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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第三章 ガルディシア回天編】
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17.グラーフェン中佐への説得

ガルディシア帝国の帝都ザムセンでは近頃、日本からの乗用車の輸入と共に、自転車の普及が恐ろしい勢いで拡大していた。そしてそれは日本のホームセンターの進出と共に加速度的に普及が進んだ。自転車は何せ動力が自前で、尚且つ平坦な道では相当の機動力を有し、そして安価だ。その為、帝都の庶民の間では日本製の自転車を購入する事が流行となっていたのだ。それは一時期の中国の光景の様な有様で、挙って日本の自転車を平民が乗り回す事によって、せっかく敷いたアスファルトの道路は自動車が走り回る事も無く、わが物顔で道路交通法を知らない庶民たちの自転車が帝都を駆け回っていた。


「自転車とやら。あれは中々に面白いな、ゾルダー、お前は乗ってみたか?」

「いやアレには乗っていない。俺はもっと面白い乗り物を知っている。」

「ほう、もっと面白い?それは何だ?」

「バイクと言う。自転車にエンジンが付いたような乗り物だ。一度乗ってみるがいい、グラーフェン。」

「それは我々にも手に入るのかい?」

「どうだろうな。正式に輸入されてくるなら、免許が必要だ。だが…ル・シュテル伯爵が1台それを持っている。俺も視察の際に乗せてもらったが、あれは馬よりも面白い。」

「ル・シュテルがなぁ…面白いと聞いて興味が出たぞ。俺に借りを返さんか?それで。」

「うーん…いや何とかなるのかもしれんがなぁ…そういう話をしに来たんじゃないんだが…」

「面倒臭そうな話だな。嫌な事は早く話せよ、ゾルダー。」


グラーフェン中佐は、この日ゾルダー少将の呼び出して帝都にある酒場に来ていた。帝都も火力発電所が稼働を開始した事により、電化製品が津波の様に押し寄せてきていた。蛇足だがガルディシアでの、この空前の需要に日本では家電メーカーと建築関係の会社の株価は恐ろしい勢いで上昇していた。この酒場もその恩恵を受け、天井にはLEDの照明設備が付き、冷凍冷蔵庫も大型の業務用が入っている。そして、同時に日本人の酒の飲み方と同様に、冷やして飲むという行為が今の帝都の流行だ。その流行に従って、彼ら二人はグラスに氷が入ったロックの酒を飲んでいた。


「こんな綺麗なコップに、氷が常に入っているなんてな。」

「ああ。科学技術の乖離は恐ろしい程だ。だが、この便利さは捨てがたい。このまま我々がこれらの技術を物にして自分達でも生産可能となった暁には、どんな未来が来るのだろうかな。」

「その未来もな。国があってこそだよ。グラーフェン。」

「…どういう事だ?」

「言ったままの意味だよ。考えてもみろ。ニッポンが俺達に何を輸出しているか?」

「なんだ?科学技術と知識か?」

「便利さだよ。今まで人手でやってた作業がどんどん機械に置き換わってる。」

「良い事じゃないか。辛い作業は誰かにしてもらうのが一番だ。それは人間が担当せずに機械がするなら、何の良心も傷まない。」


空になったグラスにゾルダーは酒を注ぎ、再び語り始める。


「そういう辛い作業はどこの誰が今までしていた?そして…その作業から解放された奴らは今どうなってる?」

「ああ…主に炭鉱だろうな。エウグスト人やヴォートラン人か。皆、故郷に戻っているんだろ?」

「そうだ。そしてその炭鉱はどんどん機械化が進み、炭鉱で穴掘ってた奴らはどんどん国に帰ってる。一見、良い事尽くめなんだ。目に見えて生活が楽で便利になっているからな。だが…ここだけの話、エウグストは反ガルディシア組織を作りつつある。その組織の補充は炭鉱上がりをどんどん吸収している。」

「それは軍を投入して鎮圧するだけの話ではないのか?いつも通りに。」

「今までならな。だが、あのニッポンが背後に居たら?ニッポンはガルディシアにはそれ程好意を持っている訳では無いんだ。彼らが接触した一番最初の政府が我々、という程度の意味しか無い。しかも度々、ガルディシア側からちょっかい出してくる厄介な国と見ている。お前はどう思う?自分達より未開な癖に、懲りずに面倒事起こす奴らの事を?」

「面倒を起こす原因を断てば、付き合い易くなるんじゃないか、とは思うな。」

「じゃ、その原因は何だ?」

「ふーむ…そういう事か。それでエウグストの反ガルディシア組織の背後にニッポンが居る、と思っているんだな。どうする?それは我が国の法に従って、弾圧なり鎮圧なりするのは誰に攻められる事の無い正当な行為だぞ。」


ゾルダーはグラーフェンのグラスに酒を注ぎ、そして自分のグラスにも酒を注いだ。そして大きく息を吸い込み吐き出すと、意を決した様にグラーフェンに言った。


「問題はな、俺もそれに一枚噛んでいる、って事だ。」

「お前…それは反逆罪だろうが…」

「それでお前を見込んで話している。お前と俺は古い付き合いだ。色々助けたし、色々助けられた。お互いにな。で、正直に言うが、ガルディシアには未来は無い。国家としては存続するだろうが、それは帝国では無い。」

「ちょっと待て。少し考えさせろ。お前、俺をそれに巻き込もうとしてるな?」

「グラーフェン…あんまり時間が無いんだ。前に皇太子殿下の第二軍がエウルレン前面で壊滅したのは、覚えているだろ?」

「ああ。酷い有様だったみたいだな。生き残った兵も狂ったようになっちまって、軍の再建どころでは無いと聞いた。あれから皇太子殿下はザムセンで蟄居を喰らっているとかは聞いたが…?」

「あれはニッポンから供与された重機関銃と狙撃銃、そして自動小銃という先進兵器で拠点防御をした戦いだった。拠点にはこれらの連射と狙撃が効く重火器を集め、機動戦力として戦車、あの砲がついた車だな。あれを動かして、騎兵という機動戦力に対抗した。まぁ、空飛ぶ奴にもやられたが、それはもう何も対抗手段が無いからな。どうにもならなかった。」

「ああ、俺が聞いた話と同じだ。連射が効く銃で滅多打ちにされた、と。」

「で、だ。それらの武器をエウグストが持っていて、鎮圧に向かう警察なり軍がこれまで通りの単発銃なら?」

「まさか!いや、それは勝負にならんだろう。エウルレン戦の二の舞だ。」

「そうだ。エウルレン戦で集められた重火器は150丁程だったと聞く。だが今や、エウグストの反ガルディシア組織にあるのは、3,000丁程にもなっているとの噂だ。正直な所は分からん。だが、話半分でも1,500丁あるとしたら?」

「これから…もしそいつらと戦うのなら、我々が勝つのは厳しいだろうな…」

「そして、それらの兵器を作ったのは何を隠そう、皇帝陛下自身の命令なんだよ。」

「へ?…いや…じゃ何で俺達がそれを装備していない?何故?」

「皇帝陛下の元にニッポンから亡命してきた中国人が何人か居た。この中国人達はニッポンと同様の銃を作れると陛下に嘯いた。そこで陛下は秘密裏に銃を作らせようとしたが、彼らは完成出来なかった。その為、陛下はニッポンとの面倒事に発展する事を嫌ってザムセンから彼らを追い出した。で、結局ル・シュテルの領地で盗み出した機械を使って、中国人達は銃が生産出来るようになった、って話だ。」

「ちょっと待て…その銃は、つまりガルディシア産という事になるのか?」

「そうだ。ニッポンは関与していない。秘密裏に作っていた。そしてその銃は今やエウグスト人達の手にある。そりゃそうだ、追い出した原因に作った銃を持っていくか?別の必要とする顧客に高く売った、って事だ。」


グラーフェンは大きくため息をつき、俯いた。彼の脳裏には恨みに燃えたエウグスト人達が抱える銃によって、帝都ザムセンがめちゃめちゃに破壊される様子がありありと映っていた。


「そこで、だ。グラーフェン。もうこの国に未来は無いと俺は判断している。このままで行けば、エウグストの連中にめちゃめちゃにされるだろう。俺達の誰も抵抗なんざ出来ない。そして、ニッポンも恐らく現在の皇帝の支配する帝国には冷淡な対応となるだろう。だが、先程お前が言った通り、"面倒を起こす原因を断てば"どうなる?」

「待て。いや…考えるまでも無いんだろうが…考えさせてくれ。その前に、その銃が本当にあるのかどうかを知りたい。ガルディシア産の連射銃が存在するのかどうか。」

「ふーむ…いいだろう。明日暇か?午前中にル・シュテルの所に行こう。その時にそれらを見せてやる。もしかしたら試し撃ちも出来るかもしれんしな。」

「もうそこまでなのか…いや、分かった。明日だな?空けておく。どうやって行く?」

「ニッポンから供与してもらった車がある。明日迎えに行く。」

「お前、車を持っていたのか…それは楽しみだ。」


楽しそうな振りをしようと思ったが、全く不成功に終わったグラーフェンだった。

そして翌日にグラーフェンはゾルダーの運転でル・シュテルの元を訪ね、新品のAK-47を渡され、地下の射撃場でその銃の試し打ちを経験し、複雑な表情となった。つまり、ゾルダーが言うガルディシア帝国に未来が無い事を実感しつつあったのである。


そして、ル・シュテルは語った。

既に、中国人達はエウグスト人特殊部隊によって殲滅され、これらの銃を量産し配備まで一貫してル・シュテルが行っている事、その背後にはニッポンが居る事を。

寒気が止まりません…が、総合評価300超えたので頑張ります。

読んで下さっている方々に感謝を込めて。

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― 新着の感想 ―
[一言] 反日中国人のせいで勝手に日本のせいにされてますね!
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