05.公式と非公式
第三レイヤーのレパードから連絡を受けた第二レイヤーのベールは、正直エウグスト解放戦線に関わる事をこれまでは時間の無駄だと思っていた。街中や街道を主張を叫びながら練り歩く集団。なんの役にも立たない癖に主張だけは声高だ。それをやってお前等の主張が通るなら、誰でも参加する事になるだろう。だが、そうならないのは目的に対しての手法が間違っているせいだろう、と思っていた。だが、何故か連中の勢力は、ベールの思惑に反してどんどん拡大していった。しかも拡大すると共に内容はどんどん過激になっていった。
だが武装していない連中が集まった所で大した力にはならない。だからこそ放置していても問題は無かった。しかし、その手法が変わるのなら、しかも看過出来ない内容となっているなら早急に対応しなければならないだろう。当初、レパードから連絡を受けた際には、新型の銃を持つ怪しげなエウグスト人が酒を飲んで暴れている、しかも仲間が多数いるので応援が欲しい、との事だった。
新型の銃?
俺達がニッポンから供与されたこの銃と同等か?
それとも同様の物がニッポンから供給されているのか?
わからん。わからんが気に入らん。
ベールは第二レイヤーの何人かを見繕い、銃と無線機を忍ばせレパードの居る居酒屋に向かった。だが、既に彼らは引き払った後でレパードは移動する旨、連絡を入れていた為に彼の姿も無い。東の方に向かうと言っていたな、と東に行く様に各員に連絡し、徒歩でそちらに向かう途中、レパードから再度通話が入った。その通話の内容は、モーリス大尉とやらを首班とする解放戦線の連中からの、いわばレパードを勧誘する話だった。その話の大部分はヨタ話で済むが、ニッポンの武器にも対抗し得る、という部分だけは看過出来ない。その話が本当なら、その銃の出所は一体どこから出てきたのだ?我々の文明圏では無いのは確実だ。だが、ニッポンのモノではないのか、それともニッポンも一枚岩ではなく、何かニッポンに別勢力があるのか?悩むベールの元に、無線機からひと言、潜入入るとレパードから連絡が入った。恐らく以降は暫く彼から連絡が来る事も無いだろう。だが、この周辺に網を張っておかなくてはならない。ベール達は一旦マルソーまで戻って、体制を整える事とした。
そして数日後、レパードの連絡を待ちつつ周辺の建物を何件か確保し、何かあった場合には直ぐに近隣で集合可能な体制をとっていたベール達の元にレパードから連絡が入った。
「連絡出来ずに済まん。解放戦線に潜入成功した。奴らは銃とか小銃を密造している。だが、銃はどうやら日本からの亡命者の中国人が協力しているらしいが、この辺りはタカダさんに確認してくれ。威力はニッポンの兵器並みだ。どこで銃を作っているかは幹部と銃関係専属の連中しか分からん。そこまで探る。それまでは警戒して欲しい、以上。」
亡命者の中国人だと?
それは以前ガルディシアの皇帝に取り入ってゾルダーを嵌めようとした挙句に、エンメルス曹長達に一瞬に制圧されたという、あの連中か?だが…そうなると、出身はニッポンという事になる。あの連中の知識がニッポンと同等と考えるなら、威力も性能もニッポンの銃と等しいと考えて間違いは無いだろう。これはやっかいな事になるぞ…そして、ベールは直ぐにエンメルスに連絡を入れた。
「エンメルス?ベールだ、今どこに居る?」
「今はニッポンに居るよ。どうした?」
「こっちに来れるか?厄介な問題が起きた。タカダさんにも連絡して欲しい。」
「タカダさんに連絡とはどんな事が起きた?」
「亡命した中国人が銃を作って解放戦線にバラ撒いているらしい。」
「あいつらか!ちっ、あの時に殺しておくんだった…」
やっぱり話に聞いたあの連中と同一の奴らだったか。だが、今更言っても遅い。それはともかく今後はどう動いたら良いのかを確認しなければならない。
「一応第三のレパードが潜入して探りを入れてる。今の所は噂のレベルだがニッポンの銃器と同等の威力があるらしい。だが、仮に中国人だけを押さえるならともかく、銃の供給元を断つ動きをした場合、エウグスト解放戦線からはどの程度の報復があるかは分からん。俺達の正体も分からんだろうから、ル・シュテルに対して無差別攻撃をするかもしれん。」
「うーむ…まずは上に確認してから、恐らくそっちに向かう事になるだろう。それまでは迂闊に動くな。監視に留めろ。」
「了解だ。急いでくれ。」
マルソーにはレイヤー部隊用の銃器製造工場があり言わば中国人と同様の事をしているのだが、その周辺は部隊のアジトとなっており、そこには第二と第三レイヤーが常に警戒しつつ監視をしている。だが、中国人による銃器密造が発覚して以降、第三レイヤーの半分余りがエウルレン東のレパードが消えた辺りに潜伏して調査と監視を始めていたのだが、一向にレパードの足取りは掴めない。恐らく解放戦線とやらのアジトに入って出る機会が無いようだった。
翌日、マルソーの飛行場に1機の自衛隊の輸送機C-2が第一レイヤー部隊24名と高田を運んできた。早速高田達はマルソーのアジトに直行して今後の方針を伝えた後に、そのまま高田だけがル・シュテル伯爵の城へと向かった。
ベールは高田からというより日本政府の方針を聞いて余り納得は出来なかった。
何故ならば、日本国政府の方針としてはエウグストが独立する事は歓迎する事ではあったが、その独立に表立って干渉なり手助けなりをするつもりは無い事の確認と、レイヤー部隊がエウグスト解放戦線と対峙する事も望まない、という事だった。つまり平たく言うと手出しはするな、という事である。…公式には。
だが、非公式には中国人達がガルディシアで日本に対抗し得る銃を密造する事は許されない。その為、早急に製造工場を発見し、そこを秘密裏に破壊せよという事だった。しかも、我々の攻撃の痕跡を残さず、あくまでも彼らの不手際によって破壊する様に工作せよ、という事だ。その方法は任せるが必ず遂行する為に、第一レイヤー部隊も作戦に参加する事となった。
ベールは、基本的にはエウグストを独立する事自体には賛成である。
だが、それには日本の後ろ盾が必要だ。しかし彼らはその後ろ盾には成らない事を表明した。そして、中国人だろうと誰だろうと作った銃の出所はともかく、その銃があればエウグストの独立は一歩進む筈だ。何故ならばガルディシアでは、この武器に対抗出来ない。その武器を作る所を潰す?それはすなわち俺達が力を得る機会を潰す、という事か?ベールは納得出来なかった。
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一体何が起きているのでしょうか???