23.オーリト村の秘密
「へええ、そんな楽しい村だったのね。」
ウキウキ顔でレティシア大尉は、迎えにきたザウケン上等兵に答えた。
「大尉、駄目ですよ。皆殺しとか絶対駄目です、ニヴェルについて直ぐに脱出しますよ。」
「分かっているわよ、もう。残念ねぇ…。
皆さんはもう脱出の準備は出来たのかしら?」
「あとは大尉待ちです。」
「ふーん…ザウケン、あなたもう一度大尉って言ったら半殺しね。」
「ああっ、すいません、た…レティさん!」
「気を付けてよね。私も今行くわ。」
そしてニヴェルを筆頭に全員が既に装備を整えた状態で待っている所に、レティシアが入ってきた。
「お待たせしましたわね、皆さん。では参りましょうか。」
直ぐにザウケンとフリースナーが建物の裏口から外に出て周辺を警戒する。彼らのサインで全員が一旦村長の離れの家から出た後、村長の離れから静かに裏手に回り、周辺を探った。まだ村長の家正面に人が集まっている段階で、包囲やら何やらをやろうとする手前の段階だったようだ。だが、遠目にも左手に松明と右手には何等かの得物を持っている。確かに、確実に何かの目的があるようだ。あれの全員がこちらに来たなら、反撃せずに済ませる選択肢はない。
だが、今は未だここを立ち去れば穏便に済ます事が可能だ。今、村人達が村長の自宅前で集まっているという事は、注意がまだこちらには向いていない。この数刻の隙間を利用して、レティシア一行は、ニヴェルを先頭に村民が集まる建物の裏側から山の方に逃げた。恐らく追っ手がかかるのは10から15分後位になるだろう。だが、どこに逃げたかを絞る為にはもう少し時間が掛かる筈だ。都合30分彼らに追跡されなかった場合、自分達だけなら逃げ切る自信はある。逆に切り合いになった方がレティシア一行にとって願ったり叶ったりなのだが、そうすると先導しているニヴェルの協力を失う可能性がある。何せ、ああいう畜生村でも生まれ育った故郷なのだ。あの村全員を皆殺しにしてしまうと、彼の解放戦線とやらへの潜入への切符が遠のくだろう。そう判断して、逃げの一手を選択したのだ。
「そろそろ気が付く頃かな?」
「だろうな。こっちを追って来るかもな。」
「わからん。だが……ニヴェルそろそろ話したらどうだ?」
「な、なにをだ?」
コルテンはニヴェルに鎌をかけてみた。
コルテンは2つの疑いがあった。一つにはニヴェルが村民と組んで死地に誘導して一行を惨殺しようとしているのではないか?と。そして、もう一つには、そもそも村にはそんな風習も無く、何か別の事で村人が村長宅に集まろうとしていただけで、別の件でニヴェルが村を脱出しようとして道連れにレティシアの一行を選んだ事ではないか、と。だが、ニヴェルが話した内容は、どちらでも無かった。コルテンが殺気の籠った目でニヴェルを見つめつつ剣を抜くと、ニヴェルは話し始めた。
「仕方ないな……話すよ。俺はあの村の出身である事は間違いないが、同時にあそこは解放戦線の支部が置かれている。あの酒場で話しかけたのは偶然だが、解放戦線への参加希望者をスカウトするのが仕事だよ。だが、深い所まで話して断られた場合は、村人総出で消している。その後は、さっきも話したよ。金も命も荷物も頂きなのさ。
ところが…最近、あの村では参加希望者であっても身なりの良い、金を持っていそうな連中を泊めては殺し始めたんだ。その方が村にとって効率が良いからな。俺はずっと止めようとしたんだが…」
ニヴェルの表情が苦しそうなものに変わった。
きっと彼は一人であの状況を何とかしようとしていたのだろう。だがそれは無理な話だ。結局、村人たちに疎まれ、あの村に残っていたら最終的には村の秘密を守る為に、やはり殺されただろう。
「村長宅に集まっていたのは、やはりそういう事なのか?」
「そうだよ。あんた達に話しかけたのもそれが理由だ。だけど参加するという事を村長に伝えていたにも関わらず、村長やら他の連中があんた達をどうやって殺すか相談し始めたから、慌てて駆け込んだって訳さ。」
「そうだったのか…いや、ニヴェル。命の恩人だな。」
本当の所はあのオーリト村の村人達の命の恩人なんだがな、と秘かに思いつつにやりと笑うコルテンだった。しかも炭鉱上がりのエウグスト人を殺して奪っているなら、帝国勲章をやっても良い位だ。まぁ、今は良い。まずは組織への侵入が最優先だ…
「本来なら村長から晩餐の誘いがあっただろ?あれは飯にしびれ薬を仕込んで、薬が効いている間に、って話なのさ。だが、あんた達は食事を断って酒場に来ただろ?だから急遽村人集めて夜更けに、って話だよ。ところで、あんた達随分落ち着いているな…相当修羅場潜って来たんだな。」
「ああ。戦場で色々地獄を見て回ったからな。ほかの連中よりは度胸がある方だ。そんな事よりこれからどうするんだ、ニヴェル?」
「それなんだけど、海岸沿いにムルソーの港まで行ってから、船でティアーナまで移動して、そこから内陸に入れば、エウルレンまでの道が整備されているんだ。しかも最近は高速のバスって乗り物が走っている。こいつは馬よりも早くて、しかも安全で快適だ。但し、ちょっとばかり値段が高いけどね。それが一番早くエウルレンに行く方法だ。」
「そうか。ではそうしよう。道中は俺達がお前の警護をするので、道案内は頼む。」
「わかったよ、コルテン。こちらこそ頼むよ。」
こうしてレティシアの一行はオーリト村のニヴェルを加え、7名でムルソーに向かった。
累計10万アクセス記念更新。皆さまお読み頂き有難う御座います。