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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第三章 ガルディシア回天編】
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13.モーリス大尉との話し合い(強制)・後編

「あなた方は、ガルディシアとの戦争、つまりエウグスト戦役に負けた結果、国を失った。その戦争に負ける理由を作ったのはル・シュテル伯爵だと思っている。何故なら、彼の降伏によりガルディシアの進軍を阻む存在が無くなり、エウグスト軍主攻を担当していた中央軍集団が壊滅した。壊滅した事により東方戦線が崩壊し、エウグストは敗北した…という認識で合ってます?」


「ふん、俺達の歴史に詳しいな、ニッポン人。その通りだ。俺達が亡国の民と化した原因はそこの人の皮を被った薄汚い裏切り者のドブネズミ、ル・シュテル伯爵だ!!」


「ええとですね。あなたの認識は分かりましたよ、モーリス大尉。そこで質問です。あなたはどこの部隊に属していましたか?」


「それを聞いてなんとする。俺はエウグスト陸軍第一軍第14騎兵師団だ。」


「なるほど。もう少し歴史を語りましょうか。あなたの第14騎兵師団は軍司令の命を受け、ル・シュテル伯爵領域での徴発活動を担当なさってましたね?何故、徴発活動を?」


「それは、ガルディシアに占領されて全て奪われる位なら、先に我々が回収して有意義に…」


凄い顔をしてアレストンがモーリスを見ていた。

その視線に気が付いたモーリスは、更に弁明を重ねる。


「ま、待ってくれ!そもそも、その時の軍の判断に口を挟む地位も権力も無かったんだ。命令には逆らえん。それに、結果としてル・シュテルの裏切りがあったから、あそこの領内はその後安全となったが、もし裏切りが無ければ、結果ル・シュテル領はめちゃめちゃになった筈だ!」、


「そうなんですよねぇ。どちらにしてもめちゃめちゃになる筈だったんですねぇ。エウグストかガルディシアかによって。それともう一つ。降伏前にル・シュテル伯爵の奥方が領内の視察に行かれた際の出来事なんですが、覚えていますかね?」


「あ?ああ…不幸な出来事が起きたと記憶している。暴走した馬に轢かれた、と聞いたが…」


「伯爵は思い出すのも辛い出来事でしょうから、私の口から代りに言わせてもらいますね。

 ル・シュテル領東方で略奪を続けるエウグスト軍によって、それを止めようとした奥方は略奪をしていた兵からの辱めを受けました。奥方は貴族の女性としてその場で自害されました。それを知った伯爵は帝国に降伏したのですが、ご存知でしたか?」


「兵からの辱め…だと…?14騎兵師団が?」


モーリスは自分達の行動を思い出していた。

比較的モーリスの部隊は理性的に振る舞ってはいたが、やる事は徴発だ。素直に従わない領民も確かに居るには居たが…他の部隊はどうだか分からない。そういう輩も出る事は否定できない。寧ろ、徴発を行えば領民は当然反抗的になるのは当たり前だ。それに対する兵の態度も荒くなる。しかし…


「俺の部隊はやってない!俺達はやってないぞ!!!」


「軍は上意下達の組織です。嫌な命令でも従わなくてはなりませんし、それは理解します。その上で第14騎兵師団に所属していた貴方にお伺いします。自国の領民に略奪、暴行しておいて、それが国家の名の元に行われた事だから誰も何も罰せられない、という事はありますか?」


「それは…罰するも何も、その対象はガルディシアによって既に殺されているだろう。」


「そうなんですよねぇ。つまり、ル・シュテル伯爵を倒したい、殺したい、と言っているのは、別に伯爵が敗北の原因ではないのに伯爵がそこに生きているから、という事にあるのではないでしょうかね? そもそも伯爵がそういう行動をとった原因は、第14騎兵師団にあり、そこにそういう命令を出した者が敗北の主原因だと思うのですよ。その命令を出された方は既に亡くなっていると思いますがねぇ。」、


「…縄を解いてくれ。もう暴れない。

 伯爵。今まで大変に失礼な態度を取ってしまった。どう詫びてよいか分からないが、大変申し訳無かった。」


どこか悲しい雰囲気を纏いつつも表情一つ変えずに、初めて伯爵は口を開いた。


「いや、良いよ。既に終わった事だしね。君が関わっていた事では無いのだろうし。タカダさん、彼らの枷を外してもらって良いかな?」


「そうですね。これで相互理解の下地が作られたと判断して差し支えないと思います。」


エンメルスが彼ら二人の拘束を解き、モーリスとアレストンが縛られていた所を擦って解していると、改めてモーリスとアレストンは伯爵に詫びた。それを見ていた高田は彼らのやり取りが落ち着いた辺りで、再び話を始めた。


「さて、そろそろ本題に入りたく思いますが、宜しいでしょうかね?

 で、まずは我々日本の立場、そしてここに居るエンメルスが率いるエウグスト人部隊について説明しますね。我々日本は戦いたくありません。戦争が嫌いです。可能な限り平和的友好的に、取引が出来ればそれで良いのです。あとはお互いの文化交流とかですね。まず、そこをご理解下さい。」


「戦争が嫌いなのに、随分と戦闘力は高いよな。」


エンメルスが茶々を入れてくるが、無視して高田は続ける。


「そして、近隣諸国の情勢や政治体制。それらを鑑み、日本政府は判断しました。帝国主義であり膨張主義はやはり危険だと。そこで秘密裏に帝国の体制を転覆させようと画策しています。その足掛かりとしてル・シュテル伯爵への協力の元伯爵領内の近代化と我々の補給基地化。」


「それで帝都ザムセンよりも、伯爵領の方が発展しているのか…」


「そして、我々が直接介入してしまうと我々自身が帝国主義と化してしまいますからね。ですから直接介入しないように補助的な部分を強化しようとしてきました。その一つがエウグスト人部隊の創設です。彼、エンメルスを筆頭に、日本で訓練を施されたエウグスト人部隊が140名程居ます。」


「それが李さんが言っていた、日本の特殊部隊に鍛えられたエウグスト人部隊の事か。」


「慧眼ですよねぇ、彼。そこまで推測しているとはねぇ。

 ま、それは良いとして、以前起きたエウルレン市防衛戦の様に直接介入せざるを得ない場合を除き、我々が表に出ないようにして、帝国主義を内側から打倒し、平和な政治体制の社会を築いて貰えたら、という事を目的として日本は協力しています。ですが、そこに貴方方エウグスト解放戦線という組織が現れた。貴方方は、エウグストの解放を唱え、そしてル・シュテル伯爵の抹殺を唱えた。」


「ああ…そういう事か…いや、申し訳ない…」


「我々日本としては大変困っています。このままだと平和な世の中が来ないのです。」


「待ってくれ。分かったが、俺達は何をすれば良い?少なくとも、今日の伯爵に関わる話は、俺の責任で組織の中で今までの誤解を解くように動く。約束する。それでいいな?アレストン。」


「モーリス、お前は人を信じすぎる。話の内容は分かった。だが、俺が分からんのは、安全に商売する事を目的とするにしては全てに大仰過ぎる。このエウルレン市にしてもマルソーにしても相当投資している筈だ。防衛にかかった費用もきっと莫大なんだろう。ニッポンに隠された目的は何も無いのか?」


「儲ける為に投資するんですよ。投資に見合った回収が無ければ投資の意味がありません。そういう意味ではマルソーやエウルレンに行った投資に対する回収が全く見込めていない、いわば持ち出し状態ですね。でも、このマルソーやエウルレン、引いてはバラディア大陸に及ぶであろう投資の結果、そこから我々は利益と信頼を得る事が出来ると思っていますよ。私達は利益と足りない資源、あなた方は社会的インフラの充実と技術の先取り。そこは相互に栄えていきましょう、と思っています。それだけです。」


彼らの話合いは早朝に迄及んだ。

結果として、エウグスト解放戦線は日本との協力体制を結ぶ事となった。

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