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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第三章 ガルディシア回天編】
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22.オーリト村

ガルディシア 旧エウグスト地域東部海岸線 オーリト村


オーリト村の入り口近くの畑で灰を撒いていた老人が、こちらに歩いてくる6人の男女を見かけたのは夕方の事だった。老人は、この辺りでは見かけない者に声を掛けた。


「あんた達、どこから来なすった?こんな辺鄙な村に他所から人が来るなんてのう。」

「俺達はガルディシアはヴァント近くの炭鉱で働らかされていたんだ。だが、近頃近代化とやらでな。お払い箱になったんで、海岸沿いに歩いて国に帰る途中さ。ここはオーリトの村かい?」

「そうじゃよ、オーリト村じゃ。しかし徒歩とは、そりゃ難儀な事じゃのう。えらい別嬪さんも連れとるようじゃが、故郷はどこなんじゃ?」

「ああ、この娘さんはエウグスト市出身なんだ。長い間、城でお手伝いとして働いてたんだが、暇を出されて国に帰る所さ。俺達は、彼女の護衛がてらエウグスト市までは同行、ってね。皆それぞれ出身が違うんだ。俺はリレントだし、あいつはミーンの町だしな。」

「そりゃまぁまだまだ遠いのう。そも、ティアーナ港までも結構な距離があるぞよ。もうすぐ日も落ちるで、この村で休んでゆくがいい。わしが案内しよう。」

「そりゃ助かる。じいさん、あんた名前は?」

「わしゃ、この村の村長マルランと申す者じゃ。あんた達はうちの離れに泊まっていきなされ。」

「そうか。マルラン村長、ありがとう。今日は宜しく頼むよ。ところで、ここら辺りで酒場とかはあるのかい?」

「酒場のう…ここは田舎だで、小さな飲み屋が1件あるだけじゃな。後で案内するぞよ。さて、そこが儂の家じゃ。」


田舎とはいえ村長の家は結構な大きさだった。かつてこの村はエステリアとの交易で栄えた村の一つだったが、大きな家はその頃に栄えた痕跡であったのだ。その交易も今は絶えて久しい。村には当時から泊まる施設が無かった為、宿泊する客が来ると村長の家に泊めるのが習わしだった。その為、村長の家は客人宿泊用の離れがある。その離れに客人達を案内し、荷物を降ろし終えたレティシア大尉の一行は、村長から夕食はどうするのか聞かれた。目の前に広がる海峡は、今の時期はちょうど暖流が北上する回廊となっており魚たちが豊富だ。その為、少しの時間で沢山の魚が獲れる。そこから獲れた新鮮な魚を料理するが、どうだ?と言う。だが、これから6人前もの料理は大変でしょう、とレティシアは断り、直ぐに酒場へと案内してもらった。酒場は小さなテーブルが二つと10席程の、本当に小さな酒場だった。先客は一人しかおらず、早速彼らは酒と適当に料理を持って来るようにマスターに言うと金をカウンターに置いて、テーブルにどやどやと座り込んだ。


「レティ嬢ちゃん。今日はここに泊まるのかい?」

「ジーヴェルトさん。あの村長の所に泊まる事、余り賛成じゃないみたいね。」

「ああ、俺も反対だ。そもそもこの村は地図には廃村と記録されているんだよ。何かがおかしい。」

「そもそも何故に廃村って記録されているのかしら。どうみても、どこの家も一度も壊れた気配もないし、人が居なくなった感じもしないわよね?」

「廃村と届け出出しておけば、税金も払わなくて済むからな。そういう事なんじゃねえの?」

「だが、そういう事ならこの話題は気を付けなきゃならんぜ、トレスコウ。」


その時、大柄な女将がでっぷりとした身体を揺すりながら酒と料理がテーブルに乱暴に置かれた。


「はいよ、他に注文は無いのかい?」

「ああ、取り合えず食わせて貰うよ。ありがとさん。」

「あんた達、どこから来たんだい?」


女将が聞いてきた。

先程の村長の対応からも、来客は珍しいのだろう。そして村長にした話と同じ話を告げると、妙な笑みを浮かべて店の奥に引っ込んで行った。すると、その会話を聞いていたのか、カウンターに座っていた男が振り向きざまにレティシア達に話しかけて来た。


「へええ、あんた達ヴァントから来たんだ。あれかい、炭鉱から解放されたクチかい?」

「ああ、そうだが、あんたは?」

「俺はこの村の出身でね、ニヴェルと言うんだ。俺もちょっと前に開放されて村に戻ってきたのさ。まぁ、あと数日もしたら、今度はエウルレンに行くんだけどな。」

「ふーん、エウルレンにね。それはアレの絡みかい?」

「アレって?解放戦線の事かい?」


炭鉱出身で解放された帰郷者という身分は実に簡単だ。

組織の実態調査で、まずはそれが存在する事が確認出来たかもしれない。


「ああ、俺達もその解放戦線に加わりたいんだがね。誰からも勧誘が来なかったんだよ。どうやって参加してよい物やら。」

「そうか…じゃあ、俺が口効きしてやるよ。ここの店奢ってくれたら。」

「よっしゃ、じゃあ俺が奢ってやるぜ。俺の名前はコルテンだ。宜しく頼むよ。」

「ああ、任せてくれ。で、あんた達は何時出発するんだ?元々、俺は何時でも行けるんだが…みんな一緒なのかい?」

「ああ、全員一緒だ。元々この子をエウグスト市まで送る約束があるからな。」

「それだと、結構な遠回りになるなぁ…どうだろう、エウグスト市までは付き合えない。エウルレンを先に行かないか?」

「エウルレンに解放戦線のアジトがあるのかい?」

「そこまでは俺も知らないんだ。だけど、そこに連なる人がエウルレンに居る。その人から解放戦線へ繋げて貰える筈だよ。」

「そうか。それで良いよな、レティ嬢ちゃん?」

「そうね……仕方が無いわね。」

「よっしゃ決まり。じゃあ飲もうか!」


そして、酒宴を適当な時間で切り上げ、レティシア一行は村長の家に戻っていった。村長に挨拶をした後に離れに行き、寝る準備を始めた所だったが、その部屋のドアを叩く者が居る。フリースナー上等兵が警戒しつつドアを開けると、先程まで飲んでいたニヴェルだった。


「どうしたんだ、ニヴェル?」

「あんた達、今直ぐ荷物を纏めて逃げろ。」

「はぁ?なんでだ??」

「この村は、人を誘い込んで歓待した挙句に、荷物や金と命を奪う畜生村だ。逃げろ。」

「どうしてお前は今迄大丈夫だったんだ?」

「言ったろ、この村の出身だって。でも、あんた達は解放戦線に参加したいと言うしな。俺もああいう生活に飽き飽きしてんだ。何やってんだ、早く荷物纏めろ!」

「もしかして廃村になってた理由ってそれか?」

「なんだ、あんた達知ってて来たのか?」

「いや偶然だが。だが逃げるのは賛成だ。よし、皆荷物を纏めろ。出るぞ!だれかレティ嬢ちゃんを迎えに行ってくれ。」

「俺が行くよ、コルテン。」


そして村長の家には煌々と明かりが灯り、松明を持った男達が集まり始めた。

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