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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第三章 ガルディシア回天編】
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15.エウルレンからの脱出

エウグスト解放戦線とル・シュテルが和解したその夜。


「すいません、例の中国人を見失いました…」

「おいおいランバート…ていうかお前等3人も付いて逃げられたのか。」

「あいつ尾行を撒く方法知ってますよ。俺達3人付いて逃げ切るとか普通じゃないすわ。」

「むぅ…どこで見失った?」

「エウレルン市中央の辺りです。」


確かに今のエウルレン市の中央は日本程ではないにしても開発が進んでいる為、相当に人通りが激しい。しかも尾行されている事を前提に撒くための動きをされた場合は追跡は難しかった。だが、エンメルスはある程度、逃げる先の予測をつけていた。


「ランバート、お前は第三レイヤーから20人見繕って西のマルソー港方面を固めろ。恐らくここに来る。ヴァンサンはエウルレン北を第三から10人使ってで見張れ。ルーホンは東に第三から10人だ。一応念の為、トーアが第三から5人連れて監視しろ。俺は第二レイヤーを使って中央から狩り立てる。他の第一レイヤーはマルソーから直ぐに移動出来るように待機。」


あの中国人がこちらの力量を正確に把握しているのなら、エウルレン市内に留まった場合確実に捕縛されると予想するだろう。つまり、一刻も早くエウルレンを脱出しようとする筈だ。この大陸に居る間は、どこからか特殊部隊から狙われる日々が続くのだ。恐らく大陸に安全な場所は無いと判断している。そして奴は皇帝から追い出されている筈だから、南のザムセンに向かう事はしないだろう。そして最近のマルソーの入港事情から、日本行きの貨物船が頻繁に行き来している事から、それらの貨物船に密航して日本に戻る可能性は高い。


「必ず捕縛しろ。尚、生死は問わない。

 そして武器は拳銃までだ。消音装置を忘れるな。

 今夜中に狩るぞ、行け!」


そしてその頃のエウルレン市中央の繁華街は、電気の明かりが灯り煌々と夜の街を照らしていた。その明かりに照らされない様に移動する一人の男が居た。


漸く追跡を振り切ったけど、油断出来ないね…こちらを察知した瞬間からの動きは速かったけど、あいつ等の尾行技量低いのが幸いしたね。もしかしたら戦闘特化の部隊かもしれないね。ここに居るのはバレているだろうから常に移動しないと危険ね。さて取り合えず、これからどちらに向かうかね。


口ではそう言いつつも、既に李の行く方向は決まっていた。

エンメルスの予想通り、港に向かう為に移動を開始した。だが李と取った移動手段は、一旦エウレルン東の鉱山に潜入し、そこから石炭列車に乗り込み、マルソー近くの火力発電所からマルソー港に入る、という方法だった。何故、そんな回りくどい方法をとるのか?恐らく、高速道路や幹線道路は既に検問が引かれているだろうと李は推測した。しかも1本道なんぞで追跡されたら逃げきれない。だが、運搬列車はノーマークだろう。何故なら、炭鉱から出る列車はエウルレンを素通りし、マルソーまで直接入るからだ。つまり、エウルレンに居る限りは、この列車に乗る方法が無い。


まずエウルレン市から出る為には交通手段を確保するか、或いは徒歩だ。エウルレンでは馬車の需要は低下し、滅多に馬車が走る事は無い。たまに見かける馬車は殆どが他の土地から来たものだ。それが故に目立つ。車はタクシーが少量だが走り出すようになった。だが、タクシーは東の治安の関係から、夜はあまり走らず、しかも運転手は必ず武装している。普通の乗用車に乗るのも、ここでは未だ珍しい。走るのは商業利用可能なバンとかワゴンとかトラックの類ばかりだ。そこでトラックの荷台に潜り込んで、市の外まで出ようと画策した李は、トラックステーションまで移動し、砂利運搬用に見えるトラックの荷台に乗り込もうとした。


「こちらルーホン、東地区で対象発見。」

「…ん?東だな?詳細場所送れ。部隊送る。」

「了解。場所はトラックステーション、トラックの荷台に潜伏中。現在気付かれないように遠巻きに包囲しています。」

「あと3分で到着。監視継続しろ。」

「了解…あ、トラックの運転手が店から出てきた。…不味いな。」

「トラック止めろ。到着迄あと2分半。」

「トラックに乗り込んだ。エンジン始動。ナッターが止めに行ってます。」

「早くトラック止めろ!到着まであと1分半!」


ルーホン率いる10人の部隊は、気付かれないように遠巻きに監視していた事が裏目となった。包囲していた部隊の一人ナッターが、トラックに向かって走って行き、トラックに駆け寄ろうとした瞬間にトラックの荷台に潜んでいた李からの銃撃を受けた。李もサプレッサーを付けていた事から、トラックの運転手には何が起きているか分からない。


「対象発砲!!1名ダウン!!応戦します!」

「あと30秒で部隊到着!それまでにトラック止めろ!市から出すな!」

「ああっ、駄目だ、トラック移動開始!」


エンメルスは歯噛みした。こんな事ならスナイパーと車を配置しておくべきだった。たった一人しか居ないという事で舐めていた。そして部隊の機動力は全てマルソーに集中配備していたのだ。ここエウルレン市内には無い。送った部隊も駆け足で、現場に急行していた。つまりトラックに逃げられたら追跡出来ない。とんだ大失態だ。しくじった…


エンメルスが送った部隊が、現場に到着した時にはルーホンと9名の第三の部隊員、そしてナッターの遺体が残されていた。またも李はタッチの差で包囲を逃げ切ったのだった。そして李が乗ったトラックはエウルレン高速自動車道路に向かっていた。空の荷台なら東の鉱山行だ。砂利を満載しているなら、マルソーの港だ。今、李が乗っているトラックは空荷である。つまり東の鉱山に向かう筈だ。どうやらやっとツキが回ってきたようだ、と李は笑った。

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