10.方針の変更
エンメルス達が遠巻きに工場を監視する中で、中に居た中国人が慌てて走っていった。
…おいおい、確認しに来た工場に着いたと思ったら入れ替わりで工場の中から中国人飛び出してきだぞ。ランバート達が追跡しているが、こっちは取り合えずどうすっかね。取り合えずは工場の場所確認だけの予定なんだが、既に向こうは俺達に襲われる事を警戒しているっぽいな。今行ったら強襲か…無理だな。
「ランバート、中国人の逃げ込む先を確認しろ。見失うなよ。ヴァンサン、ルーホンはランバートの応援に行け。トアとトーマは引き続き工場監視。後で交代要員を送る。他全員撤収。」
ここは一旦引いてタカダさんと今後どうするか対応を協議だな。
確か当初の命令だと、関係者全員処分して武器工場爆破工作と聞いていたが、後から命令が更新されていた筈だ。更新された内容に関しては工場爆破工作は撤回されていた筈だ。戻って今一度方針確認しないとな。
そしてエンメルス達第一レイヤーは一度マルソーまで戻り、第二レイヤー集団と高田に合流した。そして、そこにはル・シュテル伯爵も同席していた。
「監視と追跡要員以外は全員集合したよ、タカダさん。」
「ん、了解です。ありがとう。
それでは皆さん、現行の命令を再確認します。
まずですね、当初の予定であった工場、これは生かします。武器の製造はそのまま続けます。但し、納品先は我々になります。製造者に関しては、現在中国人と朝鮮人が製造を担当していますが、これは全員処分します。こちらは当初の予定通りです。やり方はお任せしますがくれぐれも目立たないようにお願いします。次に、解放戦線への対応ですが…今、レパードさんが潜入していた筈ですが、戻ってます?」
「いますよ、タカダさん。」
「ああ、居ましたね。潜入ご苦労様でした。
でも再び解放戦線に戻って貰いますね、レパードさん。で、その際にはベールさんも一緒に潜入してください。で、解放戦線には我々の組織を一部知ってもらいます。その上で協力体制が可能かどうか説得してみてください。もし、協力体制が可能であれば良し。不可であれば、ベールさん指揮の元に解放戦線を無力化して下さい。それと、彼らには第一レイヤーの存在は秘匿してください。質問ありますか?」
「ええと、無力化は全員殲滅で良いのですか?」
「無力化です。各自で判断してください。
尚、今回の作戦に関しては、現地対応装備ではなく日式装備でお願いします。彼らの武装はこちらに匹敵するモノですので、対抗し得る装備で対抗します。」
「タカダさん。製造工場で働いている中国人以外は?」
「一旦拘束してください。そして近隣の使っていない監視部屋に連れ込んで説得です。説得が不可能の場合は、残念ながら総じて処分となります。尚、労働環境における待遇の改善に関しては応談可ですので、説得の材料に使って下さい。他に質問は?」
「…」
「無い様ですね。それでは、追加の命令を説明します。
エウグスト解放戦線に対して、ル・シュテル伯爵への抹殺指令を撤回させます。ただ、正面からああしろこうしろとこちらが高圧的に言っても絶対に聞きはしないでしょう。まず、この団体の指揮官と思われるモーリス大尉、彼を拉致してル・シュテル伯爵の元に連れてきます。その後の説得は私と伯爵がします。それとエンメルスも同席してください。彼に対しては、あくまでも客人として丁寧な対応を心掛けて下さい。こちらは第一レイヤー主体でお願いします。彼が現在居る場所は…」
「先程、アジトBに駆け込みました。」
「ありがとう。アジトBね…。今夜ここに急襲します。
それまでに建物内部の図面を入手してください。」
「タカダさん、アジトBなら俺が潜入した場所だ。もしかしたら連れだせるかもしれん。もう一人連れだしたい奴が居るんだが良いかい?」
「一人位増えても大丈夫ですよ。ちなみにどういう立場の人ですか?」
「前の戦いで俺達の前衛に居た奴だ。アレストンという元軍人なんだが。」
「分かりました。じゃ連れ出す先は…どこかの酒場?」
「エウルレン東にやつらの溜まり場の居酒屋あるので、そこに。連れ出すにしても、奴らが知っている場所の方が連れ出し易いでしょう。」
「分かりました、今夜連れ出してください。その対応は第一レイヤーで。今日連れ出せなければアジトBを強襲します。尚、レパードさんがモーリス大尉を連れ出すとしたら…ベールさんはそのままアジトBに残置して、建物内部を探って情報を送って下さい。ではみなさん、行動開始!」
「了解!」
一方その頃、レイヤーチームにアジトBと呼ばれていた建物の中では…
「李さんが直ぐ逃げたってどういう事だ?いや、今後の武器製造や供給はどうなるんだ!?」
皆が一斉に叫び出すも話す内容は全部一緒だ。これからどうする、それだけだ。
李さんとの少ない会話の中で判明した事を、モーリスは話した。
「李さんが言うには過去、一瞬のうちに彼ら中国人を昏倒させた部隊が居るという。彼が言うには、特殊部隊とかエスとか言う、またはそれに類似する連中らしい。そいつらと戦うのは、森の中で肉食獣を相手にする事と一緒だそうだ。そして、我々を狙っているのはそういう連中だ。更に李さんは言ったよ。このアジトの中で手練れを相当集めて戦うなら勝機はあるが、工場を守る為に戦うのなら勝機は全く無い、ってね。」
「馬鹿な…俺達も元軍人だぞ!?銃の扱いは慣れているし、戦い方も知っている!」
「お前それがニッポン人相手でもか?それに李さんが言うには特殊部隊のキルレシオは1対55らしいぞ。相手を一人倒すまでに、俺達55人が死ぬ訳だ。ちなみにここに55人も居るか?」
「なんだって…なんだそれ?ニッポン人だと??どういう事だ?」
「李さんの推測だが、指揮がニッポン人でエウグスト人を鍛えているんだろう、とか。その指揮している奴が特殊部隊の奴で、鍛えられているエウグスト人はその特殊部隊の戦闘能力を既に持っている、って事だと思う。」
「ニッポンが何で…」
「俺も詳しい事は分からん。言っている事は李さんが言った事だ。だが、その話が半分としても、俺達が工場で防衛しても確実に全滅するだろう。単純計算で相手が10人だとしたら、俺達は550人以上用意しなけりゃならん。あんな所で、そんなに人を用意出来る訳も無い。」
「それじゃ工場を守るなんて選択肢無いじゃないか…どうする、モーリス?」
「一番分からないのは、何で俺達がニッポンから攻撃を受けるって事だ。これは李さんの被害妄想かもしれんしな。一先ず攻撃されるかどうかはともかくとして、1日様子を見たい。この場所は知られてないだろうな?」
「分からん。だが、監視の目が入っていたのは1番アジトの方だ。あっちはレイって奴が揉め事起こした時に官憲が張り込んでいたからな。一応警戒しておいた方が良いか。」
「そうだな。屋上の監視塔に常時人入れて周辺の監視を頼む。俺はちょっと疲れたので休むよ。後は任せて良いか?何かあったら起してくれ。」
モーリスは突然降って湧いた難関に疲れ、休憩室に横になった。
だが神経が冴えて全く眠れなかった。
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