らしめ、エウグストの、ひいてはガルディシアの皆様に我々の活動を知って頂いた上で、我々の理想とする状況を何とか話し合いで引き出して行きたいと思っております。」
「話にならんな…」
「これが私共の活動内容にございます。」
「この面接の意味は何だ?」
「例えば、我々の活動にご賛同頂けない場合は、この面接で判断して頂くという趣旨ですね。」
「ああ、なるほどな。得心した。どうも俺は賛同出来るかどうか分からんな。」
「左様に御座いますか。それを確認する意味でもこの面接には意義があるもの、と思っております。それでは面接を終了致しましょう。お疲れ様でした、コルテンさん。」
「ああ、時間を取らせて悪かったな。」
こうして一人目の面接が終わり、このような調子でレティ以外の全員の面接は終了した。