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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第三章 ガルディシア回天編】
178/327

14.エウグストの今後

最終的に日本及びエウグスト関連部隊、ル・シュテル伯爵、エウグスト解放戦線の話合いで当座決まった事は、次の項目だった。


・解放戦線は、ル・シュテル伯爵、日本と協力する

・秘密武器工場は引き続き生産を続ける。

・秘密武器工場で生産された物は、伯爵関連の会社に納品する。

・解放戦線は、その会社から供給を受ける


つまり、解放戦線側としてはこれまで通りの武器供給を継続して受けられる。しかも伯爵領内に関しては、ほぼ摘発の恐れも無くなるのだ。ただ、大っぴらに行動してしまうとガルディシア側からの官憲の介入を招く。つまりはこれまで通り地下活動となる話だ。かつ、解放戦線は伯爵と日本側組織との協議によって活動方針や指針を決める事により、より効率的に独立活動を行う事となる。だが、解放戦線の上層部に関してはその合議状態を明かしても、下部組織には伏せられる事となった。下部組織への説明としては、エウグスト復興を願う有志パトロンによる解放戦線への活動支援。そのパトロンの安全を考え、情報封鎖をして捜査の手が及ばないようにしている事を了承しろ、という話だ。併せて出されたル・シュテル抹殺指令の撤回と、彼の裏切りの背後には何があったのかという話が流れ始めた事から、勘の良い者の中には、パトロンの一人にはル・シュテル伯爵も含まれているのだろう、と推測していた。


尚、マルソーにある秘密武器工場は実は困った事になっていた。

そこはガルディシア軍水準に合わせて武器の製造を行っていたのだ。ただ、ガルディシア軍の物よりも性能は高い。工作精度や設計の見直し等により、見た目は同じだが威力も射程も違う物に仕上がっていた。だが、中国人による密造武器工場で圧倒的に性能の良い銃である自動小銃56式自動歩槍、拳銃の54式手槍が密造されていた事が判明し、しかも相当の数が既にエウグスト人に渡っているのだ。


「この件は困りましたよねぇ…どうしましょうかね。」

「ニッポンの政府は何と?」

「当初のオーダーは"全て闇に葬る"ですねぇ。もうそういうレベルでは無く行き渡っている様ですから、今更皆さんの武器を取り上げて、全て忘れろ、とも言えませんしね。ちょっと上と相談しますね。ただ、私の考えなんですが…」

「タカダさんの考え?」

「ええ。この武器自体は中国人組織による密造品なんですよね。ですから製造に関しては日本の関与は無いんですよ。そして、その密造銃を作るように指示したのはガルディシアの皇帝なんですよね。まぁ、彼らを追い出したのも、その皇帝なんですが。で、それらを彼ら中国人組織は作れるようになった。」

「??…どういう事です?話が見えないんですが…?」

「つまり密造した武器の立ち位置はガルディシアの失策の結果。それが故に、その銃がエウグストで流通するのも原因はガルディシアに有り。文句があるなら自らを裁くと良い。日本は関係無い、と突っ撥ねる事も可能ではないか、と思うんですよねぇ。そうするなら、我々のマルソー工場ラインをAKに作り変えますし、解放戦線もレイヤー部隊も補給品が統一出来て大変結構な事になると思いまして。」


高田が危惧していたのは、日本と同等レベルの銃を供給してしまう事により、将来的に彼らと衝突した場合の被害の大きさに関する事、そして反ガルディシア組織に武器を日本が供給した、と責を問われる事。だが、こちらが製造工場を握る限り意図的に寿命を落としたり、精度を落とす事は可能だ。そして、そもそもその武器を作り上げたのは、ガルディシア皇帝の要求によって銃器を密造した中国人なのだ。日本政府ではない。その為、それらの製造に関する非難は回避が可能だろうし、組織の強化も図れるし、一石二鳥だろう、と思っていたが為に、工場を闇から闇に葬るのは反対であった。ル・シュテル伯爵はそこまで考えては居なかった。


「ああ、確かに補給の統一が出来れば、それは良いですね。ならば、弾薬製造と小銃と拳銃の製造は、それぞれで分担した方が効率的かもしれません。それと、それらを運んで納品する為の運送業者の設置と、それらを保管する倉庫の設置も必要ですね。」


彼は、マルソーの銃器工場とエウレルンの密造工場を統合した上で、それぞれに担当を振り分け銃器関連と弾薬関連の製造ラインを決めた上で、必要な機械の移動を行った。そして、双方の工場を一つの伯爵経営の関連会社扱いにした上で、公式に工場登録を行った。そして日本から借り受けたトラック数台を使い、運送業者を開設した。ル・シュテル伯爵は、今後起こるガルディシアの動乱後に銃器製造及び運送業と倉庫業で莫大な財を為す事となるのだが、それらのノウハウは実はこの時に培われたのだった。


「という訳で、私の考えが通るかどうか、ちょっと上と相談してきますね。」


そして高田は一旦席を外し、部屋には伯爵、エンメルス、ベール、レパード、モーリス、アレストンの6人が残された。レパードはアレストンに軽口を叩く。


「いやぁ、みんな理解してくれて助かったよ。じゃないと、なぁ…」

「おい、レパード。その話は無しだ。」

「…そうだったな、すまんエンメルス曹長。でも、本当に良かった。」


訝し気にアレストンがレパードを問いただす。


「どういう事だ、レパード。お前等まだ何か隠している事があるのか?」

「なんだ、疑り深いなアレストン。なんにもないよ。」

「こういう性分でな、そこは変えられん。そもそもお前、俺を最初からだまし討ちする積りで接近したな。」

「いや、それは悪かったよ。もう分かり合えたから勘弁してくれ。」

「例え良い事であっても騙されるのは気に入らん。何故、正直に俺に話さなかった。」

「そんな事言っても、お前この話をして素直にル・シュテル伯爵を許せたか?」

「そういう事を言っているのではい。だまし討ちは気に入らん。それだけだ。」

「勘弁してくれ、戦友。」


アレストンの直情的性格上、分かっても理解もしているのだが、騙されたという事だけが受け入れ難く、その対象となるレパードに恨みをぶつける他無いのだが、周りの人間はそれが薄っすら見えているので手を出し難い。だが、レパードはそれを気にする事も無く飄々と会話を続けていた。何故なら結果としては、アジトへの攻撃も無くなったので、別に拉致しなくとも良かったと言えば良かったのだが、せっかく出会えた戦友が死なずに済んだのだ。その事実だけで、彼は気が軽くなっていた。そこに、高田が戻ってくる。


「政府側から承認下りました。

 先ほどの私のプランで行きます。

 さぁ、忙しくなりますよ、皆さん!」


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